第四十六話 二人での生活

/*** シンイチ・アル・マナベ Side ***/


 久しぶりのライムバッハ領。

 そして、久しぶりの俺が生まれ育った街の、生まれ育った屋敷の、生まれ育った部屋の中に、俺は軟禁されている。


 それは、別に構わない。構わなくは無いが、事情が解るので、別にそれならそれでいい。


 一緒にエヴァが居るが別にエヴァが嫌がっていないのなら問題ない。

 そして、エヴァはすこぶる機嫌がいい。今も、俺が作った。コンロの実験を手伝ってくれている。


 さすがに、ギルが街に居るだけあって、素材で欲しい物が有る時にお願いすると、数時間で届けられる。


 当初の予定では、5日後には、葬儀が執り行われて、冒険者デビューする予定だったのだが、予定が狂ってしまった。まず大きかったのは、参列客の到着が遅れている。遅れたのは、天候のせいで、こればっかりはしょうがない。その遅れを、クリスが概算で教えてくれたのだが、10日前後は遅くなるという事だ。

 そして、それに輪をかけて問題になっているのが、共和国からも参列者が来る事で、急遽伝令を王都に飛ばしただが、返事を出すはずの、高官が、陛下と一緒に移動を開始してしまっていたために、その返事待ちの時間が加算されてしまった。

 無碍に断れない事情があり、共和国から参列者を受け入れる事になった。席次の問題もあるが、それ以上に警備体制の見直しが必要になってしまって、それで更に5日遅れてしまっている。


 これらを、カールが仕切る必要がある。

 実際には、クヌート先生とユリウスが仕切っている。クリスも手伝っているが、もともと居たライムバッハ家の臣団との意思疎通がまだうまくできていないようだ。クリスからは、俺が出て話をするのはやめて欲しいと言われている。

 それも当然だ。俺は、もうこのライムバッハ家とは関係ない人間にならなければならないのだ。


 エヴァに関しても、似たような考えで、ライムバッハ領から旅立つ者に頼るわけにはいかないという事だ。

 初日にそれを言われたので、おとなしく軟禁されている道を選んだ。


 それから、クリス。

 なぜ何度お願いしても、風呂場とトイレの扉を直す素材に関しては、”品切れになっている”のは、ギルが無能なのか、誰かが指示を出しているのか、是非教えて欲しい。


 俺がユリウスやギルから現在の状況を聞いている時に、エヴァを連れ出して、”女だけでの話し合い”をしてきたそうだ。そこで、何が話し合われたのかは、わからない。聞いても、教えてくれない。それから、エヴァが以前よりも大胆になったように感じる。羞恥心はあるようだが・・・。


 そんなわけで、俺とエヴァの軟禁生活は、既に5日目に入っている。

 寝るのは一緒の”狭い”ベッドだ。身体を重ねれば余裕だが、触らないようにするのは難しいくらいの広さが、セミダブルくらいのサイズだろう。これは、もう大丈夫、だいぶ慣れた。時々、寝返りをした時に、エヴァとぶつかりそうに・・・いや、抱きしめるくらいの距離になってしまうだけだ。注意してればなんとかなる。


 風呂とトイレも解決した。

 あいつら、扉に使えそうな素材を持ってこなかったが、魔法で対処した。


 エヴァがものすごく音と匂いを気にしたのが解った。1日目は、トイレも我慢していたようだ、二日目は我慢できなくなったのだろう、俺が風呂に入っている間に済ませたようだ。

 いつまでも、エヴァにそんな生活をさせるわけにはいかないし、身体にも悪い。


 そこで、風魔法を使って、視線を遮る風のカーテンを作成した。

 最初水でやろうかと思ったが、風呂場は大丈夫そうだったが、トイレは無理だろうと思って諦めた。風呂場も排水の問題が出てくるかも知れないので、エアカーテンを作る事にした。

 単純な風のカーテンでは、見えてしまう。

 そこで、上から下に吹き付ける風に炎を少しだけ混ぜてみた。最初はうまく調整できなかった。風を上から下に変更して、炎を風に乗せて伸ばす事にした。

 岩や木や氷などで、扉を作る事を考えたが、エヴァから却下された。理由は、俺の部屋だった場所を汚すのが嫌だと言われてしまった。そんな事をするくらいなら、俺の前でするとまで言われたので、諦めた。そして、現在は炎を調整して、中に入ってから、魔力を流せば、炎の風カーテンが視線を遮ってくれる。音か風で消えて、匂いは炎で消える。

 エヴァもこれなら納得してくれた。

 これで、トイレにいつでも?入られるようになった。


 単純な制御だが、なかなか楽しい。その上、魔法制御の訓練にもなる。そして、エヴァの喜ぶ顔が見られる。そして、待ち時間を有効に使える。一石三鳥だ。


 コンロもかなり改良した。

 エヴァの意見を聞きながら、改良を重ねている。


 他にも涼しい風が出る箱や、中の食材を冷やすための箱。寝る時に、身体の周りに結界を張って、指定した時間が経過したら、音で起こしてくれる道具。


 単純な魔法の組み合わせだけではできない物が多い。

 条件設定をして、常駐型で監視を行うプロセスと、処理を実行するプロセスに分けて組み込む必要があった。


 ほぼ、プログラムだ!


 こんな生活でも困った事がある。

 風呂があるので、汗とかは気にならない。誰の差金かじっくり聞かなければならないが、着替えが徐々に薄着になっている。部屋の中で洗濯するのは、なぜかエヴァに反対された。メイドの仕事を奪うのは間違っていると言われた。そこで、着替えをお願いして、洗濯物を渡す事になるのだが、昨日からエヴァの下着が無くなっている。覗いて見たわけではない。風呂場で着替えて戻ってきたエヴァが自己申告してきたのだ。

 ワンピースのような物を着ているだけだ。暑いから丁度いいとか言っている。確かに、顔を真赤にして・・・って、いくら俺でも気がつく、恥ずかしいのだろう。昨日の下着履けば?と言ったが、もう洗濯にまわしてしまったあとだと言われた。

 俺の着替えの中にある男物の下着をとりあえず履いてもらう事にした。上は・・・諦めてもらおう。


 これが、昨日の事だ。


 とある事情で、少し前から睡眠不足な状態が続いている。気分的にも、なんとなくハイな状態が維持されている。判断能力も正しいと自身を持って言えない。


 7日目。やっと念願だった物の試作機が完成した。

 しかし、どうやって試す?俺は、この存在を知っているから、違和感が無いが・・・さすがに、エヴァには頼めない。違うな、頼んだらやってくれるだろう。でも、その前段階の説明が、俺にできる自信がない。その上、1番最初の時には、使い方の説明をしなければならない。


 うんうん。唸っていたら、エヴァが来てしまった。


「どうしたのですか?」

「うーん。新しい道具を作ったのだけどな、どうしたものかと思ってな」

「え?私が試しますよ?今までと同じで改良点を言えばよろしいのですよね?」

「あぁーそうだけどな、なんというか・・・」


 いいか、正直に話してしまおう。

 そして、全部正直にいおう。エヴァの癖とか・・・寝ている時に、寝相が悪い時があって、外では一度もなかったが、ベッドで寝ている時に、下着を脱ぐ癖があって、ワンピースがめくれて、見てしまった事や、そのままの状態で俺に抱きついてきて、顕になった部分を俺の足や手に押し付けた事が一度や二度では無いことを、そして、俺の物を握ったりしていた事を含めて全部話をしよう。

 その上で、許してもらって、新しい道具”トイレのあとで、水で洗う道具”の説明をして試してもらおう。

 うん。そうしよう。隠し事は良くないよな。これで、俺の事を嫌いになって離れられたら・・・すごく悲しいがしょうがない。


 覚悟を決めて、話をした。

 エヴァは、体中を真っ赤にしてから・・・。


「うん。ごめんなさい」

「え?なんで、エヴァが謝る?」


 俺が謝っているのに、それから、エヴァは座りなおした。


「・・・女の子だけの話し合いが行われているのは知っている?」

「あぁ最初の頃に作った”話ができる道具”でクリスやイレーネやザシャやディアナと話しているのは知っている。会話できる範囲が、まだ屋敷の中が限界だから、丁度いいからな」

「うん・・・そこで、ね。・・・アル。私が話したって黙っていてくれる?嫌いになったりしない?」

「え?うん。大丈夫。秘密なら、誰にも話さないし、嫌いになったりもしない」

「本当に、本当に、本当?」

「あぁユリアンネとカウラとラウラに誓うよ」

「うん・・・・それなら・・・・」


 エヴァが聞かせてくれた事は、ある意味衝撃的な内容だった。

 ユリウスとクリスの関係は当然知っていた。それが、ライムバッハ領に来てから加速したのだ。既に、身体を重ねているという事だ。それだけではなく、ギードとザシャ、ハンスとイレーネ、ギルとディアナという組み合わせになっていて、既に同じ部屋で生活しているという事だ。親や周りの目線が無くなって、一気に加速したようだ。


 ふぅ一度整理しよう。整理も何もなかった。


「アル」

「何?私ね」

「エヴァ。それ以上は、言わなくていい。俺から言うから」

「へ?」


「エヴァンジェリーナ」

「はい」

「君が好きだ。こんな単純な気持ちに気が付かなくて・・・ごめん。でも、俺は」

「いいよ。アル。その言葉だけで嬉しい。私は待っているよ。でも、3年だけだからね。待つのは!」


 目線が合うのが解る。

 二人で笑いだしてしまった。


 そして、俺は、自分の意思で抱きしめて、キスをした。


「アル」

「なに?」

「嬉しい。でも、私でいいの?」

「エヴァじゃなきゃダメだ」

「・・・うん。私、面倒だと思うよ」

「知ってる」

「ひどぉい!」

「うん。ヤキモチ焼きだよな。今思うと・・・」

「うん。ごめん。私貪欲だよ」

「大丈夫知っている。オルタンスに似たのだろうな」

「うんって・・・アル。酷いよね」

「そうか?」

「でも、そういう所も好き」

「ありがとう。俺もエヴァの事好きだよ。でも・・・」

「解っている。ユリアンネ様とラウラとカウラの仇を取らないとね」

「あぁそうしたら、エヴァをもらうからな」

「えぇぇぇそれまで待っていたら、私おばあちゃんになっちゃうよ」

「そうしたら、おじいちゃんになった俺と一緒に過ごせばいいよ」

「それも素敵だね。でも、私はすぐにでもアルが欲しい。さっきの話ね。私起きていて、解ってやっていたよ?嫌いになる?」

「ならないよ。俺も・・・見えるのが解っていて、目をそらせばよかったけど、そらさなかった」

「うん。それで、アルの大きくなったよね」

「見ていたのかよ?」

「うん。嬉しかったから。そうならないとダメなのでしょ?」

「ダメじゃないと思うけど・・・それなら、そんな恥ずかしがり屋のエヴァに試してほしい物がある。やってくれるか?」

「もちろんだよ。旦那様?」

「嬉しいよ。可愛い俺の奥様」


 それから、エヴァに作った道具の説明をする。

 なんでそんな物を作ったのかとは聞かれなかった。いずれ話す事になるだろう。


「かして、試してみる!今丁度トイレに行きたいと思っていた所だから」


 遠慮が無くなったのかな?

 それとも、いろいろ話せて、安心したのか?


 例の道具を持って、トイレに入る。


「ねぇアル。どうやって使うの?」


 確かに、道具だけ持ってトイレに向かってしまった。

 使い方を説明する。場所の説明が難しかったが、なんとか解ってくれたようだ。


「うん。わかった」


 少しじゃなく、恥ずかしそうに返事をする。

 炎のカーテンを再度可動させている。


”ひゃん!”

”あぁぁーん”


 びっくりしてから、恥ずかしい声が聞こえてきた。

 その後、暫く”うぅ”や”あぁぁぁ”などと悩ましい声が聞こえてくる。


 トイレから飛び出してきた。明らかに下着は付けていない。さっきまで履いていたはずの俺の下着が、足元に落ちている。


「アル・・・これ・・・すごくいいよ。エッチなイレーネにプレゼントしよう。あと、ザシャとディアナとクリスにも・・・」

「わかった、使い方は、エヴァが説明してくれよな」

「うん。いいけど・・・」

「なに?アル。私の見たのだよね?」

「・・・うん。ごめん。でも、それは・・・ううんいいわけだよな」

「よろしい!今日から、お風呂は一緒に入る!異論は認めない。それから、寝る時はもっとくっつく。いいね」

「・・・わかりました。エヴァさんの背中を洗わせてもらいます」

「ダメです。私がアルの身体全部を洗います。これは決定事項です」

「エヴァ・・・我慢できなくなりそうだよ」


「・・・アルならいいよ。我慢しないで、ね。溜め込まないで、それで、婚姻を迫るような事はしないよ。だから、だから、お願い。アル。もう、自分ひとりで抱え込まないで、私が居る。私は、貴方を絶対に裏切らない。だから、だから、ね。お願い。死ぬつもりのような事は言わないで・・・お願い。私、気が狂いそうだよ。アルまで居なくなったら、私の責任で、アルが苦しんでいる・・・。私の、私では、満足・・・ううん。身体なんて、いらないかもしれない、でも、アル・・・私を許して・・・私は・・貴方を・・・失うのが・・・こ・・わ・・い」


 俺の首に手を回しながら、エヴァは寝てしまった。

 そっとキスをして、ベッドにつれていく、いろいろ限界だったのかもしれない。


 全部俺がはっきりしなかったからなのだろうな。

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