第18話こちらの世界に来るつもりか

「〈バリアン〉の時もそうだった。歴史が動き、二つの世界が再び交じり合う……。今度こそ救世主であればいいのだが……」


「この後はどうなる?」


「さあな、我が王国で知る者はいまい。続きが書かれた〈球史全書〉が発掘されているのかどうかも分からんのだ」


「……まあいいマルベック。なにはともあれ、その子の保護を頼む。我々がそちら側へ行くまで」


 ウエムラのその言葉に、マルベックは眉を上げた。


「お主ら、こちらの世界に来るつもりか……。いや、わしとしては結構じゃが、過去の事がある。そう簡単に王族が許可を出すか……」


「我々がそちら側へ行かねばならぬ理由は、それだけではないのだ」


「……なんだ?」


「シャガルム帝国内に正体不明の巨大建造物がある。それも複数だ、知っているだろう?」


「ふむ、〈光球霊塔〉のことか? 噂では精霊を捕獲し、あらゆる動力に転換していると聞いた」


「そうだ。詳しい仕組みは知らんが、おそらく精霊だけではない」


「……というと?」


「こちら側の人々の生体エネルギー、つまり霊魂を吸い取っている。吸い取られた人間は皆昏睡状態だ」


「なんと……それはまことか?」


「実際、こちら側にも被害が出ている。マルベック、我々の入る許可を国王に打診してくれないか」


 マルベックは少しの間、黙って水平線を眺めていた。


「二つの出来事は連動している……いや……。シャガルム側が動く前に対処しなければ……承知した、ウエムラ。わしにまかせろ」


 マルベックとウエムラが互いに手を握り、会合が終わろうとした時だった。


『オペレーターより各員、北北西より〈構築師〉の信号を確認。至急撤退されたし』


 ウエムラ、エリ、レイイチの頭の中に男の声が響いた。


「早い……」とエリが呟く。


「どうした? ……〈構築師〉か」


 三人の様子を見ていたマルベックの質問にウエムラは「そうだ」と答えた。


「討伐軍と護衛軍に分けて出陣します。レイイチ、護衛は任せたわよ」


「お好きに」


ウエムラとマルベックが立ち上がったと同時に「信号パターンは?」とエリがオペレーターに尋ねた。


『信号パターン……F! 前回取り逃がした奴です』


「あいつか……会長」


「……ランクは?」


『Bランクです』


「いいだろう。ただし、マルベックを送り届けてからだ」


エリは頷くと、瞬時にその場から姿を消した。


「行きましょう。城の門まで移動しないと、外へは出られません」


 レイイチはマルベックを促した。


「すまん、世話になる」


 三人は幻の南国リゾートホテル部屋を後にした。

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