振り返ればあの時ヤれたかも
岩井喬
第1話
《コマンドより各員、状況知らせ》
《01よりコマンド。突入準備よし》
《こちら02、配置よし》
《03及び04、ヘリにて上空警戒中。本部へのデータリンク開始》
《コマンド、了解。狙撃手、射撃準備はどうか?》
「……」
《おい、狙撃手! ジョン、応答しろ!》
その、低くも大きく輪を広げるような言葉に、俺ははっと我に返った。
慌てて襟元のマイクをぐっと近づける。
「こちら狙撃手、ジョン。援護位置に着いた」
《大丈夫なんだな? ジョン》
「はッ、失礼しました」
《ヨーコは? そばにいるか?》
すると自分の名を聞きつけたのか、ヨーコが自分のマイクを口元へ。
「はッ、隊長殿。ジョン軍曹の護衛に就いております。半径五十メートルに敵影なし」
《了解。よし――》
軽い打撃音が響く。隊長が拳と掌を打ち合わせたらしい。
「突入開始、三百秒前! 総員、時計合わせ!」
ヨーコにつられるようにして、自分の腕時計を見下ろす。コンマ数秒のズレもないことを確認してから、再び狙撃銃――消音機付きの大口径スナイパー・ライフルを構える。
さて、俺たちは何者なのか? 語るほどのことはない。言ってみれば、汚れ仕事を引き受ける、一部軍警察組織のそのまた一部の人間だ。
今日の任務は、銃器売買に携わる武装集団の摘発。摘発、と言えば聞こえはいいが、ぶっちゃけ殲滅である。でなければ、戦車の装甲をぶち抜くような狙撃銃を持ち込みはしない。
が、今の俺にはもう一つ、この機会に是非とも達成したい目標があった。それは、コマンド直轄の突入部隊隊長、ポールを殺害することだ。
理由は明確。俺を突入部隊から脱退させたから。味方として全幅の信頼を置いていたのに。
ポール曰く、『ジョン、お前には突入よりも優れた才能がある』とのことだったが、こんなのは体のいい左遷だ。
俺は突入作戦が大好きだった。合法的に殺しができる。戦闘能力は人一倍だったであろうと、未だに自負している。
そんな俺に衛生兵をやらせ、妥協案としても遠距離援護役に回すとは。ふざけやがって。銃を向けられた瞬間の悪漢共のどてっぱらに穴を空ける。それがどれほどのカタルシスに満ちているか、それをポールは分かっていないのだ。
一匹狼の度が過ぎた、か? 知ったこっちゃない。
独断専行で皆を危険に晒した? ハッ、笑わせる。
そういう異常事態のために、あれほどの訓練をしてきたんだろうが。俺一人の暴走くらいで、ギャーギャー騒ぐんじゃねえっての。
「ジョン軍曹、突入開始まであと六十秒を切りました」
淡々とヨーコが告げる。
俺は『了解』と小声で呟き、照準をポールの眉間に合わせた。
まだだ。まだ引き金を引くには早すぎる。
俺はふっと息をつき、唾を飲み下した。
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