第四章 初めての利用者
第四章 初めての利用者
「蘭、これにて帰りましょうか。まだ、話すことが残っているから。」
晴は勝手に帰り支度を始めてしまった。
「ちょっと待ってよ。水穂が心配だから、もう少し待って。」
蘭はそう言ったが、晴のほうは、迷いはない様子だった。
「多分、30分は目を覚まさないんじゃないですか。いつも飲んでいる鎮血の薬は少し眠らないと効かないですからな。」
懍が言う通り、しばらく横になって休むことが必要であった。
「そうですか。30分というとずいぶん長い時間ですわね。もうちょっと強いものがあればいいのにね。じゃあ、時間は無駄にできませんから、これで失礼しますから。」
「どうやって帰るのさ?」
「沼袋に電話してこっちまで来ていただきましょ。」
「でも、沼袋さん、道を知らないだろ。」
「所番地を言えばすぐわかるはずよ。それか、先生の電話番号を教えてもらうか。今はカーナビもあれば、スマートフォンでも道を調べられるわ。」
晴は当然のように言ったが、懍は生憎という顔をした。
「すみません、うちは緊急に連絡が取れるように、固定電話をほとんど使っていないのです。電話は僕のスマートフォンに直接つながるようになっております。それに、報道機関に出されると嫌なので、グーグルにも登録していないんですよ。」
「あら、おかしいですわね。そうしなければ、宣伝効果は出ないのではありませんか?」
「いえ、僕らは、宣伝をする必要はあまりないのです。利用を希望する人は、カウンセラーなどからの伝聞によりやってきます。それに、この製鉄所が繁盛すると、社会問題が増大したことになりますので。」
「まあ、なんですかそれ。誰でも商売が繁盛することはよいことなのではありませんの?」
「どうですかね。かえって繁盛しないほうがいい商売もありますよ。商売繁盛で大喜びできる事業は、こういう世界ですと、ほんの一握りです。」
「ますますわかりませんわ。鉄を作る商売なのに、なぜ繁盛すると喜ばないのですか?」
「まあ、少なくとも、水穂さんに対してああいう態度しかとることができないようであれば、多分、わからないと思います。」
「ちょっと先生!水穂ちゃん大変なことになっているから、来てやってくれませんか!」
いきなり顔色を変えて、調理係のおばちゃんが駆け込んできた。
「なんだ、水穂さんなら布団で寝ているのでは?」
杉三が代わりに返答すると、
「布団で寝ているなんて、それどころじゃないですよ!」
おばちゃんの顔を見るとかなり逼迫している様子であった。
「行ってみましょう。蘭さんのお母様も一緒に来てくれます?」
「あんまり大勢ではかえって迷惑ではないですか?」
「お母さん、しらばっくれるのはやめてくれ!もういい加減にしてくれよ!」
知らん顔をした晴に、蘭がまた怒鳴りつけた。晴は、仕方ないわねとだけ言って、懍の後をついていった。
「水穂さん、入りますよ。」
懍は水穂の居室に行き、ふすまをガラッと開ける。本来、休んでいるならエアコンがついているはずなのだが、今日はそれがなかった。几帳面に掃除してあるから、エアコンが壊れることは実にまれなはずだった。布団は、グランドピアノの下に敷いてあった。本来、部屋の主は布団に横になって休んでいるはずであったが、彼は机の前に座り込んでいた。そして、その近くにある窓が半分開いていた。
「おい、どうしたんだよ、お前!」
蘭が声をかけても振り向こうともしなかった。返答する代わりに激しくせき込む音しかしない。それも、先ほどよりさらに悪化したようである。口に当てた手ばかりではなく、着物の袖や襟、周りの畳などが、真っ赤に染まっていた。
「あれ、薬飲んで横になるんじゃなかったの?だって、机の上に袋おいてあったよね?」
美千恵が思わず聞く。普段であれば、薬はすべて机の上において保管しているはずなのだが。
「じゃあ、引き出しの中?」
美千恵は引き出しを開けようと手をかけたが、すでに血だらけの手が彼女の手を掴んでそれを止めてしまった。
「つまり、外へ落っことしたのかな。確か、この窓の外は川だったような気がする。」
杉三が思わずそういうと、
「馬鹿なことしないでくれ!そんな事したら、お前が消えちゃうじゃないか!」
蘭が思いっきり涙をこぼしながら、車いすから飛び降りるように降りて、手だけで這って彼の下へ近づき、その首に縋りついた。
「正確には川ではなくて、農業用水ですね。一年中水が入っていることはないので、タガメにでも食べられなければ、見つかると思いますけど、、、。」
懍が言い終わらないうちに、
「あたし、探してきます!」
美千恵が急いで立ち上がり、正面玄関から飛び出していった。
「あたしも!」
食堂のおばちゃんもそのあとに続く。
「水穂さんも、飛んだことをしてくれましたね。もう少し、立場というものを考え直してから行動してくださいよ。まあ確かに、そうしなければ謝罪の意を示せないと思いついたのは、無理もないかもしれないですけど、今は、自分が消えればいろんな人が困る立場であることを忘れないでくださいね!」
懍は、珍しく彼をしかりつけた。
「お前がそこまでしようと思うんなら、僕も相当追い詰めていたことになるな。それより、お前がその年で逝っちゃうのはまだ早すぎる。どうかもう少しだけ待ってくれ!頼む!」
蘭が、水穂に腕を回したまま、男泣きに泣いて、そう懇願した。このときばかりは、杉三ではなく蘭のほうが強い衝撃を受けてしまったようである。
「まだ早すぎるなんて、、、。」
晴が思わずそういうと、
「だめ!」
と、杉三が怒鳴りつけた。
「ごめんなさい。」
水穂もやっとそれだけ言葉が出たようである。
「謝んなくていいよ!僕はお前が今ここで逝っちゃうほうがもっと怖いんだから!」
丁度これと同時に、入り口の戸がガラガラと開いて、美千恵の声がした。
「みつかったよ!やっぱり用水路の中に落ちてたよ。もし、水が入ってたら、全部解けちゃって最悪だったと思うけど、幸い稲刈り間近で、ちょっとしか水はなかったから、一つか二つは残っていると思うよ。よかったね。」
鎮血薬は粉剤であるから、水に入れば言うまでもなくすべて解けてしまう。かろうじて残ったものがあって、本当によかったなと思った。
「よかった。じゃあ、タガメもいなかったか。」
杉三が言うと、
「タガメなんていないわよ。時期はとっくに過ぎてるわよ。」
水で濡れた足を拭きながら、調理係のおばさんが戻ってきた。
「はい、水穂さんの宝物。」
美千恵が半分濡れた紙袋を持って戻ってくると、懍はそれを本人ではなく、晴に手渡すようにと指示を出した。
「私が?」
「そうです。それを。」
口調は穏やかであるが、その顔は厳しかった。
「水、持ってこなくちゃ。」
晴は嫌そうな顔をしたが、しまいにはそれを受け取った。
「じゃあ、こっちへ来てくれる?」
おばさんが、晴を台所に連れて行く。しばらくして、晴は右手に水のはいったグラスを持って戻ってきた。誰もこうしろと指示は出さなかったが、晴は静かに部屋に入って、まだ咳の止まらない水穂に向かってそれを突き出した。水穂は、弱弱しくそれを受け取り、薬を飲みこんだ。
「よかった。頼むから横になってくれよ。そしてもう二度とこんな馬鹿なことはしないでくれよな。」
蘭が、半分泣き笑いしながらそういうと、
「ごめんね。」
と、水穂も答えた。そして美千恵に支えてもらいながら移動して、倒れるように横になった。
手についた血液の始末は、調理係のおばちゃんがした。
「本当によかった。もうだめかと思った!」
杉三がみんなを代表してそういった。確かにそうだなと思う。常に冷静沈着だった懍でさえも、こればかりは危ないなと感じていたようだった。誰もが大きなため息をつく。
「お母さん、これでも敵同士だと思えますかね、この二人。」
懍が、晴にそういうと、
「そうね。私の知らないことがまだあるのかもしれないわね。」
晴は静かに答えを出した。
「さて、あと五分で五時になりますから、僕は応接室へ戻りますね。もうすぐ到着すると思いますのでね。まあ、こんな大変なことが起こったばかりですので、本当はもう少しこちらにいたいのですが、前々から決まっていたので仕方がありませんな。」
いきなり、懍がそんな事を言って、顔の汗を拭きながら、車いすを方向転換させた。この切り替えのよさには皆驚いたが、晴だけは経験しているようで、
「先生、ありがとうございます。今日は突然押しかけてしまって、失礼しました。」
と、はじめと変わらない冷静さで懍にあいさつした。
「いえ、気にしないで下さい。もしお時間が来たら、おかえりになってくれて結構ですよ。もし、おかえりでお見送りが必要なら、調理係さんにお願いしておきます。あ、あと、教育者として言わせてもらいますけど、彼は決して劣等生ということはありませんでした。他のドイツ人の教授たちも口をそろえて勤勉な学生だと言っています。日本の親は過保護だが、いざとなると、ダメな子だというので、若い人がいつまでたっても自信が持てないのはそのせいじゃないのと僕もよく言われましたよ。子供に自信があるのなら、堂々としていればいいんですよね。」
急いでいたのか早口でそういって、懍は部屋を出て行った。
「僕たちは、水穂さんが目を覚ますまでここにいようぜ。」
「ええ、わかってるわよ。あんたの事だから、そうしないといられないでしょ。」
杉三と美千恵はそんな言葉を交わしている。晴は迷って、どうしようかと蘭に目配せするが、
蘭が、それを無視したため、ここにいることにした。それを見て、調理係のおばさんが、よかったとため息をついた。
懍が応接室に戻ってくると、丁度玄関の戸を叩く音が鳴った。
「はいどうぞ。お入りくださいませ。」
「失礼いたします。」
若い男性の声だった。
「お邪魔いたします。」
今度は女性の声も聞こえてくる。年代は二人とも同じくらいか、男性のほうが少し年下と思われた。しばらくして、がちゃんとドアが開いて、一組の男女が入ってきたのであるが、多分三十代の後半だろう。予想した通り、男性のほうが年下だとわかるが、すでに夫婦のようだ。今時珍しい、姉さん女房だ。
「はじめまして。塚田栄一と申します。妻の塚田しのぶです。」
「主宰の青柳です。よろしくどうぞ。」
とりあえず、形式的な挨拶を交わす。まあ、こういう事は、男性がリードするのが日本社会では当たり前である。それは姉さん女房と言われてもそうなっている。
「とりあえず、こちらへ。」
懍は、二人を応接室の椅子に座らせた。美千恵がきれいに拭いてくれたおかげで、床に血痕は全く残っていなかった。本来はお茶でも出すはずであったが、歩けないためにそれはできなかった。
しかし、一体この二人、何の用でここにやってきたのだろう。子供を預けたくて親がお願いをしにやってくる例はよくあるが、思春期の子供を持つ親にしては年が若すぎる。子供を持っていたとしても、五、六歳くらいだと思う。
「すみません、お二人は子供さんをおもちなんですか?」
とりあえず、そう言ってみる。
「いや、まだこれからなんですよ。」
「では、こちらにどうしていらしたのでしょう。」
「はい、うちの妻ですが、ちょっとこちらで預かっていただくわけにはいかないでしょうか?」
どういうことだと思ったが、何かわけがあるんだなと思った。しかし、既婚女性が製鉄所にやってくるとは前代未聞だった。
「そうですか。またどうしてここをお知りになったのでしょうか?」
「はい、妻が通っている産婦人科の先生に聞きました。」
またおしゃべりな先生だな、と思う。同時に、そんなところでもこの製鉄所の存在が知られるようになったことに驚く。
「しかし、カウンセリング事務所ならともかく、なぜまた産婦人科の先生がここの存在を知っていたのですかね。」
「はい、ちょっとわけがあるのです。僕の母の命令で、妻に出生前診断というものをやってもらいました。僕は最後まで反対しましたが、まあ商売をしている以上、やってもらいたかったのでしょう。結局、強制的にやったんですが、、、。」
「ああなるほどね。そこでパトウ症候群でも出たんでしょうかね。」
「よく知っておられますね。それとはまた違うんですけどね。」
「まあ、僕もこうですからね。僕らのころは、そんな便利なシステムはなかったので、結局何も知らなかったようですけれども、僕が生まれた時は本当にびっくりしたんじゃないかなあ。もし、父がノモンハンまで行っていなかったら、ここにいなかったかもしれませんね。生粋の軍人でしたので、捨ててしまえとか、平気で発言したでしょうからね。」
と、笑って長い髪を掻き揚げると、童話の妖精の形をした耳がむき出しになった。
「先生が、髪を長くされたのは、障害を隠したいからですか?」
不意にそれまで黙っていたしのぶが発言した。
「隠してもしかたありませんよ。隠そうが隠すまいが、ばれるときはばれるでしょ。そもそも、障害があって、それがなるべく他人に知られないように生きろなんて、教えるほうが間違いですよ。」
「でも、なるべくなら、知られないほうがいいんじゃありませんか?」
「なるべくなんていりませんよ。そういうことはばらしたほうが勝ちです。今は僕らの時代と違って、戦争をやっているのではないのですから、子供が障害を持っていようが、堂々と外へ出せばいい。僕の時代と違って、親まで責任をとる必要もないですから、義理のお母さんが何か言うようであれば、だから何だと言って思いっきり反発してくれればいいんですよ。少なくとも今の日本ではそれが可能になってます。僕のころみたいに、海外へ避難しなければ生存できないということはありません。少し周りを見てみれば、いろんな設備はありますから、その程度の事で落ち込まないでください。」
懍は、彼女を励ましたつもりだったが、彼女はとても対処できないという感じだった。これにはあきれてしまったが、今の時代なら、仕方ないのかと思った。
「例えば、僕のうちは先祖代々公家を勤めてきて、祖父が明治維新を迎えた時に、関東軍に採用されたので、父も、そのまま関東軍の司令塔をやっていました。僕がこのような姿で生まれてきて、母は周りからずいぶん責められていたようで、父がノモンハンに行ったのにこじつけをして、ドイツに逃げました。母は、避難したと言いましたが、まさしくその通りです。ですが、今の時代はそのようなことは何もないんですよ。日本国内にいても十分に育てられます。生まれる前からそのようなことで落ち込まれていたら、先が思いやられますよ。親になるなら、四面楚歌になっても子供を育てるくらいの覚悟をしてください。」
具体例を出してかみ砕いて説明したつもりだったけれど、二人とも全くわかってくれなかったらしい。確かに今時の学校でノモンハン戦争に言及するところなんてないだろうし、日本の学生は、昔の事をいくら語ったとしても、そこから感動してもらうことができないと、ドイツの教育者が言っていたことがあるが、具体的に言えばこういう事だと改めて思った。とにかく、彼女たちが求めているのは、これから生まれてくる子供さんが障碍者であるとはっきり言われてしまったので、そのショックに耐えられないから、少し休ませてやってくれという事であった。自分の母は、休んでいる暇はなく、さっさと行動を起こしてくれたのだが、今の女性はそういう行動はできないのかな、と、時代の移り変わりを突き付けられたようである。
「わかりました。まあ僕が大昔の事を話しても、通じないのも確かですから、これはやめにします。一つか二つ空き部屋があるので、どうぞ滞在なさってくれて結構ですよ。」
懍がそういうと、若夫婦はやっとうれしそうな顔をした。これだけはどうにか通じてくれたらしい。
「ありがとうございます。明日家財道具を持って、こちらに参りますので、よろしくお願いします!」
「滞在してくださるのはかまわないですけど、くれぐれも流産には気を付けてくださいませよ。」
注意点を言ったつもりだったが、果たしてそれも耳に入っているかどうか疑問だ。でも、若夫婦というのは、そういうものかもしれない。自身は障碍者として生きてきたから、今時の若夫婦というものには出会わなかったのだろう。ベルリンで教えていた時の大学生たちは、ここまで軽薄ではなかったが、ここは日本である。違うんだ。
とりあえずお礼を言って、喜んで帰っていく若夫婦を見ながら、また新しい展開が始まりそうだなと考えていた。
そのころ。
水穂は布団の上で静かに眠っている。その隣には蘭が畳にじかに座って、彼の右手を握りしめていた。晴は、何度か帰ろうと言いたかったが、蘭は母親の顔なんか見ている暇もなさそうだ。せめて、車いすに乗れと伝えたくても、それどころではなさそうだ。杉三は子供のころから庵主様の下で仏法を習いに行っていたようだが、蘭にはそのような教育はさせなかった。宗教なんてなんの役にも立たないからと言い聞かせてきたつもりだったが、こういう場合は必要なのかもしれなかった。もし、お経でも唱えることができたら、多少蘭の衝撃もやわらいだかもしれない。
「しかし、ずいぶん汚れたわね。また畳屋さんに来てもらわなきゃだめか。」
美千恵が言う通り、この部屋は畳であったが、畳のあちらこちらに血痕が付着していた。
「いくら拭いても足りないんだよな。机にもシミが付いているよ。机も新しいものにしたほうがいい。ピアノの鍵盤もそのうち血に染まるかもしれない。」
杉三が心配そうに蓋のしまったピアノを見た。
「もうとっくにそうなったかもよ。とにかく、青柳先生が戻ってきたら、畳の張替えは提案しましょうね。」
いくら張り替えても、すぐにもどってしまうのであれば、かえって不経済とおもわれるが、それでも張り替えてやろうというのは、水穂がどれだけの「偉業」を成し遂げたのかを証明しているのかもしれなかった。そういう事を、仏法用語で功徳と言っているが、勿論晴も蘭も知る由もない。
正面に小さな本箱があった。A4サイズの楽譜がぎっちりと入っている。タイトルのほとんどはキリル文字で書かれていたから、何と書いてあるのかは理解できないが、スペルを読めば少なくとも著者は同じなのだというのはわかる。タイトル欄には血痕が付着しているものも少なくなく、同時に指紋が付着していたりして、養源院の血天井に近い雰囲気があった。
「あの本、なんて書いてあるんですか?」
思わず聞いてみた。
「そうねえ、ロシア語は私もわからないけど、なんでもレオポルト・ゴドフスキーという人が書いた曲らしい。」
美千恵の答えに、思わず、というか、必然的に驚きを隠せない。
「ゴドフスキー!世界一難しい曲を書いた作曲家じゃない!よく持ってられるわ。」
「まあねえ、私も詳しいことは知らないけど、桐朋時代によく人に頼まれて演奏していたんだって。」
「だって、ゴドフスキーと言ったら、超難曲よ。全曲録音にチャレンジしたピアニストも五人もいないでしょうし、音大出たからと言って、すぐにできる作曲家じゃないわ。ホロビッツも匙を投げて、リストより難しいといっていたような、、、。」
「それだけ努力したってことよ。倒れちゃったのもある意味その結果でしょ。」
そうかもしれない。
「少なくとも、水穂さんの家は、金とコネで安全なところへ逃げるという行為は、できなかったんじゃないの。」
杉三の一言で、自分の負けだと晴は確信した。同時に、蘭にも宗教的な教育をさせてやればよかったなと後悔した。
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