壊変福音の爆発探求

オドラデク

ツナガリblack box

 斑鳩いかるがカルガはファンタジー世界の探偵になりたかった。


 絶対に事件を解決しない迷宮探偵の系譜。


 正しいことが間違っていて間違っていることが正しいという虐殺が当然のように判決として鳴り響く論理の駒。


 それはあらゆるイデオロギーと同じようにこう始まる。


 昔々あるところに人間と人間がいました、と。


 ある日突然夜中に人間が襲われて死体が跡形もなく消えていた。

 残されたのは幼い娘が独り。


 村の人間は口々にこれは魔物の仕業であり冒険者がやって来るまで娘を保護しようと考えた。


 この村には何も問題がなく、ただちょっと貧しくてたまたま娘の家は収穫において少しだけ他の村の者よりも豊かになっていた。


 子供が独りで家にいるのは不自然で家の中にあるものは当然の村の人々に共有されるべきものだった。


 そこには娘が大切にしようとしていたゴミ屑があった。それはなんとなく気に入っていて隠しておこうとしたが村の人間に見つかってまだ隠しているだろうと探されて裸にされて気持ち悪かった。


 ところで娘は村を襲撃してくる怪物たちを追い払う役目を任されていたのだった。それをすることだけが村の人間が喜びかつゴミ屑を拾っても怒られないで済む方法だった。


 実際村の人間達はとても親切だった。両親はまともじゃないと言われていてそれなのに自分達は生活の安全を与えておりしかも十分な仕事すら任せているにだから。


 たまに自分はまともじゃないの?と娘は聞いてみた。村の人間は「お前にツミはない」と言っていた。両親は不幸なのだろうか?両親にはツミがあるのかと聞いてみた。返事はなかった。


 両親が怪物だと気付いたのは襲ってきた怪物に止めをさしきれなくてちょっと油断した隙にべらべら喋りだしたからだった。


 村の人間は気付いていた。だから冒険者が来るまで自分を保護しようと考えたのだ。でも村の人間は怪物じゃないし親切にしてくれる。だから──


「だから冒険者に殺される前にしおらしい遺書を残して置こうというわけね」


 冒険者の代わりに来たのはツギハギだらけの人形服を着せたみたいな動物の手を付けた女だった。何をそんなに嬉しがっているのかわからない。


「久々にたくさん人形を染色できたから」


 前置きもなく唐突に発言する。なんで、なんで?


「なんで村の人間を分別したかって?放射能の声が全く幻聴できないからかな。きみは大丈夫だけど」


 狂ってる!


「壊変探偵だもん」


 私の両親は近親結婚をしていてそれで──


「きみは村から逃げ出す人間を食料にしていた、でしょ?いつも通りの筋書きだ。安心して、それくらいじゃ人間は辞められないから」


 冒険者はどうして殺しにこないの?


「冒険者ってだけで見かけ次第駆除してたらうっかりやっちゃった。ごめん」


 じゃああなたが私を終わらせてよ。


「きみをさらいに来たんだ」


 どこにいけばいいというの?どこにも行けない。さらわれても受け入れられるわけない。私は生きたくないよ。


「どこにでもいる人間が滅びるのを見てるだけでいい。後はさらわれるだけ。簡単でしょ」


 あなたの、名前は?


「恥ずかしいから言いたくない」


 それは誘拐犯としてどうなの?

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