30 命を賭して④ 力が支配する世界
異能者が大出力を放ち続けるフォーメーションに対し、古雅崎の優位が決する形となった。
引力を扱うテレキネイサーの女もそれを悟り、その場から離れた。
「古雅崎・・・どうしてここが?」
「新宿が光り出したから、あなたの言っていた終末大転移が起きたのだとわかったわ。連絡がつかなかったから観咲さんの家に向かって事情を掴んできたの」
「そうか、じゃあ俺の目的も掴んでいるんだな」
「・・・・花凜ちゃんの容態が悪化していたわ。もうもたないって白衣の女性が・・・」
「クソ!もうそんなに悪いのか」
「大気の異粒子濃度が加速的に薄まっているって。だから中心部に移動させる事にしてるわ。いまも虚層塔に向かっている所よ」
「わかった・・・エレメンタルアーツを奪い返して彼女の元に急ぐぞ」
「ククク・・・そうか。おまえの目的はあの金属だったか!」
テレキネイサーの男は何か吹っ切れたように声を上げた。
古雅崎は続けて俺に説明した。
「敷雅も同行して異性物に対処している。現場にギアーズの私兵がいても対処できるわ」
だがテレキネイサーはそれすらも一蹴した。
「アレはお前たちに扱えるものなどではない。現代科学から大きく離れたこの異界化の事象そのものをコントロール出来る神の領域の神具だった」
「・・・・お前たちは一体なんの実験をしていたんだ?」
「ククク、ギアーズ重工は虚層塔を手中に収めた。大転移が突然止まっただろ?あれは虚層塔のシステムを我々が制御したからなんだよ」
「なっ・・・・!」
終末大転移を止めただと?
建物の影からエヴァが現れ出てきた。
こちらに近づきつつテレキネイサーに話かけていく。
「それはとても興味深い情報だね、キクチカズマ。確かにエレメンタルアーツは
「今度は伝道者か。オマエは何度殺しても蘇ってくるようだな。ならば今回の実験も見ていたのだろう」
「そうだね、虚層塔実験では現場が暴発した所までは視認してたよ。エレメンタルアーツはその一部の力を放っただけでその現場にいたDIACとT-SERAの両兵士を全て消滅させる力を持っていた」
「交戦で殲滅したのではなく、実験で消滅させられたのか・・・?」
「あれは暴発だった。その場にいた僕の1人も例外なく消滅したからね。あのあとどうやってエレメンタルアーツを制御下に収めたのかまでは知れていない」
「エレメンタルアーツはただの適合者では扱えない。特別な異能者でなければ扱えないという仮説の実証に移行した」
おそらくこのテレキネイサーの男、キクチカズマもその場にいたのだろう。
異能の斥力ならばその衝撃を回避できるということか。
「ネオズ教団のメシュアだね。なるほど、彼女は特異な人間だ。最近ギアーズが教団と手を組んだのもそれが理由だったんだね」
教団・・・・あの白スーツの男の組織か。
いや、それよりこの話はこれ以上俺の優先事項ではない。
「エヴァ、おまえたちの実験の事などどうでもいい。キクチカズマ・・・俺にはあの金属が必用だ。そこを通してくれないか」
「俺も実験に興味はない・・・だがお前はここで殺すよ」
なんのためらいもなく、淡々とした言葉でキクチカズマは言い放った。
まるでいつもの習慣をこなすように殺しを実行に移そうとしていた。
「古雅崎、俺の後ろへ回れ」
「あなたに守られるつもりはないわ」
「アイツの衝撃波は強力だ。耐えられるのか?」
反対方向にいる血だらけになった斉藤譲治のケガの様子を見て古雅崎は判断した
「問題ない」
そう言って霊樹薙刀を地面へと振り下ろした。
打ち付けた異粒子エネルギーの衝撃によって古雅崎の体は急速なスピードを作り出し常人以上の跳躍と速度で
テレキネイサーへと迫った。
キクチカズマは掌を前へ出し異能を発動する。
先ほどの球形衝撃波ではなくスポットタイプ・・・。
間違いない、異粒子エネルギーの消費を抑えている。
古雅崎は霊樹を使い衝撃波を切り裂いた。
さすがに無傷とまではいかず、服が所々破れてダメージを追った。
同じ方向にいた俺もリガントレスアーマーを起動して耐える。
こちらが受けたダメージは今までよりもずっと威力が抑えられているものでこれならまだ数回は耐えられる。
後ろに押し返された古雅崎が地面に着地するタイミングで
追い越してスイッチするように前へ立つ。
ブーストトリガーで感覚を加速させて手に持っているベアリングボールをふたつ投げつけた。
高速で高精度な射出にキクチカズマサは2回の衝撃波を発動して対抗した。
T-SERA襲撃時にダメージを与えた投球技、その銃質量の強化版でもある。
ベアリングボールは弾かれて衝撃波がこちらに届く時、俺は古雅崎の前でリガントレスアーマーを起動し防御した。
そして古雅崎と目を合わせて共に確信した。
2弾目の衝撃波は1弾目よりも半減している。
それは連弾で溜めが足りなくなる特性なのか、残エネルギーが少なくなったのかはわからないものの、そこに攻め手見出した。
俺は最後のベアリングボールを取り出し、気付かれない程度に力を抑えた低速の玉で投げつける。
同じ瞬間、古雅崎は左へ周り込み、俺は投球直後に右へ回り込んだ。
遠方ではケガを負っている斎藤譲治も走り詰めている。
合計四ヶ所からの一斉攻撃だ。
取ってくる手段はただひとつ。
キクチカズマは両手を広げる。
次の瞬間、スポット型ではなく球体型の全方位
ベアリングボールは弾かれ、古雅崎は霊樹刀の雅術にて対象するも、その衝撃の強さに及ばず後ろへ弾き出された。
斎藤譲治に至っては大きく吹き飛ばされ、ついに力尽き遠方で倒れる。
先ほどの威力の弱まりは連射特性によって力が落ちたわけではない。
間違いなくエネルギー節約によるものだ。
そして今、全方位への大出力を放った事で確実に残量は欠乏した。
衝撃に耐えたリガントレスアーマーは真っ黒に染まってしまったが俺の速度は緩む事なくテレキネイサーに迫る。
警棒を手に、身体強化による強打を放とうとした次の瞬間・・・・・・
キクチカズマはニヤリと笑った。
懐から金色に光る欠片を取り出したのだ。
それを握りしめ、放り・・・そして自らの全身に斥力を展開した。
しまった!
「身体強化!ブーストトリガー全開!!」
あの破片・・・初めてT-SERAへ赴いた時に目にした
エレメンタルアーツの一部だ。
そして今日、兵士たちを自滅させてしまったほどの濃縮異粒子エネルギーの暴発・・・ここでそれを起こすつもりなのか。
俺は全力で古雅崎の前まで走る。
加速空間の中で見るその破片は急速に光を生み出し、例えようのない熱量を放ち始めた。
ダメだ。
耐久力を失ったリガントレスアーマーでは防ぎきれない。
俺は古雅崎を背にし、迫りくる眩しい高熱に対処する手段を探った。
恐らく唯一対処可能な手段がある。
同じ暴発の中にいたテレキネイサーが今もここで生きていたことがその証拠だ。
使用後は体の自由が奪われてしまう。
・・・未取得異能の発動だ。
『斥力異能・・・
俺のマギオソーム細胞はオーバーヒートを始める。
この爆発を耐えたあとはもう古雅崎に委ねる他ない。
せめて、気を失うわけにはいか・・・ない。
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視界が暗くなった。
目を開けるが頭がボーッとして記憶が混迷している。
やはり気を失っていたか。
すぐに起き上がり辺りを見渡すとエレメンタルアーツ破片の暴発により新宿都心部にクレーターが出来ていた。
コンクリートは赤熱し、大気はまだ灼熱を帯びている。
だが異粒子濃度が濃い?
エレメンタルアーツ破片の影響か。
まだ時間がそこまで経っていないようだが体の回復が早く進んでいる。
離れた場所で古雅崎とキクチカズマが対峙していた。
無事に守れたようだ。
「金や生まれではない。力で物事が決まる世界。素晴らしいじゃないか。能書きだけで偉そうにしているヤツらを散々見てきたがこの異界化した世界ではクソ程の役にも立たなかったぞ」
キクチカズマは目の前の古雅崎と最後の対話をしていた。
「目的のために行使する力を私は否定しないわ。けど勝負が生死をわけるものになるならば・・・ここで滅ぶべきはやはりアナタよ」
「小娘が・・・・!」
会話の最中も古雅崎は変性術によってキクチカズマの周辺に風を発し異粒子を霧散させ続けていた。
仕掛ければ勝負は決するだろう。
テレキネイサーは最後の異能を古雅崎に向けて放った。
その初動とまったく同じタイミングで霊樹薙刀を地面へと叩きつけた古雅崎は急突進する。
『異雅流・終尽薙閃』
地脈霊気と異粒子エネルギーを纏う霊樹薙刀の突きは、発せられた衝撃波を打ち破りその勢いは留まる事なくキクチカズマの身体の芯を突き抜いた。
異粒子エネルギーをすでに欠乏していたテレキネイサーの異能は、これまでの絶対的な力を発揮する事はなく古雅崎の異粒子変性術によって軽々しく突破された。
こうなることは恐らく分かっていただろう・・・彼はなぜ、勝負を投げる事をしなかったのだろうか。
空は徐々に暗闇から暁へと色を染め渡し、光を灯しだしていく。
俺は横たわるキクチカズマの目の前に立ち、気体化していく姿を見つめた。
キクチカズマは空を眺めて最後の言葉を口にする。
「美しい空だな。滅びゆくものはその一瞬において眩く燃え上がり俺を魅了してくれる。人も・・・そしてこの世界も」
「エレメンタルアーツは・・・・今どこにある?」
「既にこの街にはないさ。連盟国のミサイルも迫っているんだ、とっくにギアーズと教団の機密研究所に運ばれている。」
くそっ!
「答えろ!その保管場所を!」
「この世界の終焉を見届けられないのは残念だ。まあいい、お前達の足掻く姿はなかなか楽しめた。この景色も悪くは・・・・な・・・い・・・」
瓦礫の影の中に身を置いたまま、わずかに差し込む光を目で追いかけ、彼は自分の瞳に日を写し込み・・・そしてそっと目を閉じる。
キクチカズマの身は影側に倒れ込み、それから二度と目覚める事はなかった。
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