第54話創石衆最高幹部
先導する精霊の後を追い、城壁に空いていた小さな穴から城内に入ったアイレンは、転がっているいくつもの死体を出来るだけ見ないようにしながら、立ち止まったままの兵士や文官の様子を観察した。
濃度の高いものを飲んだのだろう、アイレンが知っている知識よりもだいぶ状態が悪い。禁薬の本は何度も読んだ。症状も分かるし、解毒も材料さえあれば出来ると思う。それにしても、この大きなお城のほとんどの人に蔓延しているとは一体どうやって……。
王宮の外縁部に各行政機関が集まっており、目指すべき創石衆の部署もそこにある。小さな精霊は時折立ち止まったりして、アイレンの走る速度に合わせてくれる。
その時、中庭にふと動くものを見た。鎧に白い豪奢なマント、王族の近衛兵だ。身体の所々に血がついている。目が合った。その途端、剣を振り上げ、よたよたとこちらに向かってきた。
「あ、あああの……」
もはや声は聞こえていない。充血しすぎた目を虚ろに向けてくるだけだ。この人が操られて人を斬っている……? アイレンはその場から駆け出した。怖くて振り向けなかったが後を追ってきているのは分かった。
雨の音しか聞こえない静寂の中をアイレンは走った。いくつもの通路を通り抜け、階段を上がり、曲がり角を曲がって、幾人もの禁薬に侵された立ち尽くす人々をすり抜け、ようやく目的の扉の前に着いた。
もう近衛兵は追ってきていない。どうやら巻いたみたいだ。アイレンは乱れた息を整え、扉を開けた。
さっき頭の中に流れてきた映像と全く同じ光景がそこにはあった。創石衆最高幹部の一人、マカベウ・ビエソ。偉大なる創石師はもはや抜け殻と化していた。
「マカベウじい……」
近寄り、顔を覗き込む。間近で見ると少し怖い。人間じゃないみたいだ。部屋を見回す。壁には瓶に入った色とりどりの石がぎっしり並べられている。反対側には分厚い専門書がズラリと並び、部屋の奥はどうやら実験室のようで、たくさんの机の上に得体のしれない実験機器が所狭しと置かれていた。
アイレンは近くの机の上に、見繕ったいくつかの専門書と解毒に使えそうな石を片っ端から広げた。
「わ、私がなんとかしなくちゃ……」
マカベウを治せば、きっと全員分の解毒薬が作れる。ここにいる人たちの命は私に掛かっているんだ。生まれて初めての大きな責任感と重圧にアイレンは震えが止まらなかったが、集中して作業していくうちに、いつの間にか手が勝手に動くようになっていた。
その後も一心不乱に解毒薬を作り続け、数時間後、ようやく少量の薬が完成した。
アイレンは薬を手に、マカベウの前に立った。
(どうか……ガシャでも精霊でもラトゥール神でもお父さんでもおじいちゃんでも……誰でもいい。お願い、マカベウじいを助けて!)
アイレンは勢いよくマカベウの口に解毒薬を流し込んだ。
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