第44話

「他には?」

「他、というと?」

「他に、マスコミに教えいない情報は?」


 友里がそう聞くと、伊東は苦笑いをして、一言。


「ありすぎる。何を聞きたいのかね?」

「……上里町事件で公表しなかった情報。」


 友里は表情を変えずに質問を続ける。

 伊東は顎に手を当てて、答える。


「ふむ、後は、上里町に居着く吸血鬼どもが増えて、吸血鬼どもが組織化したことか。」

「……わかった。じゃあ、後の半分の情報を教えるわ。まずは、『ミヅキ』と呼ばれる吸血鬼に出会ったこと。」

「ほう?よく生き残れたな?」

「ふざけたゲームとやらに誘われて、母が殺された。」


 ◇◆◇


「ふむ、いくつか貴重な情報があった。助かった。」

「そう。私も有意義だったわ。」


 友里は伊東を見ながら答える。

 ちょうど、保健室の先生が戻ってきたらしい。扉が軋む音をたてながら開けられた。


「秋田さん、親御さんがいらっしゃったみたいですよ?」

「ありがとうございます。」

「では、秋田君。またいつか。」


 伊東は胡散臭い笑みを浮かべて、友里を見送った。


 ◇◆◇


 考えていた。私は何をすればいいのか、と。


 家族を私の愚かな判断で失った。


 私は、そのときにきっと死んでしまった。


 だって、あのときから周囲の話が雑音に聞こえるようになってしまったのだから。色のない世界になってしまったのだから。喜怒哀楽かんじょうが消えてしまったのだから。


 でも、名無しさんに出会って、音と色を少しだけ取り戻して、たまたま学校にやって来た吸血鬼から光國を守って感謝をされて、感情を少しだけ取り戻して。


 私は、生き返った。

 でも、生まれ変わった訳ではない。


 鉛みたいな記憶に振り回されて、訳のわからない感情に殴られて。


 私は、変われなかった。完全に生き返ることもできなかった。


 感情を色で表そうとしても、まだ複数のいろが混じりあった状態としか言いようがなくて。

 言葉に変えようとしても、大声で吼えるしかそれを表現するすべがなくて。


 完全に生き返るには、何をすればいいのか。


 きっと、それが達成できたとき、私は生き返れるのだろう。


 月は、丸みを取り戻していた。

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