闇の街

遊月奈喩多

わたし、メリーさん

 ねぇ、どこ?

 寒いよ、寂しいよ……。

 また会いたい、また顔が見たい、また、また……。


 少女がどれだけ願っても、その手はあまりにも短い。何にも届かず、何も掴めはしないだろう。悲しいほどに短い腕は、ただ朽ちるときを待つばかりだった。


 そんなとき。


「ねぇ、あなた」


 声が聞こえた。

 見上げた先には、黒いロングコートを着た背の高い女の姿。顔は、月明かりの影になってしまってよく見えない。けれど、少女はただただ驚いていた。

 この人には、どうしてわたしの声が聞こえるんだろう? には何を言っても届かなかったのに。


に会いたいの?」


 ……うん


「声が届かないのは悲しいわよね」


 …………


「それなら、あなたに声をあげる」

「えっ?」


 そして、少女の毎日は変わった。


* * * * * * * * * *


「もしもし、わたしメリーさん。いま、あなたのおうちの前にいるの、えっ、いまお外なの? ふぅーん、気をつけて帰ってきてね?」


 メリーさんの都市伝説。

 突然電話がかかってきて、出ると『メリーさん』を名乗る少女から、段々自宅に近付いてきていることを報告される。

 それが数度続き、後ろにまで来られたら最後……。


「はぁ、まだ会えないな」


 街を騒がせる怪異、【メリーさん】。彼女が探し人に会える日は、恐らく来ない。

 何故なら、【メリーさん】はその声を得たことで、ただ探すことのみに快楽を覚える存在と成り果てたのだから。


「もっと、もっと探さなきゃ……、待っててね?」


 月明かりの中で微笑む少女の頬は薄紅色に染まって、月を見上げる瞳は、切なげに濡れていた。

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