第67話俺たちがいた秘匿部隊だ

敵味方の銃弾が大量に飛び交い、壁や扉に当たって破片をまき散らし、まるで嵐の中で揉まれているようだった。常世部屋の前には生き残った味方が集結していた。


ここを抜かれたら終わり、といういわゆる最終防衛線。決して広くはない地下通路に銃声が反響し続け、もはや他の音は聞こえない。

敵は各扉前の窪みに隠れ、着実に距離を詰めてきている。常世部屋には現在第三夢層に行っている者たちの身体がある。向こうの戦況は分からないが、こちらが抑えられれば、戦況は大きく傾いてしまうだろう。


「おい、レイイチ。こんな窮地は久しぶりだな!」


 レイイチの隣にやってきたのは十二班の班長、ナガタだ。酒は入っていないのにいつも酔っ払っているような人だ。白髪が目立ち始めた四十過ぎの男はどこか楽しそうだった。


「何をニヤついてんですか」


 呆れながらレイイチも苦笑する。お互い顔を近づけないと声が聞こえない。


「俺たちみたいな人種はよ、もう普通の世界には戻れないわけよ、な。それになにより、これが俺たちの仕事だろ、違うか? 仕事が楽しいなんてサラリーマンの鏡だろ?」


 歯を見せて笑いながら弾倉を手渡してくる。


「そんなことより、会長たちは?」


「反対側にいるよ……おい、今そんなことって言ったか? レイイチ、おい、どこいく」


「ナガタさんのいないとこ」


「おい」


「嘘ですよ。あの部屋、資料室ですよね? 確か中で繋がってるんですよ。うまくいけば連中の後ろに出られるかもしれない。援護して下さい」


 ナガタの瞳が光る。


「……相変わらず冷静な奴だな。分かった。お前のタイミングで行け」


 廊下の角から何度か銃撃を繰り返し、一人を仕留めて今まさに飛び出そうとした瞬間、無線機から味方の叫ぶ声が聞こえてきた。


「敵勢力撤退を開始っ! 繰り返す、敵勢力撤退中っ! 」

 飛び交う銃弾の数が明らかに少なくなった。

 向かい側の扉の前で、肩から血を流し座り込んでいるオゼキと目が合い、ハンドサインでもう大丈夫だと送る。


「終わりか? ミュンヘル軍が勝ったのか?」


 ナガタが呟く。


「もしそうなら〈CS計画〉も〈イービルアイ作戦〉も成功ですね……」


 しばらくして完全に敵の気配が消えた。味方がぞろぞろと廊下に出てくる。それでも銃口はまだ廊下の奥に向いたままだ。全員で距離を詰めていくと、敵の遺体がいくつも見えてきた。ナガタに肩を叩かれ、振り向く。


「見ろ、レイイチ。俺たちがいた秘匿部隊だ」


 倒れている敵兵士の装備は確かに見覚えのあるものだった。


「本気……出してきたってことですね、この国も」


「そうだな。……まあ、うちは超ホワイト企業だから、これからは時間外手当と危険手当がたんまり貰えるな。ホクホクだな」


 本人はいつも呑んでないと言っているが、やっぱり一杯引っかけてるんじゃないかと思いながら、レイイチは足を進めた。

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