第5話 ガブリエルと処女

「胸見られた…胸見られた…」

 正座する三姉妹に背を向け、そう呟きながら項垂れるガブリエル。さすがに不憫に思った真紀は立ち上がり、ガブリエルの肩に優しく手を置いた。

「綺麗な色してたよ、うん。形もいいし羨ましい胸だった」

「はい同じ女性として憧れます」

 珍しく空気を読みフォローに回る沙紀。

 真紀は由紀を見つめる。由紀はその意図を理解し頷いた。

「ピンク色に淡く透き通る乳房は網膜に甘美なる思い出を与えてくれましたよ、ガブリエルさん」

 そうにっこり微笑む由紀に対し、真紀は渾身の脳天チョップを由紀に食らわした。

「慰めるワードがいやらしいわ!」

「思った事が口につい出ちゃったの!」

「自制のない人間は犯罪者になりやすいから、お姉ちゃん捕まらないでね…衝動にかられた犯罪って達が悪いから」

 沙紀はいつになく真剣な面持ちで由紀を見つめた。

「な、私は普通!そんな残念な人じゃないから!」

 そう言った由紀の肩に真紀は手を添える。

「由紀…否応なしに残念な子なのよ、あなた」

「その可愛そうな子を見つめる瞳止めて!洒落にもならないでしょ!」

「お姉ちゃん、私達はいつでも真剣」

「くはっ!胸が痛い…いつも私だけを責めてきて…いつも二人は組んでるし…ガブリエルさん、酷いよね?私、悪くないよね?」 

 ガブリエルに膝歩きで詰め寄り、ローブの裾を引っ張る由紀。

「なにが悪い悪くないですって…」

 ぽつり呟くガブリエル。

「さっきから私の話を聞かないで、無視ばっかりして…あまつさえ裸体まで見られて…」

「ガブリエル、さん?」

 怒りで身体がぷるぷると震えだすガブリエル。何かしらの危機を察した由紀は、そそくさと沙紀の背後に身を隠す。

「妹を盾に使う性根が屑ですね、さすが由紀お姉ちゃん…」

「どういたしまして…」

 由紀と沙紀が互いの身体をガブリエルに押し出す形で揉み合っている最中、真紀は頭をかきながら苦笑する。

「ガブちゃん、まあそう怒らないで。うちらいつもこんなんだから。女だらけの三姉妹なんて、ろくなもんじゃないし。そこは分かってね」

「…」

「ガブちゃんの話は信じるわ。それはきっと由紀め沙紀も同じ。ただ、あまりに突飛な話過ぎて戸惑ってるだけ。今までの無礼で自分勝手な行動は謝るわ」

「真紀さん…」

「ま、そーゆ事で詳しい話はまた明日。今日はもう寝ましょう休みましょう」

 そう言って部屋から出ようとする真紀だったが、ガブリエルに襟首を掴まれ引き戻される。

「面倒になって逃げる気でしょ…いい加減あなた達のやり口は分かってきたわ」

「はいはい…こっちもいい加減からかうの飽きてきた。で、受胎告知だったっけ?」

「言い方軽っ」

「信じるよ、あんたが天使だって」

「霊感とかないけど、翼とか見せられたしね」

 由紀も続けて口を開く。

「うん。霊感全然だけど、私も信じる」

 そして沙紀も。

「私は霊感あるので最初から信じていました」

「信じていたなら先に言って!皆を説得して!なんで私を半裸にさせるまで泳がせたの!」

「面白そうだったので…」

「あなたが一番性格悪いわ!!」

「で、本題の受胎告知の件なのですが、質問いいですか?」

「あ、え?急に積極的!?な、何でしょう、沙紀さん?」

「私達はマリア様のように受胎告知を受け、救世主を産むのですよね?」

「そうよ。あなた達三人の内、これから私が選ぶの」

「マリア様は処女のまま懐妊されたと聞きました」

「そうよ」

「であれば、私は辞退します」

「え?どゆこと?」

「私、処女じゃないので」

「うええええ!!??」

 沙紀の告白に一番の悲鳴を上げたのはガブリエルではなく、長女真紀と次女由紀であった。

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