俺に妹は居ないはずだが、突然妹ができました。
珍王まじろ
第1話・始まりの質問
この世には妹という属性が存在するが、そんな妹は多くの人達にとってどんな存在だろうか? 可愛い存在? 鬱陶しい存在? それとも、それ以外の何かだろうか?
そんな事を考えている俺にとっての妹というのは、ズバリ可愛い存在だ。ちょっとアホな感じの天然妹、普段はしっかりしてるけど、たまにドジをやらかすドジっ子妹、いつも明るく活動的な元気妹、定番のツンデレ妹と、可愛らしい妹の例を挙げれば切が無い。まあ、これは全て二次元限定の話ではあるけど。
それでは三次元の妹についてはどうなのかと言えば、悪いがそれについてはあまり語りたくない。だって妹が居る友達に話を聞いても、ネットの掲示板を見ていても、現実に妹が居る奴の話にはろくなものが無いからだ。
だいたい俺にはリアル妹なんて居ないから、リアル妹についてコメントなどできない。もしも俺に妹が居たなら、いくらでも妹についてコメントできるんだけど。
――俺に妹が居たらなあ……。
『君は妹を可愛がってくれる?』
「はっ?」
四月に入ってから二回目の土曜日。時刻は二十三時を過ぎたところ。
俺が部屋にあるパソコンでいつもの様に妹もののギャルゲーを満喫していると、いきなり俺の耳に妙な声が聞こえてきた。
その声に俺は慌てて部屋の中を見渡したけど、当然、ここに俺以外の誰かが居るはずもなく、俺は首を傾げながら再びパソコン画面へと視線を戻した。
「あれっ? どうした?」
さっきまで遊んでいたゲーム画面がフリーズしていて、マウスを操作してもキーボードをいじっても、何をしてもまったく反応しなくなっていた。
「たくっ……いいところだったのに……」
どうしようもなくなった俺は仕方なく強制シャットダウンを試みたが、パソコンはなぜかそれにも反応しない。そしてこの異常事態を前にどうしたものかと思って悩んでいると、見ていたパソコン画面が突然真っ白になり、いきなりその画面中央にピンク色の可愛らしいフォントで『以下の質問に答えて下さい』と文字が浮かび上がった。
その出来事に何だろうと思いつつも、俺はとりあえずマウスを使って画面表示をスクロールさせた。するとそこには、いくつかの質問が表記されていた。
「ゲームの演出か?」
突然起こった出来事に驚きつつも、俺はとりあえず表示されている項目を順に見て行く事にした。
「えーっと、あなたは妹が好きですか? ――か。まあ、実際に妹は居ないけど好きだな。次は、あなたは妹を大事にできますか? ――か。そりゃあ、妹が居るんだったら大事にするだろうな」
画面を見ながらブツブツと声を出し、何のこっちゃと思いながらも質問の『はい・いいえ』の部分にマウスでチェックを入れる。
「えーっと何々? 妹を大事にできない人間は、地獄に落ちてもいいと思う? ――か。まあ、妹とかに限らず、そういう人間は地獄に落ちればいいと思うけどな」
とりあえず画面上に出た質問に答えてはいるものの、その質問の意図がさっぱり分からず、俺は質問を読む度に首を傾げていた。
この質問から分かる事を言うとすれば、妹についての考え方や思いなどを探ろうとしている――と言ったところだろうか。
「おっ、次が最後か。えーっと、あなたは妹が欲しいですか? ――か。うーん…………」
その質問を前に、俺は握っていたマウスから手を離して腕を組んだ。
そりゃあ数々の妹ものギャルゲーをしてきた俺にとって、妹が居る生活に憧れはあった。だから妹が居たらいいな――と思った事はもちろん何度もある。
だが、理想と現実は違う。それは二次元と三次元の妹が決定的に違うからだ。
そんな理性的な事を考えつつも、俺は悩んだ末に自分の気持ちに従って素直に答えた。
「俺は妹が欲しいっ!」
誰が聞いているわけでもないのに、俺はそう言いながら質問の『はい』にチェックを入れた。
『その願い、確かに聞き届けました』
「えっ!?」
さっき聞いた妙な声が再び聞こえたかと思うと、目の前にあるパソコンが目も眩む様な光りを放ち始めた。
『彼女の事、大切にしてあげてね』
そんな眩しい光に包まれる中、俺はどこの誰とも分からない誰かに、優しく願う様にそう言われた。
× × × ×
「んんっ……」
気が付くと俺は机の上で突っ伏して寝ていたらしく、体中がとても痛かった。
そんな状態から上半身を起こして何気なく窓の方へ視線をやると、カーテンの隙間からは明るい太陽の光が射し込んでいた。
「あれっ?」
目の前にあるパソコン画面へ視線を向けると、その画面は昨日フリーズを起こす前の状態で止まっていた。
俺はそんな画面を見ながらマウスへと手を伸ばし、動作するかどうかを確かめ始めた。するとゲームはマウスの操作に反応し、しっかりと動作した。どうやら昨日はゲームをしながら眠ってしまい、変な夢を見たらしい。
「うにゃっ!!」
マウスから手を離し、寝ぼけ
ビックリした俺が声のした方へ振り向くと、そこにはフローリングの床に座り込み、痛そうに頭を押さえている女の子の姿があった。
「いたたっ……」
「だ、誰!?」
「あっ、ご、ごめん、なさい……こ、これから、よろ、しく、おねがい、します。お、おにい、ちゃん」
小学校の高学年くらいに見える女の子は頭を押さえたまま正座をし、小声でたどたどしくも丁寧に挨拶をした。
ライトブラウンの綺麗なショートカットに、大きな瞳のとても可愛らしい女の子は、大人が着る様な大きな白のTシャツを着て正座をしたまま、身体を縮こまらせてこちらを見ている。
相手の事もさる事ながら、俺はこの唐突な出来事に頭がついていかず、状況をさっぱり飲み込めないでいた。
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