第五十二話 ランクアップ?
ダンジョンの低階層の攻略を初めて、1週間が経過した。
恐ろしいほどの資金が集まっている。
初日が少なかったのだ。
今では、毎日ソロで40-50万ワトほど稼いでいる。
ギルドの職員が言うには、飛び抜けて多いそうだ。
通常は、パーティーで4-5万ワト程度が稼げればいいそうだ。
何が違うのかわからない。
わからないが、俺が稼いでいることは解る。それが解るのは、俺だけではなく、目の前で悶絶しているバカ共も同じ様だ。
いつものように、ダンジョンの5階層辺りで狩りをしていた。
その頃から視線を感じていた。悪意はあるが一定の距離を保っていて、近づいてこないので無視していた。気がついていないと思ったのか、その2組のパーティーは狩りをするわけでもなく、俺が移動して狩りをしているのを監視していた。
途中で監視する要員が変わったのは、発覚を恐れたからなのだろう。
そして、ギルドに納品したあとで、ワトを受け取ったのを確認していた。
いつもは、ワトはギルドにあずけている。正直、ステータス袋に入っているワトだけで、親父さんの宿に5-6年泊まれるくらいは用意している。前世では成し遂げられなかった不労所得もある。ギルのおかげなのか、毎月使い切れないくらいのワトが振り込まれている。
50万ワト程度なら恵んでやらない事もないが、俺の事を見下して奪おうとしてくる奴に遠慮する必要はない。
今日は見られている事もあり、ダンジョン内では刀は抜かなかった。短剣二本を使った戦法で戦った。そのせいなのか、俺が加護を持っていないと思ったようだ。
ニヤニヤ近づいていて、ワトを寄越せと言ってきた。
賤貨を1枚投げ渡した。この程度の挑発に乗って剣を抜いたのは向こうが先だ。
賤貨を投げると同時に路地から大通りに移動する。そこで、剣を抜いたのは向こうが先だ。結局18名のバカ共が俺を取り囲んでニヤニヤしている。どうやら、
こんな成人したての人間を囲んで何がしたいのだろうか?
俺の目標はこんな奴らではない。
俺が権力を、力を、名声を、得るための踏み台になってもらう。”あの方”に手が届くまで。
何か”代官のオヤジが”とか言っていたけど、気にしてもしょうがないだろう。最後の一人が倒れた時に、自警団がおっとり刀で駆けつけてきた。かなり慌てたのだろう、状況説明がされていない。情報共有なんて社会人の最初に習う事だろう?
俺が・・・。そうか、加害者に見えるよな。1対18で完封勝利。
俺は身分保障してもらっているギルドに呼ばれている。
今日、親父さんの試行錯誤が実ったソーセージとハンバーグの日だったよな。早く終わらないと、食べられないのは確実だし、さっさと終わらせて欲しい。
扉が開いて、
そして、別の扉から、いかにもギルドマスターと思えるような男性が入ってくる。
ダメな人だな。テオフィラの方をちらっと見ている。見たことが、バレないとでも思ったのか?
男が俺の前に尊大に座る。
「貴様が、マナベか?」
「違います。ですから、帰りますね」
無礼な男が俺に掴みかかろうとするが、手で払いのけるまでもなく、回避した。
「何をするのですか?」
「おま」「ご自分が名乗るのが先だと思うのですが?それに、貴方はギルドマスターでは無いですよね?」
テオフィラが大きなため息をついて、男に向かって
「あれほど、私を見ないように言ったのに、ダメな人ですね」
やはりな。
こちらがギルドマスターで間違いないようだ。
なにか、指示を出しているようだが気にしてもしょうがないだろう。
目の前に出されたお茶を口に含んだ。紅茶で間違いは無いだろうが、甘みも足りなければ、美味しくもない。色がついたお湯だ。
「マナベ様には、お口に合わなかったようですね」
「それで、先程の茶番の謝罪はないのですか?」
「そうですね。マナベ様。申し訳ありませんでした。彼が、貴方の人となりを見たいという事で許可したのですが、悪手だったようですね。本当に申し訳ありません」
「そうですか・・・人となりですか・・・。謝罪は受け取りますが、私のあなた達に対する心象がよくなるわけではありません。最悪の一歩手前だと思ってください」
「わかりました。当然の事だと思います」
表情が読めない。
鑑定を使ってもいいのだが、別にそこまで必要ないだろう。
「ふぅ・・・。それでお話があると伺ったのですが?」
「ランクアップを行えるのですが、少し困った事になってしまっています」
ランクシステムを思い出してみる
黒(12)→黒(11)→黒(10)→緑(9)→黄(8)→青(7)→赤(6)→紫(5)→茶(4)→銅(3)→銀(2)→金(1)→白(0)
俺は、緑カードを持っている。
ランクアップは、俺の場合は、緑から黄にカードが変わる事を指す。
一人前の駆け出しといった所だろう。
たしか、ギルドへの貢献度がどうのこうのとか説明を受けた記憶がある。
依頼を受けていれば自然と溜まって、ランクアップするとか言われた記憶がある。
「それで?」
「はい。現在、マナベ様はランク9なのですが、貢献度を加味すると、ランク8になれます」
「そうですか。何か困っていると聞いたのですが?」
「はい・・・」
どうやら、話を総合すると、ソロでのランクアップの前例がなく、どこかのチームやパーティーに属しているのだと話していた。
慣例的に、黄以上・・・。ランク8以上の依頼は、パーティーでの対応が求められる物になっているとの事で、対応を協議したかったという事だ。俺としては、別にランクアップはそれほど重要ではない。
技量を上げて、力を溜める必要があると思っているだけだ。
エヴァとのパーティー登録をしているから、正確にはソロではない。ギルドもその辺りの事は把握しているのだろう。
だから、実質的なソロだと言っているのだ。
そこで、何が問題になっているのかというと、俺の実力を懐疑的に見ている連中が多いという事だ。そして、俺がまだ成人したての人物である事やソロである事から、ダンジョンを甘く見る連中が出てきてしまうのではないかという懸念がされているという。
「はぁ・・・。正直、どうでもいいです」
「は?」
テオフィラが困惑した顔をする。
「ギルドマスターが俺の事を気にかけてくれている事は嬉しく思いますが、規約で”ソロ”ではランクアップできないとは書かれていません。それならば、規定通りのランクアップをお願いします。無理なら無理でいいです。気分は悪いのですがかまいません。あと、他の人が、ダンジョンを甘く見て勝手に無理をして勝手に死のうが俺には関係無いことです」
席を立って帰ろうとしたが、横から馬鹿が怒鳴ってきた。
「貴様!下手に出ればいい気になりやがって!」
「貴方。うるさいですよ。俺とギルドマスターの会話に入ってこないでください。関係ないのなら出ていってください。目障りです」
「多少できるからって、いい気なりやがって!俺を誰だと思っている!」
「知りませんよ。オークにも、ゴブリンにも、知り合いはいませんから?あっすみません。オークとゴブリンに失礼でしたね」
ピクピクし始めた。
俺が言った意味が解ったのか?
「貴様!それは俺の事か?緑風情が茶カードの俺を、ウーレンフート1の冒険者であるランドル様だぞ!」
「へぇそのランドル様が緑カードの俺に用事なんて無いですよね。帰ってくれていいですよ。うるさくてたまりません。あっ息も臭いのでこっちに話しかけないでください。まだオーガの方がいい匂いがしますよ」
早く帰りたいのだけれど無理そうだな。
ため息が出てしまう。
「貴様!さっきから。俺様の事を!!」
「だから、なんですか?頭の中まで筋肉なのですか?わかりやすくいいましょうか?俺は、貴方程度の雑魚の相手をしているのなら、美味しいハンバーグとソーセージを食べる事を選びます。そうだ、もう一度いいましょうか?ゴブリン程度の知能しかないのでしょうから、一度では理解できないでしょ?」
静寂が場を支配する。
「貴様!!!テオフィラ様。もう我慢できません!」
「マナベ様。もう少し穏便にしていただけないでしょうか?」
「おっしゃっている意味がわかりません」
「わかりませんか?」
「はい。俺の対応になにか問題がありましたか?」
「ランドル殿の名誉を傷つけました」
「そうですか?それでは、謝罪いたします。申し訳ない。まさか、ゴブリンやオークよりも弱い人がこの場で偉そうにしているとは思っていませんでした」
「マナベ様。それは謝罪といいません」
「そうですか?あぁそうですね。事実ですね。失礼しました」
何かが切れるような音がした。
「貴様!さっきから、俺様をオークやゴブリンと同じにしやがって!」
「はぁ聞いていましたか?俺は、オークやゴブリンと一緒にしていませんよ?」
「はぁ?!」
「俺は、貴方がオークやゴブリンよりも弱いと言っているのですよ。大丈夫ですか?頭の中まで筋肉になって考える事を放棄していませんか?」
「テオフィラ様!」
「わかった。マナベ様。そこまでいうのなら、ランドル殿と模擬戦してもらえませんか?」
「え?イヤです」
「は?」「え?」
二人の顔がキョトンとした。
なんで、俺が模擬戦を受けると思ったのか?そんな面倒な事を受けるわけがない。
「メリットが何も提示されていません。それに、俺は話があると言われて来ています。話が終わったのなら帰るのが当然だと思います」
ランドルが今にも俺に殴りかかろうとしているのを、止めているのは、テオフィラの護衛だろう?
「メリットですか?」
「当然ですよね?ギルドですよ?俺は、労働力を提供しています。それ以上を求めるのなら、それもギルドが主体となっているのですから、俺に対するメリット提示があってしかるべきだと思いますが?違いますか?」
「そうですね。このランドル殿との模擬戦ではメリットになりませんか?彼は、ウーレンフートで今もっとも進んでいるパーティーのリーダーですよ?彼に勝てば、貴方が受ける羨望やパーティーへの誘いも増えると思いますが?」
「デメリットしかありませんね。負けるとは思えませんから、勝った時の事を考えても、面倒事が増えるだけでメリットでは無いです。それに、俺はもうパーティーメンバーを決めています。それ以外の者と組むつもりはありません。名声?そんな物は求めていません」
「それではワトですか?」
「それも必要ありません。ギルドマスターなら俺がここ数日で稼いだワトを知っていますよね?どうせ、商業ギルドも調べたのでしょう?」
俺のバックボーンをどこまで調べたのか気になってきた。
ライムバッハ辺境伯の関係者だと知っているのか?アルノルトの名前を知っているのかだが・・・。さすがは、ギルドマスターという所だろう。この場でそれを悟らせないくらいはできるようだ。
「それでは何を?」
「それを考えるのが、ギルドの役割ですよね?」
「?」
「ギルドとは、”ギルド員同士のイザコザが発生した場合に仲裁または、仲裁案を提示する”と規約に書かれていましたけど違いますか?」
「・・・」
「そっちの・・・あ・・・えぇぇと、まぁいいです、オークもどきは、俺と模擬戦としたいという事ですよね。でも、俺はしたくない。ギルドの仲裁案が必要になる所ですよね?あっちなみに、その後で、”仲裁案に納得できないときには、ギルドを脱退する権利がある”となっていましたので、俺は、仲裁案が出されない場合には、残念ですがギルドを脱退します」
「それで、ダンジョンに・・・」
「潜れますよね?」
「・・・・」
「たしか、ダンジョンには、領主が認めた証があれば入られますよね?」
「えぇですが・・・」
「なんですか?」
「わかりました。マナベ様が望むメリットはなんですか?」
え?この人ってもしかして、馬鹿なの?
それとも、わざとやっているの?
表情を見ていると、どうやら本気っぽい。
やばい本格的に気分が悪くなってきた。
「困った人ですね。俺はさっきから言っていますよね?帰って、美味しいハンバーグとソーセージを食べる事が望みだと、それに俺が有している権利を行使したいだけです」
「貴様!さっきから聞いていれば!多少できるからっていい気になるなよ。俺様が、使えそうな奴で、ワトを稼げると思ったからパーティーに誘ってやろうと思っているのに!いい気になりやがって!」
「いい気分ではありませんよ。オークもどき言っている事は意味がわからないし、食事の時間には遅れそうだし、なによりも、テオフィラ様。今、このオークもどきが言った事は本当なのでしょうか?」
え?まさか?
この馬鹿が重大な事を暴露したのがわからないの?
「テオフィラ様。俺は、王都のギルドに連絡します」
「なぜですか?」
「重大な規則違反の可能性があるからです」
「ですから、なぜですか?」
「本当に、わからないのですか?それとも、わからないフリをしているのですか?」
はぁ・・・。本当に、わからないようだな。
前から、こんな事をしていたのか?
それじゃ攻略が進まないのも納得だな。
「はぁ・・・。いいですか、いまさら、ギルドマスターにこんな事を言うのはおかしな話ですが・・・。ギルドの規約に、”ギルド職員は、ギルド員に対して公平な立場で接する”とあります。また”ギルド職員が、特定のギルド員に便宜をはかる事が有ってはならない。ギルド員の情報を職員が別のギルド員に許可なく流してはならない”となっています。あぁ一部の指名依頼に関わる場合には除外されるとなっていましたね」
黙ってしまう二人。
規約違反をしている認識はあったのかも知れない。
「あと、ランクにかかわらずという条項が全部についていましたよね。そして”これらの事案が発生した場合には、ギルド本部又は公的捜査機関に委ねる事になる”となっていました。この場合は、王都のギルドか、ライムバッハ辺境伯ですが、どちらがいいですか?」
「きっきさま!さっきからごちゃごちゃと、俺様に従う気がないのなら、潰すぞ!」
「それは脅しですか?」
「違う。警告だ!」
「わかりました。ギルドマスターのテオフィラ様もご納得なのですね」
「あぁそうだ!俺たちは、こうしてダンジョンの攻略をしてきた!」
はい。バカ確定。
「そうなのですね?」
え?護衛だと思っていた人たちが、一歩引いた所に移動した。
もしかしたら、王都のギルドから派遣させられた人なのか?
残念だな。テオフィラ様は使える人材だと思っていたのだけど、若い冒険者に声かけたりしていたのは、ヘッドハンティングをするための情報収集だったのか?
「はぁ・・・わかりました。模擬戦とやらをやりましょう。こちらの条件を飲んでくたらですけどね?」
「よろしいのですか?」
「構いませんよ」
「それでは」
「待ってください。条件を伝えていませんし、後ろの護衛に見える人たちが見届け人でいいのですけど、しっかり書面に起こしてください。後から、文句を言われても楽しくないですからね」
「貴様。ここに来て条件か?ふざけるな!」
「オークはうるさいですよ。黙っていてください。おとなしく待っていたら、相手してあげますからね」
ふるふる怒りでどうにかなりそうという顔をしているが、ギルドマスターが座らせた。
「さて、条件ですが、勝敗に関係なくやってほしい事が2点あります。さほど難しい事ではありません。今後、俺にギルドマスターや冒険者はかかわらないでください」
「”かかわらない”とは?」
「パーティーへの勧誘や、指名依頼を出さないという事です」
「それは、この支部だけですか?」
「貴方の権限では、この支部だけですよね?」
「そうなります」
「それで構いません。それを理由に、サボタージュをされるのも面白くないですから辞めていただきたい。普通の冒険者と同列に扱ってください」
「・・・。かまいません。そのかわり、冒険者が貴方をパーティーに誘ったりするのを止めるのは難しくなります」
「そうですね。わかりました。ランクアップを餌にするような事がなければ大丈夫です」
「もう1点は、模擬戦は一度で終わらせたい。そのオークもどきと戦ったら、他のパーティーメンバーが出てきたりしたら面倒です。パーティー全員を相手しますので、参加の意思がある連中を全員集めてください」
「マナベ様。それは」
「いい度胸だ!そこまで徹底的に叩きのめしてやる!死ななない程度にな!」
「オークもどきもやる気なので、問題ないでしょう」
「はぁ」
「それから、これは条件ではありませんが、模擬戦の場所と日時はおまかせしますが、公開してほしいのですが可能ですか?」
「可能ですが・・・あの・・・」
「いい度胸だ。人の目があれば殺されないとでも思ったのか?浅はかだな!殺す寸前までやってやる!明日だ!明日の昼に、ギルドの闘技場でやってやる!」
本当にうるさい奴だな。
「そう言っていますが、大丈夫ですか?」
「明日の昼なら大丈夫です」
「それはよかった。それから、俺が勝った時の条件ですが、そのオークもどきたちのパーティーメンバーで
「いいだろう!そのかわり、お前が負けたら、お前のワトとそうだな。お前自身を奴隷に落としてこき使ってやる。お前のパーティーメンバーのレイとかいう女は俺のペットにしてやるから安心しろ!」
「エヴァをなんだって?!」
抑えていたつもりでも・・・。ダメだな。一気に殺気が出てしまったかも知れない。
「はん。今更後悔しても遅いぞ!お前の目の前で、お前の女を壊してやる!」
少し落ち着こう、俺の情報はギルドに登録してある情報しか流れていないと思って間違いないようだな。
「問題ないようですね。さて、勝敗ですが、どのように判定されるのですか?」
「あ?」「え?」
「勝ちと負けを明確にしておかないと、後々もめますよね?」
「負けを認めるまででいいのでは?」
「わかりました、それでは”負けました”と発言するまでは、負けを認めない事でいいのですか?」
「それで問題ないでしょう」
「1人で戦いますが、そちらのパーティーは複数ですよね?その時には、誰の発言が有効とみなされますか?」
「ハハハ!貴様。勝つつもりなのか?俺たちに?俺様に!」
「オークもどきには聞いていません。息が臭いので、黙っていてもらえませんか?どうせ、言葉理解できていないでしょうけど、目障りです」
「ランドル殿。座りなさい。マナベ様。ランドルが負けを認めるまででいいでしょうか?」
「かまいません。確認ですが、ランドルとかいう人物が居て、その人物が戦いの最中に”まけました”と発言したのを、ジャッジをする人が聞いたら、俺の勝ちで間違いないですか?それ以外の決着は無いのですね?」
護衛だと思っていた人間が動く。
武器を持っていなかった事を少し後悔した。
「マナベ様。ご警戒しなくて大丈夫です。横から失礼します。王都ギルド所属のグスタフといいます」
「そのグスタフさんがどうしましたか?」
「先に、テオフィラ殿。先程のお話は、明日の模擬戦が終わったらゆっくりとお聞かせください。そして、マナベ様。先程の条件に2つ付け加えさせてください」
どうやら、監察官や監視員のようだな。
中立を保ってくれるような感じがしている。
「なんでしょうか?」
「1点は、相手を殺してしまった場合には、”模擬戦を中止して賭けはなかった事にする”でよろしいですか?」
「えぇかまいません」
「良かったです。もう一点ですが、私がジャッジを行います。私の判断で模擬戦を止める事がある事をご了承ください」
グスタフを見る。
こちらを見る目は、事情を知っているという感じがする。
感じがするだけで、どの程度の情報に触れているのかは判断できない。
悩みどころだな。
ジャッジは問題ない。どうせ、俺が勝つ。勝つ以外の選択肢がなくなった。エヴァの事を言われた時点で、殺してしまってもいい。そうしたら、賭けがなくなるだけで、俺としてはメリットがなくなるだけで、困る事はない。
「ジャッジは問題ありません。止めるのは、明らかに勝敗が確定した時ですよね」
「そうなります」
「その時に、勝敗でもめたら、グスタフさんが仲裁案をだしてくれますか?」
「私に、その権限はありませんが、王都から新しい職員を派遣してもらって、その職員に判断を委ねます」
悪くない条件だ。
今の話から、テオフィラの更迭は決まったような印象を受ける。そうなると、このランドルとかいう奴の失脚もほぼ確定する。
俺のメリットは少ないが、風通しがよくなるのは良い事だ。
少しだけ冷静になれる。
「わかりました。俺はそれで問題ありません。書面にしてもらえますか?」
「わかりました」
ブツブツ何かを言っている馬鹿や、喚いている馬鹿を置き去りにして、書類にサインをして一部もらった。
ギルドの正式な依頼として処理されるようだ。
ランドルのパーティーから俺への模擬戦の申込みとして処理するようだ。
部屋を出て、なにか依頼がないか見ていると、馬鹿がパーティーメンバーを集めている。
面白い事に、賭けまで行われるようだ。
先程の部屋に居た王都ギルドのグスタフの同僚だろうか、1人が俺に近づいてきた。
「マナベ様」
「ん?」
「賭けの胴元は、彼らの金主で、商業ギルドの重鎮です」
「へぇそれで?」
「いえ、それだけです。商業ギルドも、風通しがよくなれば、貴方がやりたい事が少しは楽にできると思っただけです」
そういう事か・・・。
商業ギルドも腐り始めているのか?
賭けか・・・。
そうだな。誰か、信頼できる人が居れば・・・な。
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