第22話 何やってんだよ。

「おい。瑠奈から聞いたけど。手、大丈夫か?」


早速、拓也に電話をかけてみる。


「ああ。大丈夫。痛かったけどな。ビックリしたよ。まさか護身術かけられるとはな。俺、何か嫌われることしたかなあ?」


「ったく!何やってんだよ!手を掴むことがそもそもイカンだろ!紳士的とは言えないだろうが。怒りながらも心配してたぞ。」


「だって、逃げようとしたんだもん。」


拓也が電話の向こうで泣きそうな声を出す。


…拓也の方が女みたいだ。


「言っただろ?瑠奈あいつは、めんどくさいことが苦手なんだよ。」


「でも、会いたかったんだもん…。」


鼻をすする音が聞こえる。女の子に、しかも気になる相手に、そんなことをされて、相当ショックだったらしい。


瑠菜あいつが中身は男だって、わかっただろう?普通の女の子の方が、拓也には合ってると思うぞ。」


「そうかなあ…。手を掴まないって約束したら、会ってくれないかなあ。」


まだそんなことを言う拓也に呆れながらも、学は心配になってきた。一人にしておくのが気がかりだ。


「家飲みでもするか?」


「いいの?」


拓也は途端に明るい声を出す。


…これだから、憎めないんだよな。


「暇なら今からでもいいぞ。」


「材料持ち込みで行く!実家から色々と届いたところなんだ。」





「お。旨いな。」


学が思わず声を上げる。学が褒めたのは、一夜干しのスルメのマリネ。カフェのアンティパストにあっても劣らない味だ。他にも納豆スパゲッティ、根菜の和え物。ジャンルはバラバラだが、それぞれ美味しい。拓也は料理上手なのだ。拓也の母親は料理研究家で、地元ではちょっと名の知れた人物なのだ。


「瑠奈ちゃん…。」


美味しい料理とは裏腹に、しょげ返ってグラスを持つ拓也。学にしてみたら、まだ懲りてないことの方が驚きだ。


「僕はぁ~。パクパクたくさん食べる瑠奈ちゃんを見てぇ…グスッ…僕のお料理を食べて欲しいと思いました…でぇ~す。…グスッ…。」


…ダメだ、こりゃ。…あ。瑠奈に連絡するの忘れてた!


慌ててLINEを開く。まだバイト先なのか、何も通知は来てない。


『手は無事。』


急いで送信する。目の前の拓也を見ていると、それ以上、打てなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る