第二十二話 ボス戦


 最下層に降りてきて感じたのは、ウーレンフートの最下層と違うということだけだ。


 本当に最下層なのか疑問はあるが、それは自分の感覚を信じる。


 そして・・・。


「エイダ!」


『最下層です』


 エイダが断言したのだから、最下層なのだろう。

 ここで、今まで作っていたプログラム魔法を試してみる。


 W-ZERO3を起動して、準備していたプログラムを起動する。


 探索を行うプログラムだが、確かにこの階層から下に降りる階段は見つけられない。扉で塞がれた場所も、空気(魔素?)が入り込めれば探索ができる。やっと完成した魔法だ。まだ、魔石にはセットアップしていないが、W-ZERO3からなら起動が可能だ。使いどころが難しい・・・。言葉を選ばなければ、殆ど意味がない魔法プログラムだから、ランチャーから起動が出来れば十分だと考えた。表示領域もいじっていないから、標準出力に結果が表示される。

 表示もこだわっていないから、ローグ風の出力になっている。ASCII文字だけで表示される地図は、解る人にしか解らないだろう。地図の移動は、カーソルにした。さすがに、”h j k l y u b n”はキーボードをブラインドタッチしている時でないと使いにくい。


 魔法陣なんかの転移トラップがあれば、表示するようにしてあるので、扉の中には階段も罠もないようだ。モンスターは、データベースには入れていない物のようだ。魔力パターンを記憶させているから、データベースに乗っている魔物はA-Yで表示される。タップすれば、戦闘履歴などが表示される。未見の魔物はZで表示される。


 この階層には、上の階に戻る階段しか存在しない。


『マスター?』


「あぁ調べていただけだ」


 W-ZERO3でマップを確認した。

 解りやすい隠し部屋はなさそうだ。俺とアルバンとエイダ以外も、魔力を纏っているのは扉の奥に居る”主”だけだ。眷属を召喚されたりしたら増える可能性もあるが、現状では1体だけだ。大きさは解らないが、今までの強さからいきなり10倍の強さになったとしても対応は可能だろう。

 それに、ウィルスではないが扉には罠の類が設定されていない。

 閉まる仕組み位は組み込まれている可能性はあるが、ボスを倒さなければ、扉が開かないような”罠”は仕掛けられていない。この”罠”はウーレンフートで判明している。罠の解除を行えば、戦闘中でもボスの前から逃げられる。だから、罠が扉に仕掛けられていないことを考えると、途中退場ができる設定になっているのだろう。


 この魔法プログラムは気合を入れて作ったけど、使いどころが難しい。

 多分、ダンジョンのように閉鎖された場所なら使えるけど、外ではプログラムとして制限を掛けなければ動かないだろう。異常系をどこまで考えられるかが、システム構築では必須なスキルだ。特にエラー内容を読まないで、安易にキャッチしてスルーしているようなシステムでは、イレギュラーな状況に対処が出来なくなってしまう。

 ランチャーでの起動で十分な魔法で、俺だけが使うことを想定しているプログラムだから、異常系もあまり深く考えていない。


「アル。次がボスの部屋だ」


「うん!攻略する?」


「そうだな。ウーレンフートのような罠はないようだし、攻略してしまっても問題はないだろう」


「わかった!兄ちゃん。おいらに戦わせて」


「そうだな。まずは、ボスを見てからにしよう」


「うん!」


 扉を開けると、中央に居るのは、ベヒーモスのような姿だが、ベヒーモスならデータベースに登録されている。上位種には見えない。大きさも知っているベヒーモスよりも格段に小さい。


「エイダ!」


『レッサーベヒーモスだと推測します。ベヒーモスよりもランクが低い魔物です』


 ベヒーモスなら、アルバンだけだと倒せないだろうけど、ランクが低い魔物ならなんとかなる可能性が高い。


「アル。やってみるか?」


「うん!」


 俺とアルとエイダは、開いた扉からボスが居る部屋に入る。


 アルが、双剣になるように構えて飛び出す。

 レッサーベヒーモスも迎撃態勢になっているが、最初の攻防はアルの方が若干だけ守勢に回っていたが、エイダの支援魔法プログラムで反応速度が上げられてからは、徐々にアルバンが優勢になる。


”ヘイヤ!”とか”アヒュゥ”とか気が抜ける声を発しているが、アルバンはしっかりとレッサーベヒーモスを追い詰めていく。


「問題はなさそうだな」


『はい』


 俺とエイダが確信したのは、アルの左手に持つ剣が、レッサーベヒーモスの右目にダメージを与えたからだ。

 時間にして、30分。長いのか、短いのか、判断は難しいが、アルバンが(エイダの援護があったとはいえ)単独で討伐できそうだ。


 気合が入らない掛け声と、レッサーベヒーモスの咆哮だけが、ボス部屋に響いている。


 俺たちが勝ちを確信してから、さらに30分の時間が経過した。

 アルバンは、60分に渡って動き回っている。そこまで長期戦になるとは思っていなかったけど、アルバンの戦い方では、時間が必要になるのも想定の範囲内だ。近づいて、ダメージを与えて逃げる。この繰り返しだ。

 ダメージも最初は軽い物で、レッサーベヒーモスに弾かれていたが、レッサーベヒーモスが攻撃に魔力を使い始めてから、ダメージが通るようになった。


 そこからは、ダメージだけではなく動きも悪くなり、アルバンが優勢になっていく。


 しかし、巨体というのは、それだけで脅威だ。

 ベヒーモスよりも2-3割小さいと言っても、アルバンの数十倍の大きさだ。


 動きが鈍くなってきても、攻撃のパターンもアルバンに突進を繰り返すだけになっている。


「エイダ。レッサーベヒーモスは攻撃に回すだけの魔力が無くなって来たのか?」


『はい。マスターの推測通りです』


「そうか・・・」


 それから、10分が経過した。

 突進の速度も目に見えて遅くなってきている。


 最初は、突進を躱してもダメージを与えるのが難しかったが、今では突進の最中にダメージを与えることに成功している。

 こうなると、負けるのが難しい状況だ。


「アル!」


「うん!」


 アルバンが、余裕を見せ始めたから、注意の意味で声をかける。


 俺からの声掛けは、”終わらせろ”と受け取ったようだ。

 レッサーベヒーモスの突進を躱してから、ダメージを与えるのではなく、距離を開ける。


 両手に持った剣を合わせて、短剣のような形にする。

 そして、魔法プログラムを発動する。


 アルバンが持っている剣は、俺が改造した物だ。

 バラバラの時には、一般的な剣と同じだが、二本を合わせて持つと、回路が繋がって、お互いの剣にはめ込まれている魔石にインストールしているプログラム魔法の起動ができるようになっている。

 アルバンが、魔法プログラムの詠唱を始める。短い、単語だけを繋いだ簡素な物だ。インストールしているプログラムに渡すパラメータを詠唱すればいいだけにしてある。


 魔法プログラムが発動する。詠唱が成功した証左だ。


 アルバンが構えた剣に、氷属性の刃が現れる。

 本人が持つ属性以外でも、プログラムで与える事で、実現が可能になっている。しかし、放出系の魔法には使えない。魔石への設置が絶対条件なので、以外と使いどころが難しい。

 しかし、剣を魔剣化するにはいい技術だ。


 アルバンが、氷の刃をレッサーベヒーモスの足に当てる。


”ぬおぉぉぉぉぉ”


 気合が入った、気合が感じられない声をアルバンが発しながら、レッサーベヒーモスに食い込んだ氷の刃に力を入れる。


 レッサーベヒーモスも、足に最後の魔力を集めているように、氷の刃を押し返そうとするが、アルバンの力と氷の刃が強い。徐々に、喰い込んでいき、足の切断に成功した。


 一本の足を無くしたレッサーベヒーモスは、大きな音を立てながら倒れ込む。


 アルバンは、足を切断したのを確認してから、レッサーベヒーモスから距離を取る。

 倒れ込んだだけで、まだ絶命はしていない。


「アル。仕上げだ」


「うん!」


 氷の刃のまま、大きく振りかぶって、レッサーベヒーモスの首に刃を当てる。

 そのまま、同じように気合が入った。気が抜ける掛け声と共に、力を入れる。


 すでに、魔力が尽きているレッサーベヒーモスは対抗できる手段は残されていない。

 アルバンの刃が、レッサーベヒーモスの首を切断する。


「おいらの勝ち!」

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