□「僕」以外の人

「そこに、穴を空けてもいいんですか?」

 僕は男に聞いた。男は微笑んだ。

「君が望んだことじゃない」

 男にそう言われると、なんだかそうしないといけないような、不思議な気分になった。これで男の体には、両手両足、脇腹と、合計五つの穴が空く。

「平気なんですか?」

 僕は自分がした質問の愚かさに、いやけがした。平気なわけはないのだ、そんなことをされて。しかし、男はそんなことに意を介さず、返事をする。

「平気だよ」

 男の目は優しい。とてもおだやかだ。両手と両足に、穴を空けられても尚。男はゆっくりと繰り返す。

「平気なんだ、本当に。それで誰かを助けられるなら、僕はそれでいいんだ」

「そうですか」

「それに、僕に穴を空けたのは君だけじゃないよ」

 男は、僕を慰めるのに、余計な注釈も付け加える。

「今まで、いろんな人が僕に穴を空けていった。その人たちは、君よりももうちょっと乱暴にしたり、あるいは、もっと丁寧に時間をかけたりして、僕に穴をあけてくれた。痛いことには変わりなかったけど」

 男はもう一度、自分の脇腹を撫でて、見せつける。

「だから、遠慮なんてしなくていいんだよ。君は今までの人と同じように、僕に穴をあければいい」

 僕は男の、傷一つない腹を見る。

 よく、ナイフが刺さりそうな腹だと思った。

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