□「僕」以外の人
「そこに、穴を空けてもいいんですか?」
僕は男に聞いた。男は微笑んだ。
「君が望んだことじゃない」
男にそう言われると、なんだかそうしないといけないような、不思議な気分になった。これで男の体には、両手両足、脇腹と、合計五つの穴が空く。
「平気なんですか?」
僕は自分がした質問の愚かさに、いやけがした。平気なわけはないのだ、そんなことをされて。しかし、男はそんなことに意を介さず、返事をする。
「平気だよ」
男の目は優しい。とてもおだやかだ。両手と両足に、穴を空けられても尚。男はゆっくりと繰り返す。
「平気なんだ、本当に。それで誰かを助けられるなら、僕はそれでいいんだ」
「そうですか」
「それに、僕に穴を空けたのは君だけじゃないよ」
男は、僕を慰めるのに、余計な注釈も付け加える。
「今まで、いろんな人が僕に穴を空けていった。その人たちは、君よりももうちょっと乱暴にしたり、あるいは、もっと丁寧に時間をかけたりして、僕に穴をあけてくれた。痛いことには変わりなかったけど」
男はもう一度、自分の脇腹を撫でて、見せつける。
「だから、遠慮なんてしなくていいんだよ。君は今までの人と同じように、僕に穴をあければいい」
僕は男の、傷一つない腹を見る。
よく、ナイフが刺さりそうな腹だと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます