第28話 わたしのクローンって、わたしなの?

〈登場人物〉

サヤカ……小学5年生の女の子。

ウサ……サヤカが3歳の誕生日にもらった人語を解するヌイグルミ。



サヤカ「クローンって、あるでしょ。わたしのクローン人間がいたら、それって、わたしなのかな?」


ウサ「体の組成とか、あと好き嫌いとかが、全く同じもう一人の人がいたら、それはわたしなのかってことだね。じゃあ、ちょっと考えてみよっか。もしも、サヤカちゃんのクローン人間が作られたとすると、見かけ上は全部サヤカちゃんにそっくりだよね。見かけだけじゃなくて、考え方も好みも全部そっくりで、他人からは、全然見分けがつかないとするの」


サヤカ「うん」


ウサ「そうして、そのクローン人間が、サヤカちゃんの目の前に来たとしたら、サヤカちゃんは、今の自分か、それともそのクローンサヤカちゃんか、どっちが自分なのかが分からなくなっちゃうと思う?」


サヤカ「……そんなことは無いと思うなあ。他人から見たら、全然見分けがつかなくても、わたしは、そのクローン人間の目から世界が見えるわけでもないし、そのクローン人間の体が動かせるわけでもないもん」


ウサ「そうだよね。じゃあ、仮にね、そのクローンサヤカちゃんが、サヤカちゃんを殺しちゃうとするでしょ」


サヤカ「えっ! わたし、殺されちゃうの!?」


ウサ「仮の話ね。それでね、この世界には、そのクローンサヤカちゃんしかいなくなっちゃうとするの。そうしたら、サヤカちゃんは生きているって言えるかな」


サヤカ「他人から見たら、それって何にも変わらないよね。そのクローンが生きていたら、このわたしがいなくても、この世界からは何もなくなっていないよね」


ウサ「でもね、この世界から何もなくならないって『言う』ことは、サヤカちゃんにはもうできないんだよ。だって、サヤカちゃんは、もう死んでるんだから」


サヤカ「あっ、そうか! クローンが生きている世界をわたしは見ることはできないんだ、死んでいるんだから……だとしたら、クローンが生きていても、わたしには関係ないね!」


ウサ「そう。だから、ある人のクローンを作り続ければ、その人が生き続けることができるなんていう考えは、間違っていることになるね」


サヤカ「同じ体と同じ気持ちがあっても、わたしにならないんだ……記憶もそうなのかな?」


ウサ「記憶もそうだね。クローンがサヤカちゃんと同じ記憶を持っていても、それで、クローンがサヤカちゃんになるわけじゃないからね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る