23.ボッチ
丘の墓地から吹きおろしてくる光の残像
家並みは谷の沈殿相
谷川が中央を割いて蛇行しながら
ゆっくりと夕暮れへと集落を運ぶ
ダム湖に
浮上したところで舌ったらずの
思い出では誰の森も
緑を取り戻さない 森は
どこにもなくなったのだ
人家の子らのこだまも届かぬうち
山襞に消音された たしかあの
山のあたりに竹を編んで籠を綯う人があり
神に隠された七晩のあいだ
丘では墓地がふしぎに光っていて
人家の束もいつかあの墓地になるのだと
山からの眺めはおしえてくれた
いつか割愛された人生が
ああして光っているのだろう
ときおりは下りてもくるのだろう
それは人知れず光っていて
人家のあいだをすり抜けていく
すっかり歳の積もった大晦日
ひそかに繰出す糸車
丸く回しているあいだ
将来の墓地がせわしく哭いた
ゆっくりろくろを回しては
わけもなく記憶の水のわきだし
あふれて花を咲かせもしたが
いつか見えない海への道を
さがして街をめざしたか
飽くなく繰る繰る糸車
かろい音たつその音が
家なす板や柱や梁に響いて絶えて
外はすっかり雪らしく
行くものもなくしんしんと
夜をしずかに明らめて
それからなにもかも消音している
丘の墓地から吹き下ろす
光の残像 そのあわい
ダム湖の記憶は人知れず
浮いては沈みまた浮かび
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