第255話 サノバビッチ!
野宿で朝を迎えたペイン達は朝早くに行動を開始し、アガデールの内情を探るべく飛び立つ。
まず、ペインは近くにあった農村の上空で雲に隠れ、アンネが身を乗り出して下を見る。
「ルミネ様が仰っていた通り、この村はあまり良い環境ではないようです・・・」
「む・・・確かに畑自体は広いようであるが、何と言うか全体的に茶色い土地であるな」
「はい・・・住んでいらっしゃる方々にも活気がありませんし、恐らくは聞いていた通りの痩せた土地なのでしょう」
アンネは土が剥き出しになった畑を見て悲しげに呟いている。
すると、流れる雲に合わせて移動しながら飛んでいたペインが何者かの気配を感じてその方角を凝視した。
「あちらから多数の気配を感じるのである・・・近づいてくる速度から考えて、これは馬であろう」
「はい、密集しているにも関わらず乱れもありませんし、恐らくは軍馬か何かかと・・・」
同じく気配に気付いたアンネは、まだ眠そうなアリーを抱きしめて気配のする方角を見ている。
しばらく2人が気配を消して窺っていると、土煙を上げながら30を超える騎士の集団が現れ、農村に入って行った。
「寂れた農村には似つかわしくない連中であるな・・・まあ、奴等の考えそうな事はだいたい予想がつくのであるが」
ペインが面倒くそうに呟いて見下ろすと、騎士の集団に村長らしき老人が覚束ない足取りで駆け寄り、地面に平伏した。
それに気付いた騎士の1人は老人の前に立つと、襟を掴んで投げ飛ばし、何やら怒鳴り出した。
「むう、こうも離れていては殆ど聞こえないのであるな・・・アンネよ、貴様には聞こえるであるか?」
「・・・はい」
「何と言っているのであるか?」
ペインが尋ねると、アンネは下を見つめながら返事をし、怒りと悲しみに拳を握りしめた。
「作物の徴収と徴兵の様です・・・」
「やはりであるか・・・我輩はどうせそんな事だろうと思ったのである」
「ご老人は作物は殆ど残っていないと仰っているのに・・・あの騎士達は、この土地を見てその程度の事にも気付かないのでしょうか」
「当然知っているに決まっているであろう?奴等は、地方の寂れた村など一つ二つ潰れようが蚊に刺された程度にしか感じてはおらんのである・・・良いかアンネよ、間違ってもあの村を助けに行ってはならんぞ」
ペインは今にも飛び降りそうなアンネに釘を刺してため息をつく。
諌められたアンネは、ペインの顔と村とを交互に見てしゃがみ込んだ。
「目の前で起きている暴虐を見て見ぬ振りをしなければならないなんて歯痒いものですね・・・」
「ここで我輩達が助けに行ったとしても、奴等は更に多くの手勢でここにやってくるであろう・・・そこで我輩達がすでにここを離れたと知れば、奴等は必ずやこの村に対し難癖をつけて更に非道な行いをする可能性もあるであろうな・・・まあそれ以前に、この国の他の村でも同じ事が行われているであろうから、ここだけ助けても無意味であるな」
「どうにもならないのでしょうか・・・」
アンネが力なく尋ねるとペインは東を見て苦笑した。
「貴様は、それをどうにかしそうな奴を知っているであろう?彼奴は、この国が二度と侵攻など出来なくすると豪語していた・・・どうせ録でもない事を考えているのであろうな」
「清宏様がですか・・・一体何をお考えなのでしょうか?」
「そんなの我輩が知ってる訳無えのである!考えるのも悍しいのである・・・。
さてと、では次に移動するのである・・・おっといけない、全身が滑ってしまったのである!!」
ペインはわざとらしく呟くと、急降下をして騎士達の直上で止まり、翼を広げて睨み付けた。
「ふはははは!我輩はペインである!!貴様等、己より弱い者を相手に威張り散らすしか能が無いのであるか!腰にある物は鈍ではあるまいな!?」
「ド・・・ドラゴンだと・・・何故この様な場所に・・・」
「ひ、ひいいいっ!お助けをぉぉぉ!!」
突然現れた巨大な竜の姿を見た騎士達は、咆哮にも似た挑発に畏怖して動けなくなり、村の住民達は慌てふためき家の中に避難した。
住民達が逃げたのを確認したペインは、再度騎士達を睨む。
「我輩を見ただけで動けなくなるなど騎士を名乗る資格無しである!悔しかったら我輩に一太刀浴びせてみせるのであるバーカバーカ!マザーファッカーのサノバビッチ!!」
「ペイン様、下品です・・・ですが、清宏様風に言わせていただくとグッジョブでございます」
背中に隠れているアンネは、ペインに呆れながらも嬉しそうに笑っている。
褒められた事で更に調子に乗ったペインは騎士達に尻を向け、振り返って下を出した。
「貴様等の様な腰抜けばかりなのであれば、この国の軍隊などごっこ遊びの様な物である!ではさらばであるぞ腰抜け共よ!おしりペンペンである!」
尻尾で器用に尻を叩いたペインは、騎士達を見たままニヤリと笑って羽ばたいた。
猛烈な突風に吹き飛ばされそうになった騎士達はやっと正気を取り戻すと、顔を真っ赤にして馬に跨りペインを追って駆け出した。
「ふはははは!我輩も大概ではあるが、奴等は更に馬鹿であるな!当初の目的も忘れて我輩を追って来たのである!!」
「ペイン様、ありがとうございました」
「ん?いや、構わないのであるよ・・・あそこで見て見ぬ振りをしていては、清宏に知られた時に何と言われるか分からなかったのであるからな。
同じ怒られるのであれば、我輩が気分の良い事をして怒られた方がマシである!!」
「もし怒られそうになった時には、私一緒に謝ります・・・」
「それは心強いのである!貴様が居れば、清宏といえど強くは出られまい!何せ、彼奴は貴様には甘々であるからな!まさに理不尽!!」
その後、ペインは騎士達のペースに合わせて飛び続け、馬が疲れ果てるのを見計らって一目散に逃げ出した。
追って来ていた騎士達は倒れてしまった馬に蹴りを入れ、遠ざかって行くペインに何やら怒鳴り散らしていた。
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