第57話

 夜の十時近くまで説教をされた友里は、ややうんざりとしながら自室に戻った。


 怒られている内容が、理解できないわけではない。むしろ、的を射ていると確信できる。


 が、何処か、こそば痒いのだ。

 

 危険なことをした……そうだ。でも、だからダメなのではない。友里がを恐れて、叔母の由紀子は、説教した。


 そこにあるのは、下心も厄介心もなく、ただただ心配から来る怒り。


 友里は、照れ臭さで頭をガシガシと引っ掻き、部屋の扉を閉じた。


 ◇◆◇


 学校は、いつもと代わり映えがなかった。

 ただ、友里が教室に入ってきたとき、由紀があわてて目をそらしたくらいだ。


 友里も変わることもなく授業中に堂々と本を読み、光國はそんな友里に声をかける。


 すべての授業が終わり、友里が帰ろうとしたとき、由紀が椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がった。


「あの……!!秋田さん!」


 友里の目を見てしゃべる由紀。

 ランドセルを背負いかけていた友里は、一時的に動きを止めた。


「何か?」

「昨日、ありがとうございました!あと、嘘をついてごめんなさい!」


 そう言いきると、由紀は勢いよく頭を下げる。

 それを見ていた友里は、短く言う。


「そう。別に、気にしていない。」


 ピンク色のランドセルを背負うと、友里はすたすたと廊下へと続く引き戸に手をかける。


 教室から出る間際、友里は、由紀に言った。


「名前を呼ぶとき、友里でいい。」


 驚いた表情をする由紀を放置して、友里は一人で下校していった。


 ◇◆◇


「シキと呼ばれる吸血鬼、ねぇ……はぁ……。」


 報告書を受け取った吸血鬼討伐委員会の男は、思わずため息をついた。


「伊東さんに報告しないとね。」


 男の隣にいた女性が、ハキハキと言う。

 艶やかなポニーテールが動く度にふわり、ふわりと上下する。やや茶色に近い黒の瞳は、はっきりと真っ直ぐと前を見つめている。


 ぐったりとした男は、からかうように女性に言う。


「伊東さんに報告するってことは、阿笠さんにも会うってことですね。牧森まきもり先輩。」

「………はぁ………。」


 女性、牧森は、思わずため息をついた。

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