第六話 検閲


「旦那様。お休みください」


 クォートが、食事の後片付けをしながら、俺に馬車の中に入っていて欲しいようだ。


「後は任せる」


「はい。シャープは、旦那様のお手伝いをお願いします」


「かしこまりました」


 俺が立ち上がると同時に、シャープも立ち上がる。

 カルラは、クォートの近くに移動して、何やら話し始める。


 馬車に戻ると、シャープが話しかけてきた。


「旦那様。騒がしくして、もうしわけありません」


「襲撃か?」


「おそらく」


 俺たちの周りの馬車が片付けをして、国境から遠ざかるように離れた。それでも、気にしないで、野営の準備をしていると、離れた場所から、俺たちを監視している奴らが居た。俺が感知したのは、10名ほどだが、入れ替わっている可能性があり、もう少しだけ多い可能性がある。


「この前の奴らの仲間か?」


「いえ、別口だと思われます」


「そうか・・・。昼間の聞き込みで派手にやりすぎたか?」


「はい。もうしわけありません」


「シャープが謝るようなことではない。俺の判断が甘かっただけだ」


「いえ」「それで、奴らは?」


「捕らえてみないと、目的は不明です。この後、クォートが捕らえるために動きます」


「わかった。それにしても、俺たちは狙われすぎていないか?」


「それは・・・」


「マナベ様。その説明は、私からいたします」


 カルラが馬車に入ってきた。旦那様ではなく、マナベと呼んだことから、今回だけのことでは無いのだろう。

 クォートと話していたから、二人で捕縛に行くのかと思ったけど、違うようだ。


「カルラ。どういうことだ?」


「はい。マナベ様。私たちの認識不足でした。もうしわけありません」


「謝罪の必要はない。今後のためにも、理由を知りたい」


「はい」


 カルラの説明は、憶測が含まれるという前提で始まった。

 まずは、馬車が目立っている。最初から解っていたことだが、自分たちが考えていた以上に注目を集めてしまった。その上で、馬車に”商会”の紋章しか掲げていない。したがって、どこかの貴族の紐付きではない。

 共和国に行くようだが、馬車にはそれほど多くの荷物を積んでいない。買付に行くに違いない。それなら、馬車の中に買付に必要な資金があるはずだ。資金は潤沢に持っているのだろう、だから、買っても、それほど意味がない食料品を買い漁っている。心付けで、高価なアイテムを渡したのも、わる目立ちした原因だ。


 従者は子供一人で、執事を連れているが、メイドが二人という、”襲ってください”と宣言をしているような感じに見える。


「そうか、振る舞いの全てがダメだったのだな」


「そうなります」


 これが普通だったからな。しょうがない部分もある。俺も、見た目は成人したばかりに・・・。ギリギリ見える見た目だし、アルバンは成人前だ。カルラは、微妙だけど、俺とそれほど変わらないはずだ。クォートは年長者にしたけど、年長者すぎて戦闘力が怪しく見える。シャープは見た目が整っている。メイドだけの役割に見られないだろうけど、戦闘要員には見えないだろう。ユニコーンとバイコーンも偽装しているから、余計に護衛を連れていないお気楽な集団に見えてしまっていたのだろう。


 外の気配が変わった。カルラの反応から、クォートが帰ってきたのだろう。


 早いな。

 10名くらいと思っていたから、もう少しだけ時間がかかるかと思っていた。


「旦那様。終わりました」


 やはり、クォートが戻ってきた。

 馬車に乗ってきた。汚れが付いていない。楽勝だったのか?カルラが、クォートの単独を許した事から、それほど強い者たちでは無かったのだろう。


「そうか、それで?」


「盗賊でした。武装していたので、一人を除いて始末しました。残り一人は、情報を抜き取ったあとで、砦の警備隊に突き出しました。根城は持っていないようで、流しの盗賊です」


 流しの盗賊って不思議な言い方だが、意味合いは解る。


「わかった。ひとまずは、これで安心か?」


「はい。共和国に入るまでは安心できると思います」


 クォートが言い切らなかったのが少しだけ気になってしまった。


「カルラ!」


「はい。クォートと情報の擦り寄せを行って、報告を行います」


「たのむ。そうだ。聞かれるかもしれないから、砦の警備隊に渡せるようにしておいてくれ、俺の身分はウーレンフートのホームマスターでいいだろう」


「かしこまりました」


 カルラとクォートが馬車から降りて、報告書をまとめるようだ。

 俺は、このまま寝ても問題がないのだろう。


 シャープが準備をしている。


 本当に、いろいろ有りすぎた。

 まだ、王国はこれでも治安がいいほうだと言うのが信じられない。確かに、狙われるような状況で移動していた俺にも問題はあるが、クリスたちに頑張ってもらわないとダメだな。交易路としての安全は、必須だろう。

 共和国との交易は、それほど多くはないが、少ないわけではない。

 状況を考えると、共和国に接しているライムバッハ領が治安維持を怠っているように見えてしまう。実際には、近隣の敵対している派閥の領から流れてきている領民が原因なのだけど、アイツらは、それが解った状況でもライムバッハ領の責任に仕立て上げる可能性だってある。


---


「旦那様」


「ん?動き出す?」


「はい。馬車の向きを戻します」


「頼む」


「旦那様」


 今度は、カルラが話しかけてきた。


「どうした?」


「旦那様は、なるべく馬車の中に居てください」


「もとより、そのつもりだ」


「私とクォートで、検閲を抜けられると思います」


「わかった。シャープもアルも、そのつもりで馬車の中に移動してくれ、ロルフは、手遅れだと思うけど、人形のフリをしていろ」


「かしこまりました」「はい」『了解しました』


 結界を解除して、旧式の端末などは、ステータス袋にしまい込んだ。馬車の中を見られても、袋が吊るされているだけだ。中身を確認しても、権限を持っていない者では何も入っていない状態になる。


 今日は、馬車の進みがスムーズだ。

 それはそうだよな。貴族が関所の前で、野営しなければならないような状況を我慢するわけがない。無理やり通ろうとするか、引き返すだろう。引き返して、親に泣きつくか、関所を管理している部署に無理を通そうとすることだろう。特権は、自ら得たものでなければ、無理を通す権利だと誤解する。


 貴族や貴族に関係する馬車が居なくなって、関所の検閲もスムーズに進む。

 もともと、野営までして共和国に行こうと思っている者たちだ。行商人でも、無理をしようとは思っていない。なるべく穏便に通過できるように考えている。そのために、ご禁制品や持ち込みが禁止されている物は、最初から除外している。共和国側のルールが変わって、以前は大丈夫だった物でも、現在はダメになっている場合も、自分の情報収集がおろそかになっていたと諦める傾向にある。ごねて、全部が没収になるよりは、一つの商品を諦めるだけで関所を通過出来るのなら、そのほうがいいと考えるのだ。


「旦那様。順番が来ました」


「わかった。クォート。頼む」


 馬車の中では、アルだけが緊張している。

 俺も、国境を越えたことはないが、アルも初めての事で、ロルフが捕まったら死刑とか言い出した。俺も、カルラも否定しなかったので、アルだけが緊張している。シャープは、ロルフを抱きかかえている。実際に、触っているとリンクが繋がりやすいのだと言っていた。


 外のやり取りが聞こえてくる。

 共和国に向かう目的と、滞在予定を話している。ギルの所の商会からの取引の書類もあるために、信用度が違う。ウーレンフートのホームから発行している証明書も、信用を高めるのに役立っている。


 最後に、馬車の中を確認して、終わりとなる所で、アルの緊張が尋常じゃない状況になったので、睡眠の魔法を発動して強制的に眠らせる。

 丁度、兵士が中を確認したときには、アルが眠った後だった。


 簡単に中を見られただけで、検閲は終わった。


 共和国に入る前に、兵士がクォートとカルラに野営中に発生した盗賊に関する情報を聞き取りたいと言ってきたので、カルラが作成した報告書を提出した。口頭でも簡単に説明して、終わりになった。


 これで・・・。

 共和国に入られる。

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