世界が黄昏れても君だけは

@Nanarikuroko

第1幕 世界改変

01 世界改変① プロローグ 異次元断層~ひとつの時代が終わる



 空が眩しく光ったあの日、

 一人の科学者の一方的な思想によって世界は大きく変えられてしまった。


 独裁政治家ではなく、素粒子物理学者が世界を破滅に導くとは誰も予想できなかっただろう。


 スイスに建造された半径45kmに及ぶ円型で出来た世界最大の反陽子衝突実験。

 宇宙が誕生直後に発した高エネルギー状態を再現し観測するこの実験に、人類は未だ見ぬ宇宙の真理の解明を期待した。


 だがその施設から発表された結果報告は各国に向けた世界破滅の声明であった。




『我々は異世界の扉を開ける事を決めこれに成功した。人類にはかつてない大きな試練が迫られるだろう。

 第1事象、異次元断層。世界がこの変革を乗りこえてくれることを強く願う。

 ホークス=シノミヤ』



 俺はシリアルの朝食をとりながらSNSのリツイートで流れてきたこの声明をスマホで読み、そして窓から空を見上げた。


 一人暮らしをしている高校生の俺は、世界が恐怖に包まれていく中でも、今日はきっと学校を休んでいい日なのだろうという事しか頭になかった。


 空からは轟音が長い間鳴り響き、世界の人々は空を見上げ地球のどこかで起きている不穏な気配を感じ取っていた。


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 二時間後、


 アメリカのホワイトハウスから緊急の会見が開かれ国防総省長官は急遽、スイス国境付近に建造されていた円形加速器、大型ハドロン衝突実験場の緊急爆撃を行い、施設破壊を行ったという報道をした。


 施設制圧という軍事的手順を踏まず、即爆撃という国連の超法規的措置が執行されたこの一連の出来事に、各国は前例のない事態として混乱を極める事となった。


 『以前から国連が実験停止を施設に交渉していたのだ』

 『ブラックホールを地球上に生んでしまう』

 『あれは歴れっきとした世界テロ行為でしょ』


 ニュースに出ている胡散臭いコメンテーターの誰もがこれらの実態を掴む事ができず憶測だけの言葉を発していた。

 俺は学校へ行くのをやめ、テレビを見てみるがどのチャンネルも緊急番組だ。


 ブラックホールの再現?


 科学書を愛読していた俺にとっては、理屈的にそれが可能だとしても本当に実現するのか根拠が持てずに半信半疑でネットに飛び交う陰謀論を横目で楽しんでいた。


 けどもし本当だとしたら・・・世界は滅びるかもしれないな。


 研究所破壊の声明が発信されてから六時間後、

 ついに大統領が世界に向けて事態の展望を発表した。


 俺は世界が本当に異常事態となる事をこの中継放送で悟る。


 カメラに向ける大統領の表情はとても暗く、

 それはとてもゆっくりとした会見であった。


「とても残念なことに、ひとつの時代が終わる形となった。

 これまで発展を続けていた我々人類の文化は停滞を余儀なくされるだろう」


 大統領のまわりにいた長官達も終始うつむきがちで事態の深刻さを物語っていた。


「しかし、どんなに世界が暗い闇に覆われようと私達は家族や仲間たちと手を取り合い助け合って生きていくべきである。

 人類の存続に向けて各国で異粒子を吸っても生きていけるようにする抗体薬を生産する。

 どうか若い者、能力の高い者を優先して摂取する制度となるよう各自治体には速やかな決断を要請する。

 今日この、ブラッドマンデーが遠い日の1日として振り返られる事を強く願う!」


 アメリカ大統領のこの発言は生放送で世界各地で放送されたのち、

 各諸外国のトップも国内に向けた声明を発信していった。



 その日から世界は深い蒼色の空に覆われている。

 別次元から流れてきた大量の異粒子が大気に満ちたからだ。


 美しかった大自然を持つ地球は別の姿へと景色を変えていく。


 世界中の都市で突然、巨大構造塔が出現した。

 異世界の生物とされる存在が発生したという報道もあり、

 無残に街や人類を蹂躙している動画がネットで再生数をあげていた。


 多くの人間は異粒子による感染症、中毒症状を起こす地球規模のパンデミックへと深刻化していく。



 この変わりゆく世界を、どこか他人ごとのように見ていた俺は、

 バイト帰りに寄った区民センターで抗体薬を求める少女と出会う。


 彼女を助ける形で異生物に殺されかけた俺は・・・・


 異界化した世界を生き伸びる力と、そして世界が改変されていく歪んだ真実へと迫っていく事となった。

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