第37話・私は飛翔に応じない

 飛翔の攻撃で、イザヨイが乗っていた部分以外のバルコニーは、その周辺の壁ごと破壊され制服の男たちが落ちた。


 イザヨイは盾で防いでいる。


 私はよろめきながらも壊れかけた廊下を必死に走る。


 飛翔は腕を下ろすと開いた手のひらで再びイザヨイを攻撃した。


「飛翔、やめて!」


 また宮殿が壊され、遠い廊下の先で三階から床を斜めにして子供部屋が落ちてきた。


 幼いアキが見えるようだった。


「飛翔!」


 私はたどり着いてバルコニーに飛びだすと、イザヨイの前に立って手を広げた。


「これ以上、ここを破壊することは許さない!」


「憂理……!」


 私を見て飛翔がたじろぐ。


 だが、構えはと解かなかった。


「憂理、ここは人々が無理やり働かされていた石切り場だ。都市の下が空洞になっている」


 顔つきを険しくする。


「人々を解放したからには、ここを破壊する。どいてくれ」


「どかない。飛翔こそ、この神聖な場所から立ち去って」


「神聖な場所?」


 信じられないといった表情をした。


「ここから去って。去らないのなら」


 私は手首を合わせて持ち上げると、飛翔に向けて下ろした。


「排除する……!」


「憂理! 目を覚ましてくれ! アキの悪行にこれ以上、加担するな!」


「アキの悪行という言い方は間違っている」


 イザヨイが踏み出して口を開いた。


「人々を町から連れ去って働かせるよう、アキに命じているのは皇帝だ。本当のアキは嫌がっている」


「イザヨイ」


 私は彼を見た。


「本当のアキは、皇帝よりもむしろレジスタンスに近い」


「嘘を言うな!」


 飛翔は声をはりあげた。


「そうやって人をだまして撹乱(かくらん)するのがアルマのやり方か……!」


 狙いを宮殿の下に変えると、石切り場の奥深くまでなぎ払って破壊した。


 宮殿の足元が崩れる。


「お妃さま、危ない」


 ぼう然とする私をイザヨイは盾で守ったが、自らは落下してきた石の装飾に体を打たれた。


「飛翔、全部、崩れるぞ!  退避しろ!」


 ワイクが広場の先にある鉄の手錠がいくつもぶら下がった門を開き呼びかける。


「早く!」


 うながされ飛翔は私に手を差しのべたが、私はバルコニーから見下ろして動かず、それに応えることはなかった。


 飛翔はあきらめきれぬまま、数歩、後退したが、そこで身を返した。





<続く>

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