Guardian of Order 《ガーディアン・オブ・オーダー》
かいぜる田中
第1章 ──冒険のはじまり
第1章 ── 第1話
目を開くと、見慣れぬ天井が見える。
「ここは……」
辺りを見回すと、ここは神殿内にある復活の祭壇の上だ。
そうだ。ドラゴン・ブレスに焼かれて死んじまったんだ。
「やられたなー」
身を起こしつつ、うなだれる。
「もう少しだったのになぁ……もっとレベル上げなきゃ駄目かぁ」
祭壇の上に
いかに最もレアといわれるユニーク・スキル「オールラウンダー」を持ってるといっても
プレイヤー・キャラクターは、作成時に選んだ職業アーキタイプのスキル数種類とユニーク・スキルを1つ持って生み出される。確認されているユニーク・スキルは数一〇〇種類と言われているし、同じユニーク・スキル持ちは多数確認されている。
しかし「オールラウンダー」というユニーク・スキルは、ゲーム内で唯一のスキルと運営から発表されたため、俺は有名プレイヤーの一人とされている。もっとも、有名プレイヤーには違いないが、レベルはまだ七〇そこそこ。やっと中堅プレイヤーの仲間入りといったところだ。
ただ、このユニークのせいで、クランやパーティに入れてもらうのは難しい。入ったクランに対して、戦争を仕掛けてくるクランがあるのだ。多分
最初の頃はクランやパーティへのお誘いも多く、ちやほやされたものの、こういったやっかみから次第に仲間に入れてくれる奴らはいなくなった。野良パーティも組めないなんて、どんな無理ゲーだよ。
だから、結構プレイして長いのにレベルがカンストまでいかないし、貴重なスキル・ストーンを手に入れることもできず、中堅どころで足踏みしているんだ。
ゲームを辞めようと何度も思った。しかし、この便利なユニークを手放したくなかったから俺は辞めなかった。
通常のユニークスキルは一つの特殊効果しかないが、「オールラウンダー」は『すべてのスキルを使用可能』と『スキル習得上限無限』という破格の効果を持つ。
スキルの習得上限は、普通の無課金キャラクターで二〇個。特殊な課金アイテムを使用しても四〇個程度だ。
スキル・ストーンさえ手に入れられれば、世界最強になりうるキャラクターなのだ。捨てるのはもったいなさすぎる。ゲームを辞めて、他のプレイヤーにこのスキルを持っていかれる方が気分悪い。
ソロでも必死に頑張って、やっとここまできた。ドラゴン種などの上級モンスターを倒せれば貴重なスキル・ストーンをドロップすることも多く、無謀ではあるものの準備をしっかり行って挑戦したわけだ。
──それでも負けたが。
「次こそは……絶対勝ってやるからな!」
俺は祭壇の上から飛び降りつつ、神と呼ばれる像に振り返り決意を新たにした。
問答無用のブレス攻撃で真っ黒に焦げてしまった耐火マントを脱ぎ、新しいマントをインベントリ・バッグから取り出す。
「あーあ、耐火マントも安くないんだぜ……耐火スキルさえあればなぁ……」
スキルストーンは、敵モンスターからのドロップ入手が基本だ。個人売買でも手に入れることはできる。ところが、先程のやっかみ等の理由からだと思うけど、戦闘用の貴重品は手に入れることができなかった。もちろん冒険者ギルドでの委託販売もされているが、ほぼクズスキルだ。
このゲームには様々なスキル・ストーンが存在し、これを使用することで込められた
スキルは、
スキルは使う毎にスキル経験値が入り、次第にレベル・アップしていく。このレベルはキャラクター・レベルとは別ものだ。使用しなければいつまでも一レベルのままだし、レベルが低くても使い続けたスキルは強力なレベルとなり得る。
俺の手に入れた主なスキルは、作成時に自動で手に入った「戦闘:剣」、「魔法:火」、「中装防具」の三つと、必死に戦って手に入れた「応急手当」、「危険感知」、「罠解除」、「武器修理」、「防具修理」、「道具修理」の六つ。他にもあるが、冒険用のはクズばかりだ──「キャンプ」、「獲物解体」、「
あまり、有用な登録スキルがないから、それ以外は消費アイテムでごまかしている。
さてと、いつまでも神殿にいるわけにはいかないな。まずは耐火マントを修理したいし、材料を買いにいくとしよう。ついでにログアウトして昼飯を食べておきたいな。
「サラマンダーの革が安いといいなぁ」
とぼとぼと神殿の出口に向かった。扉を開け、神殿を出ると……
──あれ?
ここは、ステインの街じゃない。俺は一瞬混乱した。
あたりを見渡すと少々のどかな田舎町といった風情だ。神殿を振り返ってみると、ステインの大神殿ではなく、町の小さな教会のようだ。
端から見たら頭の上にでっかい「?」のエモーションが浮かんでいるに違いない。
「ここどこ……?」
通常なら、最後に寄った大都市の大神殿で復活するのだが、どうやら別の街で復活したようだ。そういや、祭壇の部屋は大神殿にしては小さかったことを思い出す。天井も安っぽかった。
「バグかな?」
「おいおい」
HUDの右上に表示されるはずのミニマップが表示されていない。メニュー・アイコンも、ショートカット欄も何も表示されていないのだ。
何か設定をいじってスクリーンショット・モードにでもなっているのかと自分の眼の前をツンツンと指で突きまくる。
街を通りすぎる
「コホン」
照れ隠しに小さく咳払いをしつつ思案する。
どういうことだろう。これじゃログアウトもできない。ログインしっぱなしで
ここで俺は愕然とした。
──HMD付けてない……?
そう、HMD付けてる感覚じゃないんだ。何も付けずに現実世界を見回している感じだ。左右を素早く見回す。のどかな街の風景だ。
本来、HMDなら素早く頭を回転させたら、多少の画面ブレを感じるはずだ。なのに、まさに肉眼で見ているような感覚。
「えー? あり得ないよね」
HMDを外そうと頭に手をやるも付いてるわけもなく、頭を抱える変な人になってしまった。
一体どうなってしまったのか、そもそもゲームでこんなことあるのか?
──夢でも見ているのか?
頬をつねってみれば痛いし。
俺は崩れ落ちた。まさに、ネット用語の「orz」だ。体から嫌に冷たい汗がにじみ出ているのを感じる。
『これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ』
何度も同じ言葉が頭にリフレインする。
夢でなかったら、仕様変更が突然適用されたんだ。
「そうだ、きっとそうだ」
怖いことは考えないことにしよう。変なストレス抱えると体に悪いしね!
俺は立ち上がると、見知らぬ街へと歩き出した。
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