第57話 戦後処理


ブリスロック隊の斉射からしばらく経ち、土煙が収まる頃にようやく戦場跡の全貌が見える。



青々としていたはずの草原が、土がむき出しで穴だらけの死の大地に変貌していた。


帝国兵の隣にいたはずの無傷のダンダム兵もとっくに遁走しており、立っている者は誰もいない。



「レイン。魔具を回収し、生き残りがいれば捕らえろ」


「承知」


影のように音もなく駆けだす忍者隊と入れ替わりで、ロイ達ブリスロック隊が警戒したまま戻ってきた。


「良くやった」


「ははっ。密集隊形でしたので第1射の効果が想定以上でした」


「被害状況は?」


「反動で右腕を痛めた者が2名のみです」


「⋯⋯上出来だ」


「ははっ」


上出来というかやり過ぎ感があるけど。


「サーラも良くやってくれた」


「⋯⋯ん!」


皆の役に立てた事が嬉しそうだ。ひとしきり頭を撫でると、エメリーヌもサーラちゃんを抱きしめていた。


「皆、良くやってくれた!帝国は見ての通りの有様だ!我々の勝利だ!」


この世界の戦争はどうなったら勝利なのか不明確だが、とりあえず勝利宣言だ。


皆の歓声と踏み鳴らす足音が、ようやく勝利した実感を与えてくれる。蓋を開けてみるとただの圧勝ではあったけれども皆無事に勝てて良かった。



後がないという重圧は想像以上だったのか、気が抜けて座り込んでしまう。


⋯⋯あれ?森羅達も飛んでる?


戦場跡に目をやるとピョンピョンと虫の様に跳ねている影が見えた。


誰かが教えたんだろうか⋯⋯。


「サーラ。忍者達に魔法を教えたのか?」


「ううん」

首が横に振られる。


「でも、見てた」


「⋯⋯そうか」

素養は持ってるし、見て覚えたのだろうか。危ないからちゃんと飛行訓練して欲しい。


帝国兵の生き残りは軽傷者15名、重傷者36名だけだった。逃げたのが2、30名いたそうなので死者が120名近くになる。魔術を使っていたのは3名だったが全て死亡との事だった。使える装備なども回収した。


捕らえた帝国兵は捕虜としても多すぎるので重傷者の応急手当だけ行い、ダンダムに返す事にした。


別段、帝国を皆殺しにしたい訳ではないのだ。戦場では容赦はしないが、それ以外で憎み合う構図にはしたくない。我々を容認してくれればそれでいい。



魔具を回収してきたレインに飛行魔法の事を聞いてみると『練習風景からインスパイアされてオマージュした』そうだ。飛行訓練と機密厳守を命じた。


「殿!機密保持のためにも輿入れを!」


「⋯⋯なぜそこまで輿入れに拘る?」


「拙者ら森人は迫害と収奪の対象でござった」


容姿と身体能力に優れた森人は性格も穏やかであったが、それが逆に常に人狩りの危険に晒され奴隷として虐げられる歴史であった。それを救った先達迷い人との間には子がなせず、先達迷い人の「迷い人がいたら助けてやってほしい」という遺言と共に、迷い人との子をなす事が森人達の悲願となったそうな。いきなり長い話が始まってびっくりだ。


「亜人種を率いる御決断をされた殿には、是非とも森人とも強固な絆をお願いしたく⋯⋯」



正直な所、俺は結婚という物に対して良い印象がないのだ。日本で一度失敗しているせいもある。エメリーヌは娶る事になったがどっちかというと援助交際の延長みたいな認識だ。


しかし、愛だ恋だとその時の感情に流されて他人同士が同一の存在であろうとするから破綻するのかも知れない。現にエメリーヌとは恋愛感情などなく始まったが、もう失いたくない存在になってしまっている。


なら⋯⋯輿入れも受け入れてしまった方がいいのか?



⋯⋯でも、その話の筋でいくと先にゴブリンさんとも結婚しなきゃ不公平っぽくね?


「前向きに善処する!」

マナ全開で言い放つ。


「ははーっ」


とりあえずは棚上げだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る