最終話 八年後……

 あの後、アイテムボックスに入っていた紙のおかげでカホと連絡を取ることが出来たアカツキ。すぐに迎えに行きたかったが、新型パペットの調子が悪くドラクマからナルホを呼び寄せ、再び飛び立てる迄に一ヶ月を要することとなった。


 何も無い地ということもありアカツキを心配する弥生も含め、皆で迎えに行った時、アカツキは平然と鍋を調理していた。


「いえ、食べ物なら“材料調達”で何とかなりますから」と、迎えに来てくれた弥生達に鍋を振るう余裕を見せていた。


 皆は呆れ返るも、ルスカの事をアカツキから聞くと弥生やカホは泣きじゃくり、流星やナックもその場で涙を溢した。


 ローレライに戻ったアカツキから話を聞いたグランツ王国のイミル女王は、ルスカに哀悼の意を示すと共にアカツキに何かしてほしいことは無いかと尋ねた。


「そう……ですね。私は特には。最果ての地から来た人達のことをお願いするくらいですか」


 そう言って退席するアカツキの隣にいた弥生は、「欲しいものは、もう……」と悲しげに呟くアカツキを見ていた。



◇◇◇



 あれから八年の歳月が流れる……。


 リンドウの街へ戻って来たアカツキ達は、平穏な日々を過ごしていた。グランツ王国からもグルメール王国からもしつこいとアカツキに怒られても、功績を称えたいと申し出てくるのが、今のアカツキにとって悩みであった。


「お父さーーん! 早く早くー!!」


 翡翠色の瞳をした少女がアカツキを呼ぶ。花柄のミニスカートに、長い髪を束ねすっかり女の子らしくなったフウカである。


 今日は、以前行った丘へピクニックへと向かう予定であった。


「まってぇー、おねえちゃーん」


 先に向かうフウカに追い付こうと、まだ、ぎこちない足取りで進むフウカより少し幼い少女。その後ろ髪は藍白あいじろとアカツキにも弥生にも似ていない髪色をしている。


「ほらー、置いてくよー、ルスカーー!」

「まってよぉ、おねえちゃーん」


 ルスカ・タシロ。あの後、アカツキと弥生の間に産まれた次女である。しかし、産まれた子を見て二人は驚く。藍白あいじろの髪に、緋色の瞳。それは、まさしくルスカにそっくりであった。


 ルスカの生まれ変わり。そう考えた二人が、その子にルスカと名付けたのは仕方のない事であった。


 姉妹仲良く手を繋ぎ、丘を駆け登っていく。


 アカツキと弥生は、二人を後ろから眺めて幸せを噛み締めていた。


 

◇◇◇



 二人は、丘を駆け回ったり、花を摘んだりとピクニックを満喫していた。

そして、アカツキ特製のお弁当を食べ、再び遊び回る。


 しばらくすると、フウカは遊び疲れたのか一本の木の根元で弥生に凭れかかりながらうたた寝を始めた。


 ルスカはと言うと、丘の上にある小さな岩の上に座って景色を眺めている。


「疲れましたか?」

「ううん、パパ。へいき」


 ルスカの隣に座ったアカツキは、元気一杯のルスカを見て微笑ましくなる。昔、ルスカと赤ん坊だったフウカを連れて、この丘へピクニックへ来ていた頃を思い出していた。


(そう言えば、あの時もここから景色を見ましたね……)

「ルスカ、どうですか? ここらかの景色は?」

「あのね、あのね。キレイだとおもうのだけど、ルスカね。みたよ、むかし」


 アカツキはルスカの言葉に驚く。しかし、所詮まだ幼い子供の言うこと。まさか……とは思いつつも、それはすぐに振り払った。


「ああ、そうだ。忘れていました」


 アカツキはアイテムボックスから小瓶を取り出す。


「今まで作る気にならなかったのですが、久しぶりに作ってみました。ルスカ、食べますか?」

「なにそれー? パパー」

「ふふ……イチゴの飴玉です。甘いですよ」

「たべるーー!」


 ルスカは小さな口を目一杯開けて、今か今かと待ち望む。アカツキは一つ小瓶から取り出すと、ルスカの口に放ってやった。


 コロコロと頬を膨らませ、堪能しながらルスカは景色を眺め続ける。


「美味しいですか?」


 そう問うアカツキを無視して、ほっぺたの中をコロコロと飴玉を転がすルスカ。


「ルスカ、どうしました? 美味しくないですか?」


 いつもなら、満面の笑みを返してくるルスカを心配して顔を覗き込むと、ルスカは笑みを浮かべながら泣いていた。


「ルスカ!?」

「……のじゃ。う、旨いのじゃ……アカツキ……」


 ポロポロと涙を流すその瞳をアカツキに見せ、今度こそルスカは満面の笑みを返す。


「る、ルスカ……なのですか?」

「また……会えて嬉しいのじゃ……アカツキ」


 アカツキは堪えきれずルスカに負けじと涙をボロボロと溢しルスカを抱き締めた。


 そして、一言「お帰りなさい」、そう伝えたのであった。

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