第13話 マコ姐さん
「・・・」
最後の客が帰った後、元少年を傷つけたはずが、何だか自分が一番傷ついていることに気づき、私はやるせない気持ちで、一人うなだれていた。
「どうしたんだよ」
「あっ、マコ姐さん」
部屋の入り口に立っていたのは先輩のマコ姐さんだった。この仕事を一から教えてくれたのはマコ姐さんだった。
「また泣いてんのか」
マコ姐さんは私の部屋に入ってくると、ベッドに座る私の隣りに同じように座った。
「なんかあったのか」
仕事を始めたばかりの時、泣いていた私をやさしく抱きしめてくれたのも、マコ姐さんだった。
「私・・、なんだか、訳が分からないんです」
「考え過ぎだよ。お前はいつも考え過ぎるんだよ。難しいこと考えるから苦しくなるんだよ」
いつもながら何も事情を訊かず、いきなり結論を言うマコ姐さんは無茶苦茶だった。だが、こういうところがマコ姐さんの良さであり、好きなところだった。
「でもなんだか・・」
「こういう時は酒だ」
「えっ」
「飲み行くぞ」
いつもながら理屈もへったくれもなく、マコ姐さんは強引だった。酒を飲めば全てが解決すると思い込んでいる。
「行くぞ」
「はい」
私は元気いっぱい答えた。でも、こういう時、なぜかマコ姐さんといると元気が出た。マコ姐さんは、今私が一番頼りに出来る、そして信頼出来る人だった。
早朝の誰もいないシャッターの閉め切られた店の並ぶ商店街を、私とマコ姐さんは肩を組んで、よたよたと千鳥足で歩いていた。
「グガアァ」
マコ姐さんが私に向かって、特大のゲップをした。
「わっ、くっさ~」
私たちはしこたま、にんにくの利いた味噌だれホルモン炒めを食べていた。
「ははははっ」
「ははははっ」
私たちは訳もなく笑った。なんだか訳もなく楽しかった。今までの辛いことも、今抱えている問題も、今この時、全てを忘れられた。
「今日もしこたま飲んだな」
「はい、飲んじゃいましたね」
「酒は良いな」
「良いですね」
空はもう白み始めていた。深夜に仕事が終わってから、そのまま飲みに行き、何件かはしごした後、終電もなく私たちは、よたよたとあてもなく、人のいなくなった閑散とした早朝の街を彷徨い歩いていた。
「あっ、マコ姐さん。こんなとこで寝ちゃだめですよ」
マコ姐さんは、商店街の道の真ん中で大の字になった。
「お前も横になれ」
「はい」
私もマコ姐さんの横に並んで大の字になった。タイルの硬さと冷たさがダイレクトに背中に伝わる。
「・・・」
いつもと違った景色、いつもと違った世界がそこにはあった。同じ世界、同じ現実。だけど、それは全く違う景色だった。
「・・・」
私は青春を感じていた。私には全くなかった青春を・・。
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