32.踏まれた猫の物語

 ズチャズンチャッチャ。ズチャズンチャッチャ。

 テレビから流れてきたのは聞き覚えのある曲。


「この曲には悲しい話があるのを知ってる?」

 瞳の言葉に千也は首を横に振った。

「ある母子が一匹の猫を飼っていたの。お母さんが猫ばかりを可愛がって自分には見向きもしないから息子はいつも猫を踏んだり蹴ったりしていじめていたの。猫をいじめたらお母さんが怒ってくれる、それが嬉しかったのよ。でもある日、母親は息子と猫を置いて出て行ってしまった。息子はいつもと同じように猫をいじめたけどお母さんはもう怒りに来てくれない。呆然としている息子にボロボロになった猫が擦り寄って、ニャアと鳴いたの。猫は息子の気持ちを知ってていつも黙っていじめられていたのよ。それから息子は猫と二人で暮らしていったの」

 ちょっと感動した千也は小さく口の端を上げて笑った。

「いい話だな。そんな話があるなんて知らなかった」

「当然よ。私が今、作ったんだもの」


 ズチャズンチャッチャ。ズチャズンチャッチャ。

 テレビから流れてきたのは聞き覚えのある曲。

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