異世界でニートは英雄になる

相原つばさ

第〇話 悪夢と死

 第一章


 平和はいずれ、終わりを迎える。平穏の国と呼ばれていたこの国も、警報のサイレンが鳴り響き、国中は混乱の渦である。やがて攻撃を受け、周りは火の海と化す。

 そんな中、とある五人組は一人の少女を守るため、必死に戦っていた。


「く――っ! 力の差が違いすぎる!」


 彼らは命を懸けて戦った。


「負けるもんか! こいつなんかに!」


 運命に逆らう為、必死に。


「ウチ達でこの国を、――を守るのよ!」


 だが――


「ハァハァ……くそ! 何でこんな事に……」


 彼女らは死んでいった。たった一人の男によって。残されたのは、様々な死地を潜り抜け生きてきた男。そんな彼も、限界が来ていた。


「くそがっ!」


 彼は男に向かって走り、自身の剣を振る。だが、どの攻撃も躱されてしまい、終いには左腕を失う羽目になった。

 それでも彼は必死に剣を振る。血の海となった彼女達の屍を走り抜ける。大切なものを守るため。

 だが、そんな思いは虚しく散る事となる。


「ぐはぁっ!」


 片腕しかない単調な攻撃を躱され、右脚を斬り落とされる。彼は自分の足が身体と離れていくのを見ると、思い切り脇腹を蹴られ、木に衝突する。その時、背中からゴキッという変な音と、とてつもない激痛が走った。その瞬間、背中の感覚が一気になくなる。

 彼は地に伏せ、目の前に現れた男を見上げようとする。だが、いくら頑張っても腰より上を見上げることが出来ない。


 ――完全に背骨を持っていかれた……


 彼の身体はもうボロボロだった。顔は痣だらけで背骨は完全に折れ、左腕と右脚を失った。

 それでも、後ろにいる彼女を守ろうと必死に動こうとする。だが、身体は言う事を聞かず、びくともしない。


 ――やばい……意識が……


 意識が遠のいていく中、彼女の声が聞こえた。


「――ガ! ――イガ!!」

「あ……がっ……」


 ――来るな! 来てはダメだ!!


 声もまともに出ない。あまつさえ、耳も遠くなっていく。視界も霞む。だが、これだけはハッキリと見えた。男が彼の剣を手に持ち、その剣の刃を近づいてくる彼女に向けた。


 ――止めろ! 止めてくれ!!


「さらばだ。ドルメサ王国国王」


 その瞬間、スパンッとした音が鳴り、力を振り絞ってそちらを見る。すると、彼に近寄ってきた彼女の首と身体が、完全に斬り離されていた。


 ――何で……何でこうなるんだよ……!


 少しずつ意識が飛んでいく中、彼はそれを見る事しか出来なかった。

 そして首を切った男はその頭を持って彼の下へとやってくる。


「なん……でだよ……」


 声も全く出せず、涙しか出てこない。彼は身体と切り離された彼女の首を見る。


「見ろ。貴様達が必死に守ろうとした、国王――女王の首だ」


 そう言って彼女の頭を見せつける。彼が好きな、綺麗な青い瞳には光が失われている。


「実に無様な姿よ。女王一人救う事が出来ないとは。貴様は今まで、夢を見て事前に解決したかもしれんが、圧倒的な力の前では、夢を――運命を変える事なんて出来ないんだよ」


 男は彼を蔑んだ目で見る。


「どうやら、貴様の中にいたこいつの兄も、完全に息を引き取ったみたいだな」


 男は彼女の首を投げ捨て、先程斬首に使われた彼の剣を、今度は彼自身の首に刃を向ける。


「女王を斬った貴様の剣で、女王と同じ場所に逝かせてやろう。その方が、貴様も嬉しいだろう?」


 彼は死ぬ間際まで、彼女と彼の仲間達、今までの出来事を思いだしていた。

 そして彼は再び一筋の涙を流す。


「さらばだ。英雄よ」


 ――ごめんな、俺はお前を、お前達を救う事が出来なかった。初めて愛した君を、護れなかった。あいつと約束したのに、また守れなかった。そんな俺でも、もし天国に行く事が出来るなら、お前達が許してくれるなら、もう一度……


 彼はそう思いながら、目を閉じた。


 ――君と同じ所で、みんなで笑って、あの頃みたいな生活を、続け……たいな……


 刹那、彼の首が宙を舞った。



 ヤマト・タイガ。一六歳という若さで国の英雄である彼が、この世を去った瞬間だった。

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