第六話 幼女と青年、初の狩猟クエスト
初めてルスカが学校に行ってから早くも一週間、動乱からは早くも一ヶ月近くが経とうとしていた。
ここ数日降り続いた雨の為に全くクエストに行けなかった二人は、今回学校には行かずクエストを受ける為にギルドの前に来ていた。
現在、ギルドパーティー“イチゴカレー”のランクは、緊急クエストをこなした事もありEランクまで上がっていた。
《アカツキ・タシロ》 二十三歳
リンドウギルド所属ランクE
人間族
《こなしたクエスト》
採取クエスト(5)
狩猟クエスト(0)
探索クエスト(0)
緊急クエスト(1)
《特記項目》
スキル有り
アイテムボックス
家事全般可能
執事経験有り
━・━・━・━・━・━・━
《ルスカ・シャウザード》
リンドウギルド所属ランクE
《こなしたクエスト》
採取クエスト(5)
狩猟クエスト(0)
探索クエスト(0)
緊急クエスト(1)
《特記項目》
なし
━・━・━・━・━・━・━
グルメール動乱時の報酬銀貨二十枚は、残っているがアカツキ達は動乱後、四つの採取クエストをしている。
元々、緊急クエストなど受けれるランクではなく、報酬など棚ぼたに過ぎないと考えて通常通り働いていたのだ。
意外と採取クエストは、採取出来る場所まで時間がかかり、報酬も悪いため効率が悪い。
今日二人は思いきって狩猟クエストを受けるつもりでいた。
提案したのはルスカ。
こと戦闘になると、アカツキでは正直戦力にならない。
だから、今までアカツキからは言い出さなかった。
ルスカ一人に負担をかけたくないが為に。
ルスカはルスカで考えていた。
グルメールで襲ってきたフードの連中。
もし、連中の狙いが、以前ルスカの予想した通りアカツキだとすると、少しでも戦闘経験を積んだ方がいいと。
ルスカの説得にアカツキは納得するしかなかった。
「さて、どんなクエストがあるのじゃ?」
ギルドに入った二人はクエストの貼られた依頼書を見ていく。
「うーん、色々有りすぎて悩みますね。ダートラット……ゴブリン掃討……フォレストタイガー……ん? これは聞いたこと無いですね。新種の植物タイプの魔物……だそうです」
「新種の魔物? それは珍しいのじゃ」
クエストの依頼書には、その目撃者が書いたと思われる魔物の画が。
しかし、魔物というよりかは、まるで女性の身体に蔦が巻き付き花で彩られていると言った方が近かった。
「!……アカツキ、これは止めておくのじゃ」
依頼書の画を見たルスカは、周りに聞こえない様にそっと囁く。
「何か不都合な事でも?」
「もし、あれがワシの知っているやつなら危険すぎるのじゃ」
本当に珍しくルスカは、この依頼書を受けない様に勧めてくる。
動乱の時でさえ、このリンドウの街が戦争に巻き込まれかねないと引き受けた。
そんなルスカが、拒否する魔物にアカツキは生唾を飲み込む。
「ルスカ、この魔物についてアイシャさんに相談してみませんか?」
「な!? 駄目じゃ、駄目じゃ! 今回はアカツキの戦闘経験の向上が目的なのじゃ、それにコレは、何もしなければ襲ってこぬし、場所も移動せぬ」
「だったら、なおのことです。危険だと教えるだけでもいいと思いますが?」
しかし、ルスカはどうも踏ん切りがつかない。アカツキも流石にこうも煮え切らないルスカを見るのは初めてだった。
「ぬぅぅ……確かに万一があるのじゃ。アイシャに相談してみるべきかのぉ」
眉をひそめるルスカも渋々決断し、二人は結局アイシャに一度相談する事に決めると、ナーちゃんの許可を取り二階のアイシャの部屋へと向かった。
「はい、どうぞ。開いてますよ」
部屋の中からアイシャの声がし、扉を開けると部屋にはアイシャと、元グルメールギルドのギルドマスターだったマッドがいた。
「あなた、確かグルメールギルドの……」
「ああ、副マスターを捕まえた嬢ちゃんと彼か。ここの所属だったんだな。先日からこのギルドの一員になったマッドだ。よろしくな」
マッドから握手を求められ、アカツキとルスカは応える。
「それでアカツキさん、ルスカ様、今日は一体? は! もしかして窯代を安くしてくれるのですか!?」
アイシャは尻尾を振りながらアカツキにすり寄って媚びてくる。
しかし、アカツキは怪訝は表情を見せルスカもアイシャがこれ以上アカツキに近寄らないように、白樺の杖で押し込み引き離す。
「あれは正当な報酬でしょ。それで、ルスカどうしますか?」
正直マッドがこの場に居る事で話せない訳ではないが、どうしたものかとルスカに確認を取る。
「構わぬのじゃ。まぁ、話をした所で信じるかどうかは知らぬのじゃ」
アカツキ達はソファーに促され座ると向かい側にアイシャとマッドが座る。
「さてと、アイシャ。下にあった新種の魔物の狩猟クエストなのじゃが、誰か引き受けたのか?」
「え? ええ、ウチに所属しているCランクとDランクのパーティーが」
アイシャは全く予想外の質問に気安く答えるが、二人掛けのソファーにも関わらずアカツキの膝の上で腕を組んでいるルスカは、どうしたものかと悩み始める。
「ルスカ、何か問題でも?」
「うーん、CとDランクなら恐らく問題ないのじゃ。アイシャ、そいつらはランク以上の強さなのか?」
ランク=メンバーの強さではないのは、“イチゴカレー”を見れば良くわかる。
依頼を引き受けた二つのパーティーの中に実力者が混じっていれば万が一があるとルスカは懸念していた。
「平均的だと思いますよ。長年このギルドに貢献してくれてますけど」
平均的と聞き一時安堵するルスカだが、やはり口が重い。
緊張感が部屋中を漂い出す。
「平均的なら、まず大丈夫だと思うのじゃ。しかし、やはり不安は拭えぬが。それでは話すか……まず聞くが、お主らは魔物には二種類あるのは知っておるか?」
アカツキを含め全員が首を横に振る。
「まずは、魔王アドメラルクが率いる魔物じゃ。現在蔓延っている魔物は、以前魔王が放った魔物が繁殖したものじゃ」
続きを話そうとするルスカが神妙な面持ちになり、アカツキ達は生唾を飲み込む。
「それで、残りのもう一種じゃが……古代より存在しており魔物と呼ぶより天の使いや神獣と呼んだ方が正しいのじゃ」
ルスカの答えに場は静まり返る。しかし、ずっと黙っている訳にもいかず、アカツキが口を開く。
「天の使い……天使ですか、ルスカ?」
「そうじゃ。そして新種の魔物……あれはエイルじゃ」
ルスカの話では、エイルとは“死”に関わる神獣で、普段は眠っており人を襲ったりはしないが、目を覚ますと厄介だと言う。
ルスカを除く三人は、三者三様の表情を見せる。
ルスカに絶対的な信頼を置くアカツキはルスカと同じく神妙な面持ちになる。
アイシャもルスカの言葉を無視出来ず、どうしたものかと天を仰ぐ。
ただ、ルスカのことを知らないマッドだけは、ルスカの話を胡散臭そうに聞いていた。
「しかし、神獣に天の使いねぇ。そんなの本当にいるのかね?」
マッドの言うことも一理ある。
神獣や天の使いだとすると、神様が存在すると言っているようなものだ。
しかし、アカツキやアイシャはルスカなら知っていてもおかしくないと、急に依頼を引き受けたパーティーの事が不安になった。
「アカツキさん……」
「そうですね、引き受けたパーティーの無事も気になりますが、もし目覚めでもしたら……」
「ワシでも止めれんのじゃ!」
ルスカの言葉に二人は益々不安になってくる。
「追いましょう。アカツキさん、ルスカ様、手伝って貰えませんか?」
「駄目じゃ!! ワシは反対じゃ! アカツキをそんな危険な所に行かせる訳にはいかぬのじゃ!」
ルスカはアカツキを
アカツキはルスカを膝の上から降ろし自分の方に向けさせる。
「ルスカも万が一を考えたのでしょう。
ルスカでも止められないのなら、下手をすればこのリンドウにも危険が及ぶ可能性もあります。
ここにはセリーさんやゴッツォさんも居ますしね、ルスカ。様子だけでも見ないといけない」
「あー! もう、わかったのじゃ! 様子だけじゃぞ? 全く……」
ルスカはそっぽを向いて、一つため息をつく。
「お人好し過ぎるのじゃ……」
アカツキに聞こえないようにポツリとルスカは呟くのだった。
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