43 悠久へと架ける希望④ 遥か未来と命を紡ぐ
俺は臣級の放つ異界化学線を受けた直後、その異能を
異界の炎も同様だ。
それは結晶の欠片を持ってしても異粒子量が足りない異能なのか、そもそも俺の処理能力不足なのかはわからなかった。
だがもっとシンプルに考えられる結論がある。
俺はこの先も臣級を倒せていないという事だ。
倒せなくてはマギドプラズムを得られず、異能が手に入らない。
将来の俺が
・・・・おそらくはこれが真実。
なぜなら他の要因であれば少なからず臣級異能の手応えが俺のなかに生まれる筈だがそれが全く感じ取れなかったのだ。
俺の中で確実に臣級に対処できる異能は未来分含めても残念ながら持ち合わせてはなかった。
だが対策はある。
「古ヶ崎・・・・あとは頼んだぞ」
「ええ、あなたの事は、私が・・・・必ず・・・・」
俺の思い描くプランは古ヶ崎に伝達済みである。
緊張している事が彼女の表情からも伺える。
それはとても実現可能なものとは思えないが、これしか方法が思い浮かばないもの。
古ヶ崎の結晶適合霊樹による変性術は強力ではあるものの、神級の次点に位置するレベルの臣級の命に至る事はないだろう。
少なくとも残りの限られた手数では。
『すべての異能を発揮しなさい』
ホークスが俺に投げ掛けてきた言葉を思い返す。
それが大切な人たちの命を紡ぐ唯一の手段だと今の俺なら確信できる。
それをいま、発動する。
【未来細胞同期】、展開!
未来の俺の細胞が、現代の俺に繋がろうとする異能、さらに・・・・
【ブーストトリガー】・・・・全開!
その同期をブーストさせた!
複数異能を持つ俺が出来る、異能の掛け合わせ。
その中でも特質な異能に対してのブーストである・・・・
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未来接続の効果はとてつもなく高まった。
俺は意識だけの感覚に陥り、時間という概念が俺自身を通り過ぎていく。
境空間に飛び込む時と同じようだが、あまり似ているものではなかった。
無限に広大な世界を渡るのではなく、終わりのない線を辿るような感覚。
連続している時間線を、細胞を媒体にして跳躍していく。
未来視と共に、俺の意識は魂ごと未来へと投じられていった。
深く、遠く、遥か先まで・・・・・
そして探し続けた結果、俺の細胞の未来線は途切れた。
それは自分の寿命の行き止まりを意味する。
だが細胞同期の高度加速化の成果を実感する。
俺は少し巻き戻って、枝分かれした細胞のつながりを辿った。
そしてさらに先へと飛び込む事に成功した。
・・・・・。
みつけた・・・・!
そこは・・・・
将来生まれるであろう、自分の子孫の細胞だった。
俺の細胞から分離した存在、だが俺と繋がっている細胞。
おそらく異能は遺伝するものなのだろう、【未来細胞同期】も継承され数世代先までこのリンクは繋がっていた。
遥かな時間を巡り、辿りつき見つけたひとつの異能・・・・。
俺はその異能細胞をそっとすくいあげるようにし、過去の自分の体に向かって繋げた。
・・・・届いた。
俺は魂の意識体のまま達成感に満たされた。
果てしなく遠くまで来てしまった。
すでに肉体との距離が遠く離れてしまった。
俺はどうなるのだろうか。
この行為によって未来線はまた分岐しただろう。
子孫を残す俺は別の未来線へと分岐し、今の俺はこのまま漂い続けるという世界。
因果律の矛盾を引き起こした行為だ。
だがこれしか、花梨を凛ちゃん、結奈さん、古ヶ崎を救う手がなかった。
支配級第2位である臣級を葬るという規格外な事を実現する手段は他にない。
だから迷いはない。
悠久の未来と、俺たちの世界の橋を架けていく・・・・
発動してくれ・・・・
異能 『異次元断層』・・・・!!
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魂を未来に置き去りにしたまま時間跳躍した異能細胞が現代の肉体に伝わり無我状態で異能を繰り出す。
ホークスが世界的な科学実験によって生み出したブラッドマンデーの正体。
第一事象『異次元断層』
この異能を臣級の目前で一瞬だけ発動させるようにしていた。
発生した断層はまるでブラックホールの穴のように強力な吸引力を持って臣級を吸いこもうとする。
虚層塔の不可逆な転移に対して、この
俺の体は臣級と至近距離状態まで詰めていたため目の前に発生した断層から逃げるすべはない。
逆流転移から逃れようと臣級はあらゆる異能を駆使するだろうが、抗うための決定的な異能などは存在しない。
宇宙の理を変えうる事象は、すべての始まりであり終焉でもある、絶対的な最上位に位置する異能なのだ。
俺の魂と引き換えにした選択、俺の策の優先事項はこれで達成された・・・・
『
消え去りそうだった俺の意識体は急速に反転した。
古雅崎の声、まるで呼び戻されるように世界が逆流する。
魂のままでは異能が使えないため片道キップであった未来線へのダイブ。
それが反魂の儀によって繋がりが引っ張られた。
もともと霊界事象が主戦場である雅一族の秘術だ。
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体に重力の感触が戻った。
開けていたままの眼には次第に光の刺激が戻ってきて、あたりの景色が見え出す。
真っ先に映ったのは古雅崎の泣き顔だった。
決して悲しそうな表情は見せない、ただ涙だけを頬に流した姿だ。
悲しんでるのかもわからないな。
手には粉々になった霊樹、それを手放していた。
硬直していた俺の体は立った状態から脱力し、倒れ込むところを古雅崎に支えられた。
古雅崎の体の温もりと柔らかさが伝わってくる。
あたりは静けさに満ちていて、しばらく抱きとめられたままでいた。
「おかえりなさい。あなたをこうして支えるのはこれで二回目ね」
どこか既視感のある気分でいた。
そうだったか・・・・たしか初めての時も俺はボロボロだったな。
「俺がピンチの時、いつもお前はいてくれるんだな」
「ええ、もちろんよ。これからもずっと、ね」
「ありがと・・・・な。 く・・・・異性物は・・・・どうなった?」
「なにも心配しないで。・・・・もうゆっくり、休んでいいのよ」
「そうか・・・・なら、よか・・・・った」
霊樹にダメージがあったため、古雅崎が放てる最後の技は臣級に向けるのではなく、俺の命綱にする事に決めていた。
魂を消し飛ばしたリガントレス戦の技よりも、さらに高難易度の技である魂の再定着術。
それは異粒子適合した霊樹の力によってはじめて古雅崎にも実現させる事が出来た。
いや、こんな事は古雅崎にしか出来なかっただろう。
時空を跳躍した魂の再定着。
『魂の位層に時間や距離の概念はない。あなたをずっと追いかけている私なのだから、あなたを必ず見つけ出すわ』
彼女の覚悟は決死のものであった。
俺の結晶は手に残っていたが彼女の持つ結晶の欠片は消失していて、その技の代償の壮絶さが伺えた。
俺たちは未来を繋げることができた。
他の誰のためでもない、俺たちのための未来を。
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次回、エピローグ
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