第四十三話 冒険者シンイチ・アル・マナベ

/*** シンイチ・アル・マナベ Side ***/


 エヴァが終始ごきげんなのは良かった。登録名でやってくれたけど、まぁ些細な問題だ。それに、家名が同じだから、兄妹という事にしてもいいかも知れない。別に、同じ家名だから・・・夫婦であるわけではない。よな。


 今日一日、エヴァと歩いてみたが、やはり、あの婆さん達の店は見つからなかった。

 メインの武器になってしまっている、刀の予備が欲しかった。ステータス袋が使えるようになって、荷物の心配が少なくなったので、武器になりそうな物を仕入れておきたかった。


「アル?ねぇ?」

「ん?どうした?」

「ねぇ・・・あそこ?」


 目に飛び込んできた斧は、古ぼけた看板の店だ。かろうじて、”武器/防具”と、読める。


「エヴァ!」

「あの時の店・・・だよね?」

「あぁそうだ。あれから、探したが見つからなかった・・・もしかしたら、エヴァと一緒じゃないと見つけられないのか?」

「え?それだったら、嬉しい!」

「検証は後だな。とりあえず、店に入るぞ!」

「はい。そう言えば、アル。金貨・・・は持っているのね?」


 エヴァの言う通り、ステータス袋に沢山とは言わないが、王都に屋敷が買えるくらいには持っている。


 ドアを開けて中に入る。

 間違いない。あの店だ!


「ようこそ「ようこそ」武器ガウクへ「防具ガウスへ」」


「おやおや」「珍しい。珍しい。二度目。二度目」


「ご婦人。俺たちの事を覚えていたのですか?」

「覚えていた?」「うんうん。3日前の事。忘れない。忘れない」


 ん?3日前?3年前の間違いじゃないのか?

 まぁいい。老人特有のことだろう。


「ご婦人。この前買ったような、剣はもう無いのですか?」

「うーん」「あるぞ!」

「あぁ有ったな」「うんうん」


 店の奥から持ってきたのは、大太刀に分類される物だ。

 180cmくらいだろうか?かろうじて、背負える。


「抜いてみても?」

「出来るならいいぞ」「やってみ。やってみ」


「アル?大丈夫?」

「どうかな?」


 背中に背負った状態から、抜刀する。思った以上に軽い。何らかの魔法武器になっているのだろう。手にしっくりと来る。両手で扱う必要があるが、これはいい・・・なんと行っても、厨二心をくすぐる。


「ご婦人。これは?」

「金貨13枚じゃ」「13枚!」


 130万。買えない金額じゃない。


「わかりました。他にも、ガウス殿。魔法防具はありませんか?彼女は、聖魔法を使うので、阻害しないような防具があると嬉しいのですが?」

「アル・・・私は・・・」

「3年後から、取り立てに来るのだろう?その時に、また、ここで防具が買えるとは限らないしな」

「でも・・・その・・・3年間で・・・」


「お嬢ちゃん」「お嬢ちゃん。大丈夫じゃよ。成長しても、魔法防具なら自然と身体に合うのじゃよ」

「合う。合う」「お嬢ちゃんには、これがいいかの?」

「いい。いい」「魔法金属の糸で編まれたローブじゃよ」

「中は、裸。裸」「中は、レザーアーマを持ってくるから待っておれ」


「あっはい」


 上から下まで一式持ってきてくれた。


「ガウク殿。彼女用の武器は何がいいでしょうか?」

「ん?武器?」「武器?」

「いろいろ試したほうが良いぞ。後方支援じゃろうから、弓とロッドでよいじゃろ?」「試す。試す」


 ご婦人二人で、エヴァを店の奥に連れて行った。

 何やら声が聞こえる。下着姿にされて、着替えさせられているようだ。


 二人の老婆が急に俺に駆け寄ってきた。


「お主。お主」「お前、お前」

「はい?」

「嫁は、ステータス袋が使える?お主は?」「使えるのか?嫁は?」


 嫁?エヴァの事か?訂正するのも面倒だ


「ステータス袋?使えますよ?」


 そう言って、前に買った刀を取り出す。


「おぉぉ!」「おぉぉぉ!!」


「どうされたのですか?」

「アル・・・どうしよう・・・」


 エヴァが店の奥から出てくる。

 いろんな物を手に持っている。


「お主。お主。お主なら全部持てるか?」


 エヴァとご婦人の話を総合すると、全部がステータス袋に入るのか聞かれているという事になる。


「やってみますね」


 店の奥から持ってくる物を、順次、ステータス袋に入れていく、武器や防具だけではなく、アクセサリーというべきものなのか、イヤリング形式になっている物もある


「これで、最後!」「おぉぉぉ最後。最後!」


 最後は、なにかわからない鍵だ。

 もちろん、ステータス袋に収まる。ギリギリだったかも知れない。弓矢などの消耗品を除いて、同じ物が無いのが原因だ。


「ご婦人?」

「すまん。すまん。やっとじゃ。やっとじゃ」「あぁやっとだな。やっとだな」

「えぇ・・・と、アリーダ様の下に・・・」「アリーダ様の下に・・・」


 アリーダ?

 ちょっと待て!


「エヴァ!」


 とっさに、エヴァを抱き寄せる。

 辺りを光が包み込む。


『そうじゃ代金をもらうのを忘れた』『忘れた』

「え?」

『金貨で、35、000枚』『いいや、37、840枚』

「は?」


 37億8400万?

 ふざけるなよ。でも、機会があれば、耳揃えてお支払いいたしますよ。


『いい。ツケじゃツケ!』『払え、払え』


 自分達から押し付けておいて、払えとか・・・まぁいいでしょう。払いますよ。

 そして、いろいろありがとうございます。

 ご婦人たちから買った刀がなかったら、何もできなかったでしょう。あの時にも、エヴァを守れたのは、刀のおかげです。本当にありがとうございます。


 光が弱まってくる。

 辺りを見回すと、店が有った場所のようだ。あの店は何だったのだろう?


「・・・アル?」

「ん?」

「・・・はずかしい・・・のですが・・・いやでは・・・こういうのは・・・ふたりだけのときに・・・おねがいします」


 あ?

 いい匂い・・・あっエヴァを抱きしめたままだ。それも、大通りの真ん中で、皆がこっちを見ているのが解る。


「あっごめん」

「いえ、いいです。それよりも・・・どういうことでしょか?」

「・・・エヴァは、なにか聞いたことはないか?」

「いえ?」

「そうだな。それよりも、寮に戻ろう」


 周りの視線が少し痛い。”リア充爆発しろ”とでも思われているのだろう。

 確かに、エヴァは稀に見る美少女だ。それに、今、魔法のローブを羽織っている。このローブが漆黒なので、余計にエヴァの白い肌を強調させる結果になっている。長い金髪も余計に目立つ。レザーアーマーと言っていたが、どうやったら、そんなに身体にフィットするのかと聞きたくなるような物で、これも漆黒と表現するのにふさわしい物だ。下がスカートではななくズボンなのは少し残念だが、防御力と視線を隠す意味では、ちょうどいいのかも知れない。


「はい!」


 可愛くうなずかれてしまった。

 ユリアンネと歩く時の癖で、手を出してしまった。


 引っ込めようかと思った時には、既に、エヴァに手を握られてしまった。

 そのまま寮までなんとも言えない雰囲気のまま歩く羽目になった。


 寮が見えてきたら、どちらかわからないが、手を離した。


「エヴァ?」

「はひ?」


 なにやら残念そうにしているのが気になるが確認しないとならない事がある。


「ステータス袋の中はどうなっている?」

「え?あっそうだ!どうしましょう?」


「確認してみてくれ?夢だったと言われても、俺は驚かない」

「そうですね」


 俺も、ステータス袋の確認を行う。

 確認と言っても、ステータスシートをフリックして確認していくだけだ。


 5枚のステータスシートで、3枚がアイテムで埋まっている。


「アル?」

「どうした?」

「ステータス袋がいっぱいです。どうしましょう?」

「まだ、寮に帰れば、ユリウス達が居るだろう?奴らに少し押し付けよう。でも、エヴァ。服は先に着替えたほうがいいぞ・・・似合っているけど・・・その・・・な」

「え?」


 エヴァは自分の格好を眺めた。

 胸が強調されている事に気がついて、顔を真赤にしてしまった。


「アル・・・バカ」

「バカって・・・エヴァ」

「なに?」


 睨まれてしまった。

 しょうがない。俺は、上着を脱いで、エヴァにわたす。


「エヴァ。さすがに、着替えるのは難しいだろうから、ローブの中にそれを羽織ればいい。そうしたら、わからなくなるだろう?」

「え?いいの?」

「あぁ俺は、なにか適当に・・・あぁちょうどいいのがあった」


 漆黒のサーコートだ。

 これを上に羽織っていればおかしくない。


「どうだ?」

「・・・似合っている」

「ありがとう。そうか、こうやって見ると、おそろいの装備に見えるな・・・ちょっとまってね」

「おそろい・・・アルとおそろい!・・・え?あっうん?」


 たしか有ったような気がしたのだけどな。

 有った!有った!


 黒檀のような綺麗な木目の杖が有ったように思えた。

 持ってみると、魔法銀でコーティングされているのか?芯はオリハルコン?わからんけど、魔法の発動媒体としては最高品質っぽいな。宝玉も、各種付いている。真ん中に大きな物が聖魔法用なのだろうか?

 エヴァにぴったりだな。


 ん?オーナー登録?


 まずは、エヴァに持ってもらって


「エヴァこの杖持って」

「え?はい」

「そうしたら、杖に魔力を流し込んでみて?」

「はい?え?え?オーナー登録?」


「できたみたいだね。俺が持った時に、頭の中で、最初に流した人の魔力を登録して、登録者以外には使えなくなるらしいぞ」

「え?それって・・・聖杖?え?え?」


 何やらパニックになっている。

 どうやら、俺が約38億で買わされた武器や防具は、一部を除いてオーナー登録が必要な物らしい。


 ユリウス達に渡すには丁度いいか?

 考えてもわからんから、クリスに相談だな


「エヴァ・・・・いつまでも、呆けていないで帰ってご飯にしよう」

「え?だって、聖杖ですよ?それをこんな簡単に・・・私が使って・・・って、もう私が登録しちゃったから・・・え?」


 なにやら、プチパニックになっているエヴァの手を取って、寮に入る。


 思っていた通り、クリスとイレーネとザシャから、質問攻めにあう。エヴァ。


 俺は、女性陣から、クリスを呼びつけて、ユリウスと、ギルに今日あった事を話す。主に、武器/防具屋の事だけだ。それ以外は、話さない。面倒な事になるのは目に見えている。


「アル。その話は・・・本当なのだろうな。目の前に出された物が証拠だからな」

「あぁそれで、クリス。これはどうすべきだと思う?」

「そうですわね。個人的には、アクセサリーは数点ほしいのですが、武器や防具はやめておきますわ。目立ちすぎます」

「そうだな。俺もやめておこう。必要になった時に、改めてお願いする」


 クリスには、後で、イレーネ達と一緒にアクセサリーを見てもらう事にした。

 ギルとクリスがいう、”目立ちすぎる”も解る。この武器や防具を狙って賊が押し入っても不思議じゃない。

 そうなると、領地経営する者たちには不要な物だな。やっぱり、俺が持っているのがいいだろうか?


 完全に、宝飾メインになっている武器や防具は、ライムバッハ家に持って帰ってもらおう。

 父上や母上の墓所の埋葬品にしてもいいかも知れない。将来、カールが使うかも知れないからな。


「それでな。アル。1つ聞きたい事がある」


 ギルが、真剣な表情で俺に問いかけた


「昨日。エヴァと一緒に寝たと言うの本当か?」

「え?はぁ?なんで?おまえが?」


 クリスを見るが、ニヤニヤ笑っている。

 エヴァはダメだ捕まっている。


 夫人が居た。

 あの人か!外堀だけじゃなくて、内堀まで埋めるつもりか?


「アル。俺とギルが、昨日、お前とエヴァがなかなか帰ってこないから、探しに行ったら、夫人が”お二人ともお休みです”と教えてもらったと、みんなに話しただけだぞ」


 お前か!

 しょうがない。事実だけを伝えようかと思ったが、エヴァが涙目になって、こっちを見て、首を振っている。内緒にしてほしいようだ。


 解った、日本の伝統にある。最高の言葉を使おう。


「記憶にございません!」


 何を聞かれても話さない!


 キャンキャン言っているユリウスとギル。それを見ながら微笑んでいる。クリス。

 エヴァを問い詰めている、イレーネとザシャとディアナ。なんか、前に戻ったみたいだ。ラウラとカウラが居ないのが嘘のようだ。


「はい。はい。ユリウス様も、ギルベルト様も、この辺りで終わりにしましょう。アルノルト様。先程のお話にあった、アクセサリーを見せて頂けませんか?イレーネもザシャもディアナも見るでしょ?エヴァンジェリーナ様もご一緒してくださいね。あっアルノルト様。ラウラとカウラとユリアンネ様の分は先に避けておいてくださいね」

「わかった。でも、クリス。できたら、ユリアンネとラウラとカウラの分は、みんなで選んでくないか?俺は、もっと違う物を、アイツラに渡すからな」

「・・・わかりましたわ。いいですわよね。皆さん。気合を入れて選びますわよ!!」


 約38億の中からアクセサリーだと思われる物を数百点取り出す。

 すべてが魔法素材が使われていると、ザシャとディアナが唸っていた。これだけで、金貨2万枚と言われても納得すると言っていた。


 謎だらけだったけど、かなり安く売ってくれたのだろう。


 でも、これで、冒険者として、俺が考える最低限の装備が整った。


 ユリウスから、近日中に、カールと4人と共に、ライムバッハ領に赴く事になると言っている。


 おれは、王都でのやることを終えてから、エヴァと向かう事にした。エヴァは、俺のやる事を手伝ってくれる事になった。クリスからの提案だから、断る事ができなかった。

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