小猿
ある夕、夜中のような暗さの、ひどい雨風となった。
堂の扉をぴたりと閉め灯りも付けず寝ていたが、扉の向こうに、こつこつこつこつと小石のぶつかるような音を察し、起きあがって扉を細く開けてみた。すきまから毛毬のようなものが転がり入ってきた。濡れすぼんだ毛を上着の裾で拭き拭ってみると、ここらで見かける小猿の子で、変わり種なのかやたらに毛色が白い。一握りで潰されそうなせむしの厚い掌でぶるぶる震えている。
小猿は、なにか掛けるものをくださいと自ら口をきいた。なにかくださらなきゃ風邪をひいちまう、と続けて言い、どんぐりのような小さい足をタンタンと踏み鳴らした。次に、じゃあね、自分で取ってきますからどこにあるか教えてくださいな、と言い、寝床と机しかないせむしのがらん堂をきょときょと見回し、それでも相手が黙っているので、取ってきますから教えてくださいよう、教えるのが面倒なら自分で探して来いと言ってくださいよう、と、さらにタンタン足を踏み鳴らす。
ここには俺の服と布団のほかに布はないとせむしが答えると、小猿は首をひねっている。ぼくに掛ける布は無いということですか、と聞いてくるので、そうは言っていないと答えると、小猿は泣きそうな声で、だってあなたの服か布団をぼくが取るわけにはいかないもの、ぼくには大きすぎるし、あなたには悪いし、それくらいわかってくださいよう、と言い、ますます足をタンタン踏み鳴らす。せむしは、小猿が濡れてぶるぶる震えていることより泣きそうなことより、はやくその小さな足のタンタンを止めてやらんといかんという気がどうにもして、ではな、あの机から鋏を取ってきて、お前の要るだけ俺の布団を切って持って行っていいと答えた。
小猿はひとつ頭を下げ、部屋のすみの机へ走って行き、裁縫鋏をよいせとかつぎ、よろよろとせむしの布団に向かい、足元のほうを切り始めた。身に余る鋏を持ち上げて、ふうふう息をつきながら、身の丈きっちりの方形にまっすぐにちょびりちょびりと切るものだから、終わるころにはその白い毛は、雨に濡れたのだか汗で濡れたのだかわからなくなった。
雨風が止まぬので、せむしが今晩は泊れと言うと、小猿は、いましがた自分であつらえた布団にくるまり、せむしの布団の枕元にころりと伏して、ああこれはいい、あたたかいと言い、すぐに寝てしまった。
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