魔法少女エクスコーデ

@katze1

第1話私が魔法少女と出会った日

「そろそろ朝礼始まるよ、みんな席ついて!」


 それは五月の連休明け。


 幸出女子高等学校、一年C組。




 今日もはりきってクラスを仕切っているのはこの私、学級委員の格子戸若菜だ。


 十五歳、牡羊座のA型。バリバリの女子高生。


 誰もやりたがらない中で一人立候補し、一分足らずで学級委員は私に決まった。




 高校生活の始まりは新たな人生のスタート。


 そう、私の目指すべきは清く正しい健全なスクールライフ!


 その為には人が嫌がることだって、率先してやるぜ!




 中学時代の私は、正直パッとしなかった……


 だからこそ、変わってやるんだ。高校デビューってやつよ!




「……だるいわね」


「ねっむ、やっぱ今日休めばよかったかも」


 二人の生徒が教室にはいってくる。遅刻ギリギリの登校だ。


「まーたアンタたちか……」


 私のテンションは一気に下がった。


「菱黒さん!玉野さん!たまには余裕もって学校来れないの!」


 背の低い、人形のような女子が菱黒真白。


 背の高い、典型的なギャル系女子が玉野水恵。


 この二人は私の天敵といってもいい。


 とにかく身勝手。協調性ゼロ。


 朝礼には遅れてくる。


 放課後に係を決めるって言ってんのに


 勝手に帰宅。 


 体育の着替える時間も守らない。


 実に忌々しい。


 二人が変な格好をして、街中を走り回っていたなんて噂もある。


 変人がプライベートで何をしていようと、知ったことではないが。


 クラスをまとめる立場にある私の苦労なんて、きっとこいつらには分からないだろう。 


「……うざ」


「はいはい、さーせんした~」


 こちらを気にかける様子もなく、淡々と席につく。


 いつものことなので、私もそれ以上何も言わなかった。


 一応注意はしたのだから、学級委員の勤めは果たしている。


 問題を起こすようなことがない限り、深くは関わるまいと思っていた。




 放課後。 


 解放感にあふれた生徒たちが、ぞろぞろと家路につく。生徒の服装は制服、私服とバラバラだ。


 この幸出女子高等学校は、この橋尾市で唯一私服通学が認められている。それを目当てにこの高校を受験する生徒も少なくない。


 当然、私服派の方が多いが、私は制服(正確には標準服と呼ぶ)で通っている。今の私は、服装には無頓着なのだ。こっちの方が、楽でいい。


「確か、ここらへんだよね……」


 愛車のスクーターを道路端に停め、ヘルメットを外す。


 私は今日、風邪で欠席したクラスメートにプリントを届けにきていた。 


 明日も学校に来るとは限らないし、学校の行事に関する大事なお知らせなので、私が担任に頼まれたのだ。


 欠席した美奈子さんの家は学校と同じ町内。私は隣町から来ているので、このあたりの土地勘はない。


 先生に教えてもらった道筋を頼りにここまできた。


 現在17時半。


 周囲に人影は全くなかった。


「あれ…?」


 ふと、近くの公園に目をやると、見覚えのある女の子がブランコに座っていた。 


 美奈子さんだ。


 こんなところで、何をしているのだろう。


 自宅で休養をとっていると、思っていたのだけど。


 よく見ると、虚ろな目をして何かをぶつぶつとつぶやいていた。


 突然、彼女の上半身は後ろに倒れた。


 後頭部が地面に直撃する。


「ちょっと!大丈夫?」


 私がびっくりして駆け寄ると、美奈子さんの体から、茶色のモヤみたいなものが出てきた。


「なに…これ…?」 


 とどまることなく、どんどんと溢れてくる。


 やがてそのモヤは、猛獣のような姿になって私の目の前に立ちはだかった。


 私は恐怖で腰が抜け、しりもちをついた。


 (や、ヤバい……!)


 何故か、周囲に人影は全くない。


 何だか分からないけど、逃げなきゃ。


 そう思った時、


「乙女のハートがきらめくとき~♪魔法の言葉が勇気に変わるの~♪」


 歌が聞こえてきた。


 どこかで聞いたような、アニメの主題歌みたいな歌が。


 振り向くと、人影が二つ。


「あんた達は……!」 


 菱黒真白と、玉野水江であった。


「あちゃ~、何でこんなところで、委員長と会っちゃうかね~」


「さっさと済ませたいのに、予想外の展開ね」


 どういうことよ、これ……。


 ふと見ると、BGMは水江の右手に持っているスマホから流れていた。


 そのままスマホをポケットにしまうと、


「ま、別に見られたって、どってことないよね~」


「そうね。いざとなれば口封じすればいいから」


 水江は財布のチェーンを。


 真白は裁縫用のハサミを取り出した。


 一体、この二人はなにを……?


「ドレスアップ!」


「……ドレスアップ」


 何かをつぶやいた二人は、急に眩しい輝きを発した。


 私は思わず目が潰れそうになって、よろめく。


 本当に、もうなんなの!


 閃光が消えると、そこにいた二人は。


 いつの間にか、服装が変わっていた。


 その格好は、私から見たら……




 まるで、魔法少女のようだった。

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