第十四話 散歩


 アルバンと、町から出て森に向かう。

 最初は、クォートかシャープが付いてくると言っていたが、二人には俺とアルバンが町に居るように偽装してもらうために、残ってもらった。


 カルラは、町から離れることを印象付けるように出て行った。他の町に、物資の調達をするためという理由だ。そのために、馬車と一緒に旅立った。俺たちが残った理由は、『一緒に商売を行う商隊が遅れていて、待っている』ことにした。

 間違っていないが、突っ込まれると困る言い訳だ。


 だが、町長夫妻だけでなく、町民は誰も突っ込んでこなかった。

 町にお金を落としてくれる上客だと思っているようだ。同時に、クォートとシャープが次の商隊が持ってくる物資で、『売買を行いたい』と言ったのも、俺たちの逗留を無碍にできなくなった理由なのだろう。


 町長からは、食料が不足気味になっていると相談されて、カルラが調達してきた食料の一部を、町民に格安で提供することになった。

 損失分は、滞在費を安くしてくれることになった。町長も、受け取れる宿泊費を削ってでも、町に物資が回る方がありがたいのだろう。宿泊費は、ほぼ無料になったが、悪いので、最低限の費用だけは払う事にした。物資も、仕入れ値で提供することにした。カルラの用事報告の次いでにアリバイ作りの仕入れなので、儲けを気にする必要はない。

 それに、町のためになるような活動を率先して行うことで、今後の目的である。”拠点にする”という目的が実行しやすくなる。かもしれない。


「兄ちゃん?」


「もう少しだけ、奥に行った方がいいな」


「うん!」


 アルバンと他愛もない話をしながら、森の中を歩いている。

 木々や植生を見ると、王国と違いは見られない。陸続きだし、大きくは違わないと、考えていたけど、間違っていない。


 しかし・・・。


「ねぇ兄ちゃん。この森・・・。おかしくない?」


「そうだな」


 アルバンが指摘するように、動物が極端に少ない。

 正確には、動物だけではなく、昆虫も少ないように感じる。森が死に始めている?


「兄ちゃん?」


「アルが感じているように、この森はおかしい」


「うん。動物が少ない・・・。居ない?」


「この前、討伐に向かった時は?」


「うーん。動物には会わなかったよ。もしかしたら、村の人たちが食べちゃった?」


「可能性のレベルで言えば、”ある”かもしれないけど・・・」


「そうだよね。あの人たちに、捕まえられそうな動物は、ラビット系くらい?ボア系だと、無理でしょ?」


「あぁホーンラビットだと無理だろう?」


「うん。無理だと思う。そうなると、違う理由?」


「どうだろうな。例えば、町民が食べる物が無くなって、森の果物を全部・・・は、無理だけど、かなりの数の果物を食べちゃったとしよう」


「うん」


「そうなると、その果物を食べていた動物は居なくなるよな?」


「あぁ!そうか、その動物を捕食していた動物も居なくなる!」


「そうだな。でも、その捕食していた動物たちは、別の動物も食べるよな?」


「うん!」


 食物連鎖がどこかで壊れてしまった?

 でも、数年での変化じゃないだろう?


 土は、まだ腐葉土になっている。草木はまだ大丈夫なのだろう。森が再生するかわからない。でも、何か理由があるはずだ。


 暇潰しに調べてみるか?


 ん?


「アル」


「うん!魔物?」


「あぁ数が多いな。殲滅しておくか?」


「うん!でも、大丈夫?」


 大丈夫は、『二人で大丈夫か?』なのだろうけど、強さで言えば、アルバンだけでも対処できる。

 ゴブリンだけの集団だ。上位種も居ない。変異種も居ない。本当に、ゴブリンだけの集団で、20体ほどだろう。ゴブリンだけの集団としては大きいが、指揮する個体がいなければ、対処は難しくない。


「あぁゴブリンだけの集団だ」


 アルバンに説明すれば、納得した。

 武器を取り出す。ゴブリンも、何かに気が付いたのだろう。臨戦態勢を取っている。武器を構えている。


 アルバンと決めた作戦は、いたって単純だ。

 左右から突っ込むだけだ。


「終わり!」


 最後の一体は、アルバンが正面から切り伏せた。


「ねぇ兄ちゃん。無手・・・。じゃないよね?どうやって倒したの?」


「ん?これか?」


 魔法を発動する。

 アイツらに一矢報いるために開発した魔法だ。


 ”虚無のつるぎ”となづけた。属性の付与ができる。


「え?それって、魔法で剣を作ったの?」


「そうだ。今は、指先から出しているけど、ある程度は自由にできる」


「へぇ・・・。でも、剣と同じなら、剣で戦った方がいいよね?」


「そうだな」


 アルバンが言っていることは間違いではない。

 でも、剣では・・・。刀では、届かない奴に、刃を届かせるための”つるぎ”だ。


「でも、かっこいい。見えなくもできるの?」


「できるぞ」


 属性を指定しないで剣を作れば、見えない。

 俺にも見えないから、使いどころは考えなければならない。”見えない”アドバンテージはあるだろう。でも、きっと”アイツ”には届かない。その為の属性付与だ。剣術の修練は続けている。その上で、届かない隙間を産める工夫が必要だ。それが、魔法だと、俺は考えている。


「兄ちゃん。おいらも・・・。は、無理だよね」


「考えてみるけど、難しいと思うぞ」


「うん」


 アルバンは器用だけど、属性魔法があまり得意ではない。

 形を維持した状態で、属性を付与しなければならない。そのうえに、剣としての切れ味が必要になる。意外と、考える事が多い魔法だ。他にも、プログラムを組み込んでいる。それらを、魔道具にしようとしても、使う者にも会う程度の相性や技量が必要になる。


 障害物に当たった時の処理は、瞬時にパラメータを切り替える必要がある。

 剣同士なら、相手の力量次第ではすり抜けても面白い。すり抜ける事で、相手にダメージは追わせられるけど、相手の剣の処置を間違えば、こちらもダメージをうける事になる。これらの条件を、スイッチで組み込んでもよかったのだが、魔法式だけが無駄に大きくなってしまう。そのために、パラメータとして外部からの入力で剣の動作を変更するようにしている。


「なぁアル」


「何?」


「ゴブリンの集団が、指揮個体もなしで存在できると思うか?」


「うーん。解らない」


 カルラなら何かしらの答えを持っているだろうけど、今は・・・。カルラは居ない。

 下位の魔物は、指揮個体が居なければ、同種での群れにならない。動物から魔物になったのなら、動物の時の習性が残されても不思議ではない。


「ダンジョンの中では、集団で居る場合には、指揮が居たよな?」


「うん。4体以上だと、指揮が居るよ?でも、ダンジョンなら当然だよね?」


 そうだよな。

 指揮個体を潰すことで、討伐が簡単になる。ただ、指揮個体は上位種と決まっていない。見極める目が必要になる。


 もしかしたら、野良のゴブリンも同じなのかもしれない。ダンジョンの中が、特殊だと考えるのは、無理があるのかもしれない。


 思い出した!魔族だ!

 でも、ダンジョンにはゴブリンやオークやオーガが存在していた。俺たちが・・・。あぁぁぁぁぁ!!


 そうか!


「兄ちゃん?」


「悪い。いろいろ繋がった」


「え?」


「カルラは・・・。もう出てしまったか、あとで、エイダに話をして、まとめさせて・・・。ふぅ・・・」


「兄ちゃん?」


「大丈夫だ。やっと、いろいろ繋がっただけだ。全部。俺の勘違いだ」


「勘違い?」


「そうだ。アル。魔物と動物と魔族の違いは解るか?」


「え?魔物は、魔物でしょ?動物が、狂暴になって、人を襲い始める。魔族は、魔族だよね?」


「そうだよな。常識だよな」


「うっ・・。うん。兄ちゃん?本当に、大丈夫?」


「大丈夫だ。ウーレンフートのダンジョンに居たのは、魔物だよな?」


「え?当たり前でしょ?魔族も動物も居ないよ?」


「ゴブリンは、魔物でいいのだよな?」


「うん。言葉を話さないのは、魔物だよ?」


 意思の存在が、魔物と魔族の境界だと考えている。姿かたちでは判別していない。

 それでは、ゴブリンは?オークは?オーガは?いきなり襲うのは?


 敵対する可能性がある者に先制攻撃をするのは、当然だと考えている。山の中や森の中に潜んでいて、武器を持っていたら、盗賊と同じで退治されてもしょうがない。


 だから、ゴブリンが魔物だろうが、魔族だろうが、アルバンやカルラは関係がないと考えた。

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