第十三話~とりあえずどうやったかは分かったぞ~
おかしい、クリスティラが目を覚まさない。勢いよく顎を蹴飛ばした。普通の人間なら目を覚ましてもいいはず。
あれ? 顎はダメなんだっけ。このまま目を覚まさなかったらどうしよう。
そう思った瞬間、自分が絞首台に立たされるイメージが頭の中に浮かんできた。
うわぁ、このままじゃ、話が聞けなくて証言がそろわず、絞首台に立たされちゃう。
私は意地でもクリスティラを起こそうとする。
そもそもこいつ、私が身にまとっていたゴミのにおいで気絶したんだった。
ということはだよ、もう少しましなにおいを嗅がせてあげれば目を覚ますかも。
何かよさげなにおいはないかと探してみると、シュパっと半蔵が現れる。
「半蔵、どうしたの?」
「主殿、これを使うがいいでござるよ」
半蔵が私に近づき、手の甲にキスをした後、謎の液体がはいった瓶を渡してきた。
……手の甲にキスをする意味とは何だろう。
余計なことを考えたくないのだが、気になるものは仕方がない。ほんと、なんで手の甲にキスされた?
「主殿、それを使うと、クリスティラ殿が目を覚ますでござる」
「その前に半蔵、なんで私の手の甲にキスをしたの」
「え、そんなことしてないでござるよ?」
「何言ってんの。してたじゃん、してたよね」
「きっと主殿は疲れているでござるよ。大丈夫でござる。拙者のベッドの隣はいつもで開いているでござるよっ!」
「なんでベッドなのかな? ほかにもいろいろとあると思うんだけどっ!」
私の言葉を聞いてくれない半蔵は、バッチかもーんと言い残して去っていった。
何がかもーん、だ。ふざけんな。でも、クリスティラを起こすことが出来る謎の液体は手に入ったぞ。
でも、これはいったい何の液体なんだろうか。
最近触手やらキスキスやら、よくないものをたくさん発見しているので、受け取ったこの液体がとても怪しく感じられる。
きっと触ったら危ないのだろう。
だが、私が触れなければどうってことはないはずだ。
だから私は、謎の液体をクリスティラにぶっかけた。
ふはははは、液体まみれになりやがれ。そして目を覚ますがいい。
眠るクリスティラの目の前で高笑いをしながら両手を天に掲げた。
なんだろう、悪魔召喚をしているみたいな気分になる。なんだか楽しい。
悪魔が私の破滅の運命を回避させてくれるなら、魂だってあげちゃう。だって女の子だもの。
あれ、女の子関係ないような……。
クリスティラは、鼻をひくひくさせながら、目を覚ました。
そして発狂する。
「うおおおおおおおおおおおおお、こ、このにおいは……っ!」
「な、なにっ」
「ベルトリオ様のにおいだぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁっ」
半蔵が渡してくれた謎の液体は、どうやらベルトリオの体臭を再現したもののようだった。はっきりいって気持ち悪いものなのだが、クリスティラには効果抜群だ。
「……っは! ここはどこ? 私は……クリスティラ」
「そこは、私は誰? じゃないの」
「あ、処刑マジかな可哀そうな人じゃないっすか。うわー」
「何、その言い方……。あなたも一緒に処刑される」
「え、なんで?」
「だってあなた、ストーカーでしょ?」
「何を言うのですか、私はストーカーじゃ……」
「ベルトリオの後をつけて……」
「ギクッ」
「ものを盗んで、盗聴して……お風呂のお湯を飲み干す。お皿を洗う時は、ベルトリオ使用済みのフォークやスプーンをぺろぺろして、ベルトリオが寝ている時にベッドの下ではぁはぁしているんでしょう」
「そ、そこまで知っているなんて……」
適当に言ったらすべて事実だった件。この子怖いわー。
「そ、そんな脅迫して……あなたは何が望みっすか!」
なんで私が悪役みたいになっているんだろう。だけど、これはこれで都合がいい気がする。とりあえず、あの手形の情報を手に入れよう。
「私の望みはただ一つ、私に跪き、下僕になりなさいっ。そうすれば黙っていてあげるわ」
「げ、下僕ですってっ!」
「ええ、私の下僕になれば、ベルトリオといちゃつけるように頑張るよ」
「下僕になります。よろしくお願いします」
割とあっさり下僕になりました。もっと抵抗される……あれ? 下僕にする必要あったかな。でも、この危機を回避するためだ、きっと役に立つだろう。
「じゃあ最初の命令ね。あの手形は何?」
「あの手形とは?」
私は無言で例の手形を指さした。
壁に飾られたベルトリオの手形。指紋がくっきり見える。これを型に使えば、簡単にゼラチンフェーク指紋を作ることが出来るだろう。
でも、私がここに来た時、あんなものはなかったはずだ。じゃあ一体どこに……。
「ああ、アレですか。三週間前にあったベルトリオ様の誕生日の時にとったやつです」
「それはなんとなくわかるんだけど、昨日はなかったよね?」
「昨日ですか……。あ、そういえば、バハム筋肉長が、新品の手形が汚れている……と決め顔で言った後、もっていってしまったような……」
何それ。筋肉長って何さ。というか、決め顔でなんてことを言っているんだ。気持ち悪い。
「少しよろしいかな」
「「ひぇ」」
気が付くと、私たちの近くにバハム筋肉長……じゃなくて執事長がいた。
ムキムキの筋肉が歴戦の戦士を彷彿とさせる。はっきり言って気持ち悪い。
「犯罪者、そろそろ時間が来たぞ。さっさとこい」
「なんか扱いが酷くないっ!」
「犯罪者の扱いなんてそんなもんだろう。それよりもみんなが集まっている。さっさと来てもらおうか」
「ちょ、引っ張らないで、服が脱げる、いやああああ」
「あああ、ヘンリー様、おかわいそうに、これから汚らわしい野獣どもにヤられて、くたくたになったところで、全裸で貼り付けの刑、最終的にはギロチンで首チョンパになっちゃうっすね」
「おい、ちょっと助けろよ。この駄メイド」
「いやああああ、犯されるっ!」
「話聞けやっ!」
「うるさい、黙りなさい、犯罪者っ!」
突然、首のあたりに感じる痛み。ちらりと見えたバハムの手。どうやら手刀で首をやられたらしい。どうやら私はここまでのようだ……。
ああ、生まれてから6年。短い人生だった。
こうして、私は死んでしまったのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
なんて思っていた時期もありました。
気が付くと、私は電気椅子に座らされていた。
ああ、これから処刑が始まるのか……。そう思うと悲しくなってくる。
だけど、思った状況と違っていた。
目の前に見える大きな机。そこに並ぶように座っている、今回の事件の関係者たち。
どうやらここで裁判が始まるらしい。
現状、私は準備不足だ。そんな気がする。このままで私はこの裁判を乗り越えられることが出来るのだろうか。
とても不安だ。
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