第35話 異世界の食事
一旦元寄宿舎現倉庫である現宿屋に戻って買ったばかりの服に着替えた。
「思っていたよりは着心地は悪くないけど、やっぱごわつくな、これ。柔軟剤を使って洗ったらもっと良くなるか?」
服の着心地を確かめながら再び村歩きに勤しんでいる。
シャツはそれほど気にならなかったがズボンはすれる部分が痒痛い。洗い方で少しは良くなりそうだが、インナーパンツは買っておいた方がいいかもしれない。
「しかし・・・・・・・どう見てもコスプレだよな」
日本最大のオタク祭典でいそうな恰好だ・・・・・・いや村人Aをやる人なんて流石にいな・・・・くもないかも。あそこの住人はかなりマニアックだからな。
ともあれ自分の恰好の違和感が半端無い。思わず苦笑いが出る。
「さて飯屋を探してはみたが・・・・全部がテントだからどれが店か分かんないのが問題だな」
いやそもそも開拓村に店は存在するのか怪しい。
ぶらぶらと村内を歩きながら見て回ったが、あるのはどれもこれも似たようなテントばかり、違う建物と言えば俺の居る倉庫とさっきの露店だけかもしれない。
「さっきリンゴも買えばよかったか」
唯一見つけた食べる物といえばそれくらいしかない。だがリンゴだけで腹を満たすのも折角人里に来たのにわびしいしな。
ぐぅと鳴る腹を摩りながら歩いていると、「おや、お前さんさっきの男か」としわがれた声が背中からかけられた。
聞き覚えのある声に振り返ると、声を掛けてきたのは門番紛いの寸劇爺さんだった。
ティルルさんに怒られたためか槍では無く普通の木の杖を持っている。
「あぁ、先程はどうも」
ぺこりとお辞儀。
「ハルさんだったな。あれだの、何と言うか、普通になったの」
語弊のある言い方だ。
「えぇそこで先ほど服を売っていただきました」
「それはよかったのぉ。ここに商人が来ることなどまずなかったからお前さんは運がえぇ」
買った服を摘まみそれを行商人から買ったと伝えると、ポックリンさんは好々爺しかりと顔を綻ばせる。あの時の警戒心は何処へ行ったのやら。
そう言えばと丁度良かったので俺はポックリンさんに訊いてみることにした。
「食事ができる場所は無いですかね?」
「おぉあるぞ。儂もこれから食べに行くところだったから一緒にいくかの?」
「あるんですか!? それなら一緒させてもらってもいいですか」
「店、という訳では無いがの。独り身の者の為に作って食べさせてくれるところがあるのじゃよ」
「それは私が行っても大丈夫なんですかね?」
「問題無い。どれこっちじゃ」
駄目元で訊いてみたのだがどうやら食事が出来るところがあるらしい。しかもポックリンさんが案内してくれる親切付き。
こいこいと手招きするポックリンさんに従い後を追う。
やってきたのはやっぱりテント。ただ他のテントより一回りは大きい。
「ここは村長の家じゃ」
「え、村長のお宅ですか?」
「おぉ、そうじゃ。村長の奥さんが忙しい住人たちに代わって飯を振舞っておる」
「なるほど、でもそれに私が入っても大丈夫なのですか」
「じゃから問題無いといっておるだろ。まぁ村民と違って金はとられるがのぉ。お邪魔するぞい」
「・・・・し、失礼します」
扉もとい布を開けて中に入るとそこは結構にぎやかだった。
テントのわりには開けたスペースにテーブルがいくつか並んでおり、複数人の村人が食事をしながら話に華を咲かせている。
中は結構明るかった。倉庫と違ってランプが天井に複数ぶら下がっている。
村民たちが飲んでいるのはお酒だろうか? 顔も心なしか赤いし酔っぱらっているっぽい。
「へぇお酒も置いてあるんですね」
「鋭気と活力。それが無いと開拓なんて出来やせんよ。体力だけあっても気持ちがなえてしまったら終わりだからの。食料の仕入れの時には酒も欠かさず入れてもらう、それがわし達がここへ来るとき領主様と交わした約束の一つでもあるのじゃよ。ほれ、こっちの席が空いておる」
席に着くと女性が一人やってきた。
「おやポックリンさん、そちらさんは今日ティルルちゃんが言っていたあれかい?」
恰幅が良く豪快そうな女性だ。
「そうじゃ。ティルルちゃんが連れてきた旅人のハルさんじゃ」
「そうかい。悪いね、あんな汚いところしかなくて。あそこで構わないなら何時までも居てくれて構わないよ。何ならそのままここに居ついてもらってもいいんだよ」
そう言って村長夫人は豪快に笑う。
「ハルって言います。今日はお世話になります」
「おや、随分と丁寧な言葉遣いをする冒険者だね」
肝っ玉母ちゃんみたいな村長婦人に気後れしながら挨拶すると、感心したように俺を見る。
印象としては面倒見がよさそうなおばさんだ。それと思っていた以上に力強い。狼どもでもビクともしなかったのに、背中をバンバンと叩かれて超痛い。
ポックリンさんと村長婦人が一頻り喋った所で注文をした。
料理は選べないらしくその日の決まったものが出てくるとのこと。
追加で頼めるのはお酒だけ。お酒はエールらしく俺はポックリンさんと2人分エールを注文した。
村民の食事代は基本無料らしいのだが、お酒は村民であっても有料なのだとか。
なので連れてきてもらったお礼として俺がポックリンさんに酒をおごることにした。
因みに料理は8ゴルでエールは1杯10ゴルと高い。それだけお酒は貴重なのだろう。
「はいよ、エール2つお待ち」
「おぉ待ってました!」
ポックリンさんは酒好きなのか村長婦人が持ってきた木のジョッキを嬉しそうに受け取るとそのまま喉を鳴らして飲む。
乾杯とかはないらしい。
どれ、俺も早速飲んでみるか。
美味しそうに喉を鳴らすぽっくりんさんにつられてジョッキを傾ける。
・・・・・・・・・・・・ま、不味い。
ビールよりも大分酸味が強い。まるでお酢でも入れたような味だ。
炭酸も無く温度も常温なので喉越しも良くない。酸味がある分舌と喉に纏わりつくような感じが残る。
度数はあまり強くはなさうだがどこの味と温さで悪酔いしそうだ。
「なんじゃ、ハルさんは酒が苦手かの」
酒の不味さが思いっきり顔に出てしまったらしい。
ポックリンさんに笑われてしまった。
「いえ、お酒はそれなりに好きなのですが、このエールってのは初めてで・・・・・これは冷やして飲んだりはしないんですか?」
せめて冷たければ飲めなくも無さそうだが、これは無理だ。
ドイツなんかは常温のビール飲むなんて話も聞いたことあるが、これはそもそもそれ以前の問題で、常温であるがゆえに酸っぱい臭いがまず鼻について咽そうになる。
独特の酸味に思わず口をとがらせ馴染めない飲み物を無理やり喉へと押しやっていると、ポックリンさんは見るからに顔を蒼褪めさせ目を見開いていた。
「ハルさん・・・・あ、あんたもしかして、貴族様なんじゃろうか?」
「・・・・え? 違いますけど?」
髭に見事な泡を付けポックリンさんは震えた声で何故か俺が貴族かと聞いてきた。
この世界に貴族が居る事はティルルさんとの会話で知っていたけど、なんで俺?
意味が分からず首を傾げる。否定する言葉も疑問形になってしまった。
だが俺が否定を口にするとポックリンさんはアルコールと酸味の混ざった息を重々しく吐き出し安堵の表情になる。
「はぁ、焦ったわい。物を冷やす魔道具など貴族様くらいしか使わんからな。王都や大きな高級食堂ならいざ知らず、こんな開拓村程度にはまず無い代物じゃ。それを当たり前の様にハルさんが言うもんじゃから、わしはてっきり・・・・」
あぁ・・・・なるほど。
要はここの文明だと物を冷やすのは簡単じゃないのだろう。だからエールが冷えていればと口にした俺を、冷やすことができる生活をしていた存在、つまり貴族だと思ったわけだ。
「誤解を生んだみたいですみません。単純に冷たい方が美味しいんだろうなと想像しただけで、冷やしたのを呑んだことが有る訳では無いですよ」
などと適当に誤魔化す。
しかし物を冷やす魔道具、ね。
やっぱりそういうのがここにはあるのか。だとすれば魔法は普通にあるってことだから、何れ俺が魔法スキルを獲得しても目立つことは無いか。
「はいおまちどうさん」
ポックリンさんへの誤解が解けたタイミングで威勢の良い村長婦人の掛け声とともに食事がテーブルへと並べられた。
出てきた料理は見た目とても質素なもの。
パン3切れとスープだけだ。
パンは良く聞く黒パンってやつだろう。
一般的に黒パンはライ麦を使ったパンでしっかりとした触感が特徴的だ。
見た感じでは多分それに近い。あと製粉がそれほど良くないのだろう、皮などが混ざってなおの事黒ずんでいて見るからに堅そうだ。
スープは大きくカットされた野菜がどっさりと入っていて食いごたえはありそうだ。
よく見ると何だか良く分からない肉も入っている。
ただ湯気と一緒に運ばれる香りはすごく良い。
食欲がそそられる匂いだ。
「今日は兎が狩れたからね」
「ほぉそうかい。兎とは、彼女らも狩りが上手くなったもんだね」
どうやら中に使用されている肉は兎のものらしい。それを聞いてモンスターの肉じゃない事にほっとしつつ、あの可愛らしい姿が頭にちらついて食べるのをためらってしまう。
ジビエでは定番なんだし・・・・。
そう自分に言い聞かせ恐る恐ると肉入りのスープをスプーンで掬う。
初の異世界料理・・・・・食さない訳にはいかない!
妙な意気込みにスープをすする。
「!?」
するとどうだ。じんわりと柔らかなうまみが口いっぱいに広がるじゃないか。
野菜の旨味も確りとしみ出ていて、あっさりな塩味でありながら味わいは実に濃厚に感じる。何より肉の出汁が効いているように思える。
臭みは一切ない。もっと獣臭さがあるのかと思ったが全くそんなことは無く、優しい甘みとコクが出ている。
飲み込むと空っぽの胃袋をじんわりと温めてくれる。
兎の肉を掬って食べてみれば思った以上に柔らかい。
きっと下処理と煮込みに時間をかけているのだろう
控えめに言っても美味い!
エールがちょっとあれだっただけに身構えていたのだが、これがかなりいける。
パンを手に取ってみると改めてその堅さを実感する。とてもそのまま食べられるとは思えない強度が指に伝わってくる。
ポックリンさんを見てみればパンをスープに浸して食べていた。
俺もそれに習って食べてみる。
・・・・・・。
ほほぉ、これもなかなかどうして。
パン自体麦の香ばしさが確りとしている。そこにスープの味がしみ込む事によってまた違った味わいとなってうまい。
これ多分ライ麦だけじゃ無くて別な穀物か木の実が入っているんじゃないだろうか。
むっちりとした歯ごたえにアクセントのようにコリッとした触感がまたたまらない。
余計な調味料を使っていない正にオーガニックな料理。
化学調味料では出せない自然な旨味がたまらない。
「おいしい」
自然と笑みもこぼれてる。
「あっはははは、そう言ってもらえるとうれしいね!」
俺の自然な言葉に村長夫人が豪快な笑い声をあげた。
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