くだん
体が牛で顔が人間という姿の化け物をくだんと呼ぶ。予言をする。
大学を卒業してすぐ、引っ越したマンションの部屋に牛の顔のマスクを被ったスーツ姿の幽霊がいた。男のようだった。
若干人の入れ替りが多い部屋と聞いていたが、多分この牛頭のせいだろう。
最初は夢に出てきてうなされる程度のイタズラしかされなかったが、ある日残業して帰宅するとその牛頭の男がキッチンに立っていた。
最初は不審者かと思い叫びそうになったが、牛頭は突如霧のように消えた。
そこでこれは心霊現象であると気付いた。
引っ越した時に恋人がろくに飲みもしないのに「お祝い」と言って買ってきた安い日本酒をキッチンの空いたスペースに置いた。
その日の夢に牛頭が出てきた。
きちんと正座した彼は「お酒よりも綺麗な水が飲みたい」と言ったので、翌朝未開封のペットボトルを置いた。時々新しい物に替えた。
それからは牛頭にうなされたり驚かされたりする事はなくなった。
時々夢に出てきて「暑いから出掛ける時にトイレの小窓だけでよいので開けて行って欲しい」とか「昨日買ったチーズをひとかけらだか水と一緒に置いて欲しい」といった要望を言ってくる程度で、それを叶えれば悪い事は起きなかった。
うっかり約束を忘れた日に何もない場所で転んでストッキングが伝線してしまい、それ以来牛頭の言うことは忘れないようにした。
牛頭の幽霊がいる、以外は特に不便のないマンションだったので、なんだかんだで長く住んだ。
恋人と結婚の話が出た時、牛頭が夢に出てきて渋い顔で「その男は止めておけ」と言った。
程なくして浮気が判明し破談になった。
その後、友人の紹介で付き合い始めた別の男性に関しては何も言って来なかった。
そしていよいよその人との結婚が決まりマンションを引き払う事になった前夜、牛頭は言った。
「ひとりめは難産になるからお大事に。元気な女の子だよ、彼も可愛がってくれる」
そして消えた。
牛頭の言う通りになった。
多分今もあのマンションに牛頭は住んでいる。
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