第十一話~謎の黒い物体を調査せよ~

 自分の部屋を後にした私は、使用人室に来た。ここならアンとケセラがいるだろう。

 できれば全員の話を聞いて家族会議を迎えたいものだ。


 頬をパンっとたたいて気合を入れる。よし、使用人室の調査、頑張ろう。

 私はそっと使用人室の扉を開ける。


「だだだ、ダメです。これは絶対に見せられません」


「だったらそれを片付けてくださいよっ! いつもそれに服を引っ掛けて服が弾け飛ぶんですよ。こっちの身にもなってください」


「それはあんたがおかしいからねっ! 引っ掛けて弾け飛ぶって何よ、ケセラの変態」


「アンこそ、こっちの話を一切耳に入れない自分勝手星人っ!」


 ケセラのアンが口喧嘩していた。

 どうしてそんなことになっているか不明だったが、とりあえずアンにイラっとしたので蹴飛ばしておいた。「ひゃっふぃ」という悲鳴を上げたのか喜んでいるのかわからない声が漏れる。


「お、お嬢様。どうしてここに」


「アン、あんたの頭はお花畑なの。このままじゃ処刑されちゃうから必死に調査しているんじゃない。あ、そうだ。ケセラもいいかな?」


「はい、大丈夫ですよ」


「二人に質問したいんだけど大丈夫かな?」


「私は大丈夫ですけど、アンが……」


 アンは謎の黒い物体を抱きかかえながらイヤイヤと首を振っていた。

 その黒い物体、お前のだったんだ。


「だ、ダメですよ。この中身は絶対に見せられないんですからっ!」


 別にその中身を見たいと言っていないんだけど、そこまで否定されると逆に見たくなる。

 いったい何が入っているの、その中。


「この中には私の宝物が入っているんです。乙女の秘密が入っているんですっ!」


 その禍々しい黒い何かに? 乙女の秘密って禍々しいものに入れていいものなんだろうか。違う気がする。ってそうじゃなくて。

 私はアンに指さして「いいから私の話を聞いてっ」と命令した。

 アンは顔を青ざめて、イヤイヤと首を振り、「絶対に見せられないんですからー」と言って去っていく。黒い何かは置いておいていいのだろうか。あいつマジで謎すぎる。


「アン、行っちゃったね」


「そうですね、お嬢様」


 私とケセラはアンの後ろ姿を遠い目で見守った。嵐が過ぎ去った後のような静けさが使用人室に漂う。


「……ケセラ、昨日の夜は何してた?」


「昨日の夜はアンそっくりの人形を殴ってストレス発散していました。あの駄メイド、マジで死ねばいい。ちなみに、人形によるストレス発散は国で推奨されています。リアルに殴るとまずいですから」


「あ、そう」


 アンとケセラって実は仲が悪いのだろうか。

 あの謎の黒いのにケセラは困っているが、アンは絶対に撤去しないといっているし、仲が悪いのも頷ける。


「とりあえずこれを調べてみますか」


「あわよくば撤去してください」


 それを主である私に頼むケセラもケセラだと思う。

 アンが残した黒い何かに手で触れてみる。ぬめりがひどかった。


 本当に何なのこれっ!


 よく見ると鍵穴のような場所がある。開けようとしてみても鍵がかかって開かなかった。

 これを置いてった理由って、もしかして鍵がかかってるから?

 どうせ誰も開けられないから大丈夫とでも思っているのだろうか。

 このままポイするってことも考えられると思うんだけど。

 でも、このぬめり。あまり触りたくない。本当に何が入っているんだろう。

 っむー、中身が気になるところだが、これは無理だろうな。うまく鍵が発見できればいいんだけど。


「あの、お嬢様」


「ん? どうしたのケセラ」


「よくさわれますね」


「アンタがそれ言っちゃうのっ! ひどくないっ!」


「ひどくなーーきゃあああああああ」


 ケセラはメイド服の袖部分が机に触れて、メイド服が弾け飛んだ。

 ケセラのメイド服ってどういう構造をしているのだろうか。不思議だ。


「あ、あの~お嬢様。そんなにじろじろ見られると恥ずかしいのですが……」


「いやね、不思議なメイド服を着ているなーって思って」


「私も好きで弾け飛ぶメイド服を着ているわけではありません。なぜか弾け飛ぶのです。今日は奥方様に家族会議が終わるまでの間はいくら弾け飛んでも着替えていいといわれているので、着替えてきます」


「いってら~」


 ケセラも使用人室から出て行ってしまった。今いるのは私一人。これって調べ放題じゃないだろうか。

 とりあえず、アンの机を探す。


 使用人室には各使用人専用の机がある。アン、ケセラ、ディラン、ゼバスの仕事用机だ。

 四つの机の内、どれかがアンのだと思われる。

 この謎の黒いのが置いてある机がアンの机だろうと普通は思う。だけどこの机、ケセラのだ。

 だって置いてあるものに名前が書いてあるんだもの。

 なるほど、ケセラが怒るわけだ。謎の黒いのを人の机に放置するだなんて、アンって最低なんだな。


 謎の黒いのが置いてある場所がケセラの机だとして、あと三つある。さて、どれがアンの机だろう。

 私はほかの机を観察してみた。


 …………案外すぐに見つかった。

 一つだけ、異様な机があった。たくさんの写真立て。それだけじゃ飽き足らず、引き出しあたりにもいろいろと貼ってある。


「これがアンの机か……。汚い」


 私の写真、私のシール、私の…………下着? なんでこんな場所にあるの。もしかしてあいつが盗んだ。あいつは即刻追放するべきだと思う。なんで私が人形をバラバラにした犯人に仕立て上げられて処刑されそうになっているのに、ザ・犯罪者と思わせる異形な机を使っているアンが犯罪者にならないのだろうか。これがゲームの世界ってやつか?


「気持ち悪くてあまり触りたくないんだけど……私の命がかかっているんだ。やってやるっ」


 勇気を振り絞ってアンの机に触った。ぬめりがひどかった。

 ナニコレ、一体何したらこんなことになるの。

 ぬめりを我慢しながら机の引き出しを開けた。私の写真がびっしりと入っている。よく見るとトイレとかお風呂とかそんな写真まである。これ、どう見ても盗撮写真だ。

 あいつを盗撮魔として逆に訴えれば助かるかもしれない。これは覚えておこう。


 我慢して机を探したが、これしか見つからなかった。あわよくば謎の黒いののカギが見つかればよかったんだけど、あるわけないか。


 ディランとゼバスの机もあさってみた。

 特に面白そうなものは出てこなかった。

 しいて言えば、ディランの机の中にはゼバスの写真とか服とかそんなのが入っていた。

 あいつはホモなのだろうか。それともあこがれを強く持ちすぎて……。考えるのはやめよう。


 調査も終わったので、部屋を出ようとしたところで半蔵が現れる。突然現れるものだから、心臓が止まりそうになった。あまり驚かさないでほしいよ。


「主殿、とっておきの情報でござる」


「何を見つけたの」


「アンというメイドがトイレを詰まらせてーー」


「それ今関係あるっ! てかなんであいつはトイレを詰まらせてんの。そっちのほうがびっくりだよ」


「あう、間違えたでござる。いや、間違えてないでござるが……」


「んで、本当は何を伝えたかったの?」


「アンというメイドが何かをトイレに投げ捨てて詰まらせたでござるっ!」


「だからトイレは…………え?」


 アンがトイレに何かを投げ捨てた? なんでこんな時にそんな行動をとるんだろう。なんか怪しい。

 もしかして、何か見られたらまずいものでもあったのだろうか。

 証拠隠滅のためにトイレに捨てて……詰まった?


「半蔵っ! 即刻捨てられた何かを回収してきなさい」


「嫌でござるっ!」


「なんでっ!」


 あんたは私に仕えたんだよね。証拠になりそうなものを回収してってお願いして嫌がられるなんて……ちょっとショックなんですけどっ!

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