第14話 男前。

気持ちがほぐれ、ホッとした二人は、一晩話さなかっただけとは思えないほど、たくさん話した。もう学校のことは二人とも忘れ去っている。


「ところで…。」

「何?」

また瑠奈を怒らせてしまったのかと、学はドキッとする。

「見合い、結局どーすんの?」

「どうしよう…。」

「どうしたい?」

破談ぶちこわしがいいな。二度と親が言い出さないような。」

「シナリオは?恋人役が必要なら、やるよ?」

「いいの?」

学が驚いた顔をする。

「学と私の仲だろが!ストレートに相談してくれれば、最初からノッたに決まってんじゃん。」

「瑠奈〜!お前って男前だなぁ。」

瑠奈は“男前”という言葉に爆笑する。


「それで、親御さんの好みは?“女装”は必須だよな。」

「そうだな。好みは姉貴に探りをいれてみる。」

こんな男前な瑠奈が女の子らしい服装をするのは、女装という表現が相当だろう。


「そういえば、女の子らしい服、持ってないんだ…。」

困ったように言う瑠奈。メンズものばかりなのだ。

「“女装”の費用は俺が出すから。」

言いながらも、学は瑠奈の女装が想像がつかない。見てみたいような、怖いような…。

「オイ。何ジロジロ顔を見てんだよ!想像してんじゃねーだろな?」

「イヤ、その…。」

「学!女装をすることは、私にとってハードルの高いことなんだぞ!もし女装した姿を見て笑ったら、殺すぞ!」

思わず声が大きくなる瑠菜。

「物騒だなぁ。ところで、声のトーンを下げよう。女装という言葉にまわりが反応している気が…。」


確かに。店内を見渡すと、目が合うかどうかで、サッと背を向ける人ばかり。みんな様子をうかがっているようだ。さすがの瑠奈もこれには赤面する。

「さ、さてと…。シナリオは?」

「とりあえず、“会わせたい女性ひとがいる”と電話しようかと。」

「ふむ。素性はどうする?ウチ、普通のサラリーマン家庭だけど、大丈夫?」

「相手の情報を入手して、考えようと思う。まず何より姉貴に連絡だな。」


夜になってから学は姉に電話をした。

「見合いの相手?ああ。資産家のお嬢さんみたいよ。ルックス?親にはウケが良さそうで、アンタの好みには当てはまりそうにないわね。茶道花道は常識よ。見合いなんだから。何?会ってみる気になったの?」

「いや…。お袋たちにはこの電話のことは内緒にしておいてくれないか。見合いする気はないんだ。」

「その代わり、口止め料は高いわよ。」

「わかったよ。」

姉の佳奈が電話の向こうでクスクス笑っている。

「何か面白いことでもあるの?」

「…また電話する。じゃあ。」


資産家のお嬢さん…。どう出るべきか。瑠奈がどこまで化けられるのか。佳奈との電話を切ってから悩む学だった。

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