第46話 “あのこと”を本当のことに。
このところ、学のベッドで過ごす時間が多くなってきた。瑠奈も以前のように怯えることがなくなったので、自然にそういう時間が増えた。
成人式を目前に控えた日曜日。ベッドで肌を重ねていた。
「あのこと、本当にしたいんだけど、いい?」
「“あのこと”?」
瑠奈にはさっぱりわからない。
「“あのこと”!…だから、その…初めてスカートはいてくれた時のこと!」
「スカートをはけば、いいの?」
瑠奈はポカンとしている。
「そうじゃなくて!…言わせんなよ。俺だって恥ずかしいんだぞ。」
しかし、経験が浅すぎる上に鈍感な瑠奈には、やはりさっぱりわからない。
「顔、赤いよ?熱でもあるの?」
学は、額を触ろうと近づいてきた瑠奈の手を握る。そして、その手を離すと、ベッドから下りて、裸のまま、土下座した。
「俺のお嫁さんになってください!」
瑠奈はびっくりして、言葉を失った。裸の土下座にも驚いたが、まだお互い、学生生活が2年少々あるし、成人式が目前なのだ。
「…あの、これって、プロポーズっていうヤツ?だとしたら、スッポンポンで言うものなの?」
何時間にも感じられる数秒間の沈黙のあと、瑠奈は絞り出すように言った。
突然だったこともあったが、瑠奈が想像していたプロポーズとは状況が違うので、返事云々以前の心境なのだ。
「あ…。ふ、服を着たら、OKしてくれる?」
…そういう問題ではない気がするんだけど。というか、私は返事をしないといけない立場なのね。
驚いた割には意外に冷静に分析している瑠奈だった。
服を着た学がガバッと土下座した。
「お嫁さんになってください!」
「あの、私たち学生同士だよ?」
「卒業したら、いや、卒業と同時にでも!」
「夢みたいなこと言うのね。」
「幸せにするから!」
すでに「Yes」か「No」か、ということを超越しているのか、それ以前の問題なのかすら、わからなくなっている。
「寒…。」
何気なく触った素肌がひんやりとして、毛布にくるまったまま、自分が何も着ていないことを思い出す。
「シャワー浴びてきていい?体が冷えちゃったみたい。」
その一言でバスタオルが差し出される。立て膝の学が頭を垂れて差し出しているのだ。
「何やってんの?」
「点数稼ぎ。“Yes”しか聞かない。言うまで帰さない。」
「はぁ?」
「バスルームまでご案内します。」
困惑する瑠奈にバスタオルを巻いて、肩を抱いて移動する。
「もう!勘弁してよ!」
逃げるようにバスルームに入り、熱いシャワーを浴びる。
「なんなのよ。ったく!」
シャワーを浴びながらブツブツ言ってみる。
シャワーを終えると、学はそこにいなかった。いないことにホッとする。そして思いつく。
「いないうちに帰っちゃお。」
急いで服を着る。意味不明な学から、一旦離れて冷静に考えてみたいのだ。
化粧もそこそこにリュックを肩にかけて、ドアに手を伸ばした。
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