蒼き閃光のアルゼェイブ~現代に甦る古の大狼~

ヒョウコ雪舟

プロローグ 隠された歴史

 紀元前627年―バベルの塔。


 かつて全てを奪われた男がいた。男には愛するべき二人の娘がいた。だがそれすらも奪われた男は地位を捨て、名を捨て、黒い鎧にその身を包み。全ての元凶であった王に激しい怒りを覚えるようになっていく。


 赤い輝きを放つ黒き鎧を纏った戦士が、天にそびえ立つバベルの塔の上で、一人の男と対峙していた。紅いT字のバイザー越しに男を睨み付けるその瞳には怒りに満ち溢れていた。


 その男の体には無数の機械の管ような物が取り付けられている。彼はバビロニア帝国を治める現王カンダラヌ。その王は今、顔を歪ませ、黒き戦士を睨み付ける。


「よくも、ラビ(科学者)の分際で!! 我が王国を!!」


「カンダラヌ王よ。これで終わりにしよう! 野望の果てに眠れ! アーシェ! ア

ルゼェイブの全ての力を開放しろ!!」


『了解した。父上。全機能フルドライブ! アルゼェイブオーバーロード!』


 管理人格であるアーシェが、無機質な声が響く。


 その時、黒き戦士、アルゼェイブの体から紅き閃光が溢れ出す。その光が発する度、アルゼェイブの体が、筋肉が、全細胞が高速で活性化されていく。


「ぬぉぉぉ!! グフッ!!」


 アルゼェイブの口元から鮮血が零れ出る。それはアルゼェイブの力に男が耐えられなくなっている証でもあった。下手すれば自分はこの戦いで死ぬだろう。前まではそれでもいいと思えた。だが。


『父上、気にするな』


「アーシェ。だが・・・・」


『今さら逃げろなどと言っても、てこでも動きはしないぞ。私はアルゼェイブの管理人格、私はアルゼェイブと共にある。さぁ父上、これで総仕上げとしようではないか!!』


「ああ!!」


 愛しき娘に後押しされて、男は、アルゼェイブは宙高く舞い上がる。足の噴射孔から光が溢れ出した光がアルゼェイブを包み込み、一直線にカンダラヌとへ向かっていった。


「おのれ!! おのれぇぇぇぇ!!」


「この輝きは、虐げられてきた者達の赤く熱い魂の色!  その傀儡の体に受け止め、消え失せろ! ウォルフライア! ストライク!!」


 足から噴き出る紅き光は翼のように羽ばたき、まるでフェニックスのような姿になる。カンダラヌを固定している機械を粉砕しながら、強固なるカンダラヌの体へと遂に到達する。


「ぐおおおおおおおおおお!!!」


「ガッ!! ぬぅ・・・・おおおおおおっ!!」


 男の雄叫びに応えるかのように限界であったはずの、紅き閃光の出力が上がり、強固を誇ったカンダラヌの体にヒビが入り崩壊していく。


『もう少しだ! 父上!!』


「ああ!!」


 しかし、あまりにウォルフライア・ストライクの衝撃が強力だったのか、突如としてバベルの塔の床が崩落し、カンダラヌもろとも落ちて行ってしまう。


「ぬおおおお!?」


『父上!』


 アーシェは紅き閃光を操作し、アルゼェイブの背中から閃光で出来た翼が現れ、彼を地上まで導いた。大地に降り立ったアルゼェイブが振り向くとバビロニア王国の繁栄の象徴ともいえたバベルの塔が脆くも、崩れ去っていくさまが目に移った。


「カンダラヌ王は?」


『分からない。だがあれでの生存は困難だ。とにかく我らの勝利だ』


「そうか。だがまだ嫌な予感が・・・する。その時はこの子にも重い使命を背負わせてしまうだろうな」


 アルゼェイブの身体から眩い紅い閃光が走り、光が止むとそこには一人の中年男性と銀髪の少女だけが崩壊するバベルの塔を見つめている。その手に蒼き短剣を握りしめながら。


 その二年後、紀元前625年、王権はアッシリア帝国に反旗を翻したナボポラッサルという男が即位し、14年をかけてアッシリア帝国を滅亡に追い込んでいく事になる。


その功績者にカンダラヌ王を打倒した英雄であるはずのアルゼェイブの名が描かれることはなかった。


 バベルの塔での激戦は旧約聖書の物語の一部となり、人々に広く知られる事となる。神の怒りに触れ、破壊された伝説の塔として―


 そして数千年の時を超え、紅き伝説は蒼き閃光となりて回帰する。

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