第46話 新人討伐研修1
「会員登録にあたり、魔物の討伐依頼を請け負う会員には研修を受けてもらわなければなりませんが、あなたはどういたしますか?」
もう終わりかなと思っていたら、受付のおっさんそんな事を言った。
「研修、ですか?」
「はい。初心者の方はどうしても自分の実力を見誤った無謀をする方が多くて、当ギルドといたしましても無下に会員の身を危険にさらすわけにもいきません。それに効率よくかつ多くの素材を持ち帰っていただくために、実践を踏まえた研修を皆さんに受けていただいております。これを受けない方の討伐依頼の受託はお断りしています」
それは困る。俺がギルドを利用するとしたら素材の売却が一番多いだろうから。
「受けさせてもらいます。それは今日これからで?」
「今日の受付は終了しておりますので、ちょっと待ってくださいね・・・・・・・えぇと、明日のでしたら空きがあるので行けますね」
「明日ですね。分かりました、それでお願いします」
「では、明日の朝こちらにいらしてください」
「はい・・・・・ん?」
今度こそ終わりだなと踵を返し帰ろうとすると、入り口の扉が開かれて何人かが入ってきた。
そろいの鎧を着た兵士風の男二人が先導するように前を歩き、その後ろから如何にも高そうな衣装を纏った中年男と白い全身鎧を着た女性が続いて入っていた。
兵士風の男二人は護衛なのだろうか。誰も近づくなと威嚇をしてくる様はまるでガラの悪いヤンキーのようだ。
男たちはまっすぐ受付のおっさんの所、つまりは俺がいる場所へと向かってきた。
「邪魔だどけ!」
「痛!!」
ヤンキー兵士に強引に押しのけられ、不意を突かれた俺は無様にしりもちをついていた。
「やぁ、やぁ、忙しいとこ申し訳ないねぇ」
そんな俺のことなど全く気にする様子もなく、高そうな服を着た男は受付のおっさんに話掛ける。一見丁寧に思えるが、その口調と表情は人を馬鹿にしたような厭らしさを感じさせるもの。
受付のおっさんは突然の来訪に唖然としていたが、ゴージャス男の顔を見て慌てて立ち上がった。
「代官エルディン様」
お辞儀をする受付のおっさん。その勢いは凄く、危うくカウンターに頭を打ち付けそうなほど。
代官・・・・代官っていうとあれだろうか?
領主に代わって街を収める役人、みたいな?
まぁ偉い人なんだろうなというのは直ぐに分かる。
この手の輩は大概絡むと良くない事が起こる。なのでここは文句など言わずにそそくさと立ち去るのが一番の得策だ。
打ち付けたお尻をさすりながら立ち上がると妙に突き刺さる視線を感じた。
それはエルディンとか言うゴージャスおっさんの隣の白鎧の女性からだった。
きれいな金髪を肩口でそろえた、いわゆるボブカットヘアーの女性。切れ長の瞳に白い肌は美人というにふさわしい容貌をしている。
思わずドキッとした。
これは出会いの予感が、と思ったのも束の間、女性が放った一言でその淡い期待は霧散する。
「そこのゴミ、目障りだ消えうせろ!」
・・・・・・・おっく、なんてこったい。
出会いどころか、こいつは近寄ってはいけないタイプじゃないか。危険人物に相違なし。
「うむ、うむ、ギルド長はいたかねぇ? 領主様からの緊急の案件を伝えに来たのだよ」
「ギ、ギルド長でございますか。ご用件を伺っても」
恐る恐るといった感じで受付のおっさんが要件を訊くと、ゴージャスおっさんエルディンは明らかな不機嫌を顔に出した。
「君如きに話す事ではないのですがねぇ。まぁいいでしょう、いいでしょう。これは王命を含んだものですので速やかに対処してもらいたいのですよぉ。ですから、間違いの無いようにギルド長にお願いしたいのです」
「はい、ただいま呼んでまいります」
エルディンが一枚の紙を受け付けのおっさんに広げ見せると、それを見た受付のおっさんは慌てて置くの方へと消えていった。
これ以上ここにいても良い事がなさそうだったので、俺はギルドを出ていった。
翌日の朝、言われた通りギルドへと再び赴く。昨日とは打って変わってギルド内は人であふれていた。
「ずいぶんと多いんだな」
殆どがあのパーティション、多分依頼掲示板の所に集まっている。朝依頼を受けて日中にそれを片付けるのが一般的なスタイルなんだろうな。
ただ不思議なのが掲示板を見ているほとんどの冒険者が一か所に集まっていることだ。
「人気の依頼でもあるのか? ま、俺にはまだ関係ないか」
そんな人込みをしり目に昨日の受付のおっさんのもとへと真直ぐ向かうと、気付いたおっさんが「待ってましたよ」と手招きをした。
「遅かったですか?」
「いえ、ちょうどいいタイミングでした。皆さん集まったところですので。こちへどうぞ」
そう言って向かって左手の部屋へと案内される。当初は腹こそ立ったが、慣れるとこのおっさんの対応は簡素で分かりやすいので良いのかもしれない。
促されるままドアを開けて部屋に入ると、そこには10人ほど集まっていた。
俺が中に入ると一斉にこっちを見る。ちょっと怖い。
「では揃いましたので、これより新人討伐研修を行います。今回の研修で指導してくれるのは3等級会員の”片翼の獅子”の皆さんです」
「片翼の獅子、リーダーのジョシュアンだ。今日のみんなの指導と監視を任されている。安全の為にも僕らの指示に従って行動してほしい」
受付のおっさんの紹介にさわやかに挨拶をする赤毛の青年。ジョシュアンと名乗ったその青年はちょいイケメンだ。イケメンがさわやかっていうのは反則行為だと訴え出たい。
前に並んでいるジョシュアンさんを入れて4人が今回の引率する”片翼の獅子”のようで、ジョシュアンさんがメンバーを順に紹介していく。
「僕は見ての通り剣士だね。こっちの子はミラニラ。弓士」
「ミラニラよ」
ジョシュアンさんの紹介に軽く手を振るミラニラさん?ちゃんかな?は金髪の・・・・・・女の子?
随分と若く見えるけどいくつなんだろうか。ぱっと見中学生くらいに見える。まぁここは異世界だから成人が早いのかもしれない。
弓士ということは弓使いか。それで弦を弾けるのかと心配になるほどほっそりとした小柄な子だ。
どうやらミラニラさんはシャイなようで、挨拶すると直ぐにそっぽを向いてしまった。
「次が」
「ドランゴだ。中途半端な考えの奴は直ぐに帰れ!」
「ははは。ドランゴ、これはその考えをただすための研修なんだ。僕たちが現実の怖さや危険を教えてあげないといけないよ」
腕組みをして憮然とした表情でドランゴと呼ばれた男が不機嫌な声を上げた。それをジョシュアンさんが宥め諭している。また濃いキャラばかりが集まったパーティーだな。
このドランゴさんという男は一言で例えるなら筋肉チビだろうか。
がっちがっちの筋肉をしているんだけど、やたらと身長が低い。
「あ、ちなみに彼は大楯持ちの剣士で力持ちだよ。で、最後にクラリアン。彼女は貴重な魔術師なんだ」
っ!!
ま、魔術師・・・・・・・・きたぁぁぁぁ!!
ギルドに来ればと期待はしていたが、こんなに早く出会えるとは思ってもみなかった。
ティルルさんの話では魔法が使える人は相当少ないみたいだからな。
「・・・・・・・・・・」
「ク、クラリアン。挨拶くらいは・・・・・」
「・・・・どうも」
うぅん、でもお近づきになるのは難しそうだ。さっきのミラニラさんよりも愛想が悪い。
それにしてもほんと癖が強そうなパーティーメンバーたちだ。多分役割を見る限りこのジョシュアンさんがリーダーなんだろうけど。どうやらさわやかイケメンはなかなか苦労人のようだ。
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