夢現虚実伝聞異聞録

黒いもふもふ

橋の上にて

 夏祭りの帰り道の話です。


 私は友人Aと少し遠くで開かれた夏祭りに行きました。その帰り道、私とAは人混みを避けるために神社から離れた駅に行こうという話になったのです。

 その駅に向かうには住宅街を通り抜ける道しかありません。夜も遅く、人っ子一人いないであろう道を通るのは少し不安はありましたが、「別に一人じゃないし」と私とAはその駅に向かうことに決めました。



 予想以上に暗く、人気のない道を他愛もない話をしながら二人で歩きました。



 しばらく歩くと、大きめの橋がありました。ここを越えて少しすれば大通りに、そしてそこから数分で地下鉄の駅に着きます。

 暗くて最初は気づかなかったのですが、橋の中ほどの端に一人のホームレスらしき男性が座り込んでいました。コンビニ弁当を橋の上に置き、体を寄せて食べていました。


 男性の前を通り過ぎる前はただ弁当を食べているだけだと思ったのです。


 しかし、男性の前を通り過ぎる瞬間、ぞわりと悪寒が走りました。そして、そちらに意識が向いたせいなのか、今まで聞こえていなかった男性の声が聞こえたのです。うめき声のようにも聞こえました。言葉は全く聞きとれないのに私たちに恨み言を言っているかのようにも聞こえました。いいえ、そうであると確信していました。

 隣を歩くAも何かを感じ取ったのか、私の服を小さくつかみ早足になりました。

「早く離れよう。なんか……追いかけてきそう。刺されそう。」

 二度目の悪寒が走りました。私もなぜか「刺される」と思っていたのです。


 早足で橋の向こうに見えたコンビニの前まで向かいました。

 背中は汗でぐっしょりと濡れていました。


 橋を渡りきる前、私は男性を振り返ってちらりと見たのです。いっそ、幽霊だったというオチの方がよっぽどマシであるという私の願い空しく、男性はまだそこにいました。

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