第15話 幼女と青年、盗賊っぽいのを拾う
服を買い終え、家へと戻った頃には茜色の空は薄闇へと変わっていた。
アカツキは、裏庭の井戸で水を汲んでくると、“材料調達”を発動させ、レタスとトマトそれにチーズ、ハム、マヨネーズ、バターと次々取り出すと、続けてアイテムボックスからいつもの固いパンを出す。
「はぁ……“材料調達”でパンが出せれば……チーズやバターは出るのに……なんで」
固いパンに飽き文句を一人呟きながら、レタスとトマトを水洗いし終え、レタスを一口大に手で剥き水分を落とす、更にトマトをナイフでスライスしていく。
「初めは、加工していない材料のみを取り出せるのかとおもったのですが……」
再びぶつぶつ呟きながら、固いパンにナイフを入れ力を込めてスライスしていき、片面にバターを塗っていく。
「うーん、パン自体は
アカツキ自身未だに“材料調達”のスキルを把握出来ていない。
分かっているのは、出せる種類は五十種類。
一度出したら、使いきるまで新しいのは出せないということだけ。
カレーもそうだ。カレールーは出せるのに、レトルトカレーなどは出せない。カップ麺も然りである。
家事の時短がモットーのアカツキにとっては、不服であった。
「出来ました」
パンの上にレタス、チーズ、トマト、ハムを乗せてマヨネーズを少し、更にそれをパンで挟む。
彩り豊かなサンドイッチを見て、達成感はあるものの、やはりパンの固さだけは、納得出来ないアカツキだった。
「今度、自作してみますか!」
そう決意すると、アカツキはサンドイッチを鍋に急いで敷き詰め、鍋ごとアイテムボックスに入れる。
不思議とアイテムボックス内だと、劣化しないのだ。
そのまま二階へ上がり寝室へ入ると、ベッドの上には端っこに寄りすぎて今にも落ちそうなルスカが。
「ルスカ、そろそろ出発しますよ。起きてください」
「うー……アカツキ~、抱っこぉ」
目を擦りまだまだ眠そうなルスカは、寝転んだままアカツキに向かって両手を差し出す。
「ほらほら、わかりましたから。しっかり首に手を回して……よっ!」
アカツキの首に手を絡ませギュッと抱きついてくるルスカを、一気に持ち上げた。
ルスカを抱っこしたまま一階へ降り、裏庭に繋いでいる馬の上にルスカを乗せるとランプに火を灯し、繋いでいた手綱をほどいて自分も馬の背に乗り、馬の腹を蹴る。
馬の背で寝そべり夢の中にいるルスカを起こさないように、ゆっくりと街の南へと歩を進めた。
◇◇◇
南の門を通りすぎ、街を出たアカツキとルスカは街道に沿って南へと南へと進む。
すっかり闇夜となり、街道沿いの木々の影が一層濃く見える。
周りからは気配を感じる事はなく、木々の葉が擦る音だけが響いていた。
どのくらい経ったのか分からなくなるほど、ランプの灯りに照らされた道は、同じ所を繰り返し進んでいるかのようで、少し不安に駆られた、その時、ルスカが突然目を開けると、普段は少し垂れた目が、つり上がり鋭くなる。
「あ、ルスカ目を──」
「誰じゃ! そこにいるのは!?」
アカツキの言葉を遮りルスカが草むらに向かって怒鳴りつける。
馬を止めアカツキも様子を見るが、出てくる気配は一向にない。
苛つき出したルスカは、再び怒鳴る。
「いい加減に出てくるのじゃ!! そのまま魔法で吹き飛ばされたいのか!?」
誰もいないのかと一瞬頭をよぎった瞬間、草むらから出てきたのは二人の人影。
一人は、まだ小さな少年でもう一人は高校生位の女の子だ。
女の子の手にはナイフか包丁みたいな物を持っている。
「あああ、あの食べ、食べ物を出しなさい」
女の子は震えた声でナイフみたいな物を、前に突き出す。
少年は女の子の影に隠れるようにして震えていた。
「なんじゃ~、ただの子供なのじゃ。殺気など出すから盗賊かと思ったのじゃ」
ようやく目が慣れてきてアカツキにも、二人の姿が見えてくる。
女の子は痩せ細り、髪もボサボサでナイフを持つ手が震えているし、少年も薄汚れた大きめのシャツ一枚でやはり痩せていた。
「ははは早くしてください」
「ルスカ、どうします?」
「取り敢えず捕まえるから、あとは任せたのじゃ」
ルスカは杖の先を相手に向けると、杖の先が緑色に光り魔法を発動させる。
“グラスバインド”
突然草が伸びだし、女の子と少年をあっという間に後ろ手に縛りつけた。
アカツキは馬から降りて、女の子が落としたナイフを拾うが、それを見て驚愕する。
ナイフだと思っていたものは、ただの尖った石。
こんな物で盗賊行為をしようなどと、あまりに無謀だ。
つまりそれほど切迫しているのだと。
アカツキはルスカも馬から降ろし、二人の魔法を解くようにお願いする。
外しても危険がないことは、一目瞭然だった。
女の子と少年は、魔法を解かれるとお互い抱き締め合い、その目には涙が。
「なんかワシらが悪者みたいじゃの、アカツキ」
「そうですね」
アカツキは女の子に尖った石を見せながら、どうしてこんなことをしたのか問いただそうとした、その時。
ぐぐぅ~っ!
かなり大きな腹の虫の音が、静寂の夜道の中よく響いた。
よっぽど恥ずかしいのだろう、女の子の顔は暗い中でも分かるくらいに紅潮している。これは事情を聞くのは後だなと、アカツキとルスカはお互い顔を見合わせたのだった。
◇◇◇
アカツキは馬の手綱を木に
女の子と少年は分かっているのだろう、盗賊行為に失敗した者の末路がどういうものかと。
二人の顔は蒼白になりながら、ルスカに後ろから「はよ、行くのじゃ」と攻め立てられアカツキの元に怯えながら近づいていく。
「ごめんなさい!! ワタシはワタシはどうなっても構わないので、どうか弟だけは弟だけは見逃してください!!」
アカツキの側に着くや否や、頭を地面に擦りつけて謝る女の子。
そんな女の子を見て少年も同じポーズを取る。
そんな二人を見て、ルスカは呆れた顔を覗かせた。
しかし、アカツキは違った。目付きは鋭くなり怒気を剥き出しにして怒鳴り付けたのだ。
「バカを言うんじゃありません!!!」
怒鳴られ女の子と少年はガタガタと震え出す。
ルスカもアカツキが怒鳴った事に驚きを隠せない。
「いいですか!! もし、あなたがこのまま居なくなったら、弟さんが一人で生きていられるとお思いですか!?
何より弟さんを守りたいなら、周りに助けを求めなさい!!
もちろん、この世は優しい人だけではありません!! 酷い目にも合うでしょう。
だけど、弟さんを本当に守りたいなら、弟さんが一人でも生きていられる歳まで、あなたも生きなさい!!」
アカツキに怒鳴られ女の子は泣き出し、少年は姉を守るようにアカツキをキッと睨み付ける。
ルスカは慌ててアカツキに落ち着くように肘でつついた。
ハッとして、女の子が泣き出しているのに気づいたアカツキは、やり過ぎてしまったと、ばつの悪そうな顔をする。
アカツキは女の子に自分を重ねているのかもしれない。まだまだ幼い妹を残し、異世界ローレライに転移させられた自分に。
自分には、もう守りたくても守れないのだという苛立ちからか。
「うう……っ、ぐすっ。お願い……です、助けてくだ……さい。ううっ……」
静寂の闇夜の中、女の子はアカツキに助けを求め大きな声で泣き出す。
今まで堪えていたのだろう、耐えていたのだろう、心の辛さを吐き出すように、女の子は泣き続けた。
◇◇◇
「落ち着きましたか?」
アカツキの言葉に、いまだに嗚咽を漏らしながら頷く女の子。
少年も姉が泣き出した時には、一緒に涙を流していたが、今は姉を守るように抱きついていた。
「ひ……っく、あのお願いします、ご飯をください。ワタシは何でもします……奴隷にして頂いても構いません。み、未熟ですが……せ、性奴隷でも……」
「!! 別にそんなのは望んでいませんっ! ってルスカもそんな目で見ないでください!!」
ルスカの軽蔑するような視線がアカツキに突き刺さり、全力で首を横に振り否定する。
「そうですね、話は後にして、まずは……ご飯にしましょうか」
そういうとアカツキは、空間の亀裂に手を突っ込み取り出したのは鍋。
鍋を地面に置き蓋を開けると、そこには出発前に作っておいたサンドイッチが。
女の子と少年は、鍋の中のサンドイッチを見て生唾を呑み込む。
「いただきますなのじゃ。ん? 何しておる、ほれ」
ルスカはサンドイッチを取り出し、目の前のサンドイッチにお腹を鳴らしながら、ボーッとしている二人に渡す。
「あ、あの……いいのですか?」
サンドイッチをギュッと握りしめ、怯えた目でアカツキを見てくるので優しい笑顔を見せ頷く。
「ありがとうございます! ほら、パク食べていいって」
女の子の言葉を聞き、パクと呼ばれた少年はサンドイッチにかぶりつくと、目が輝き出す。
「美味しい……」
パクがそう言うと、安心したのか女の子もかぶりつく。
「本当美味しいです……野菜も瑞々しいですし、このお肉みたいなのも……こんなの初めてです」
女の子は自分がかぶりついた跡の残ったサンドイッチをジッと見ながら笑顔になる。
「ふふーん、アカツキの料理は旨いのじゃ。どれ、ワシも……」
ルスカもサンドイッチに食らいつく……が。
「あ、アカツキ。パ、パンが固いのじゃ……」
パンを力一杯、口で引きちぎるルスカ。アカツキも試しにサンドイッチを口にするが、やはり固い。
しかし、二人の姉弟は、飢餓からくる火事場のくそ力なのか、黙々と固いパンのサンドイッチを噛み千切っていた
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