第十四話 入学試験

 結論を言おう、意気込んでライムバッハ家を後にしたが、その緊張が持続したのが、最初の街までは3日間。

 途中馬車で休む事もあったが、なんのイベントも無く出来た時間で、二人に算数を教えていた。

 異世界転生者でよくあるお約束にも出会えていない。魔物に襲われている馬車を助けたら、それが皇女だったりする事もなく、野盗に襲われている行商人を助けるイベントもなく進んだ。


 俺としてやる事はほとんどない状態が続いていた。

 ただ違うのは、休憩場所で、魔法の訓練が出来た事だ。

 父の配慮だろうか、護衛の中に、火/地/木/水/風の加護を持つ人達が入っていた。それとなく話を聞くと、基礎魔法なら教えてくれると言ってくれた。

 休憩の度に悪いとは思ったが好奇心には勝てなくて、基礎魔法を教えてもらった。

 そもそも、俺が買った書籍には載っていなかった。それを護衛に聞くと笑いながら、街で売っているような書籍に攻撃魔法は載っていないと、言っていた。書籍に乗っているのは、生活魔法に加護を加えるような物でしかない。それで不思議に思っていた事が判明した。5歳の少年が、お金を持っているからと言って、魔法の書が手に入るのに違和感を覚えていた。そもそも、伯爵家とはいえ子供の小遣い程度で買えるのも不思議に思っていた。しかし、魔法の基礎を学べたと思えば、結果的に良かったのかもしれない。

 護衛の人たちからも、基礎が出来ているというお墨付きを貰った。

 攻撃魔法の基本は、ボール状にして飛ばすような感じでの攻撃となる。俗に言う”ファイアボール”だ。それから、上位精霊の事も教えてもらった、

 地は鋼になり、火は炎になり、水は氷になり、木は緑となり、風は雷となる。ただ、それらの精霊の加護を得るのは殆ど無いのだと言っていた。また、上位精霊の加護が無くても、上位魔法でそれらの力を行使出来る状態にはなるのだという。


 基礎魔法以外にも使い勝手が良い魔法を教えてもらった。

 地の魔法は、地面に関する魔法ではなく、”土”を操る魔法で、訓練次第ではいろんな物を作れるようになるのだと言っていた。見せてもらった魔法は、穴を掘る魔法や、土を選り分ける魔法。粘土質の土を使って壁を作る魔法だ。鋼になると、”鉱石”を材料として使う事が出来るようになるのだと言っていた。風魔法で、身体のゴミや汚れを落とす魔法も教えてもらった。

 木の魔法は、草木を操る魔法だ。地の魔法と同じで、草木を材料にした加工が出来る魔法だ。緑になると草木の成長や品種改良が出来るようになるのだと言っていた。


 休憩時に魔法の練習をして、移動時には二人に四則演算を教える日々を過ごしていた。

「アル様。この街を出たら、次が王都です」

「そうか。ラウラは王都に来たことがあるの?」

「いえ、さっき護衛の方が話していたのを聞きました」

「楽しみだね」

「はい。アル様」

「何?」

「いえ、なんでもありません。もうすぐ出発だと思います。準備をしてきます」

「うん。ムリしないでね」

「はい」


 まだ俺たちはお客様なのだから無理に働こうとしなくていい・・・・と、思うのだけれど。それに年齢的にもまだまだ保護されるべき年齢なのだろうと思う。

 街を通る時に、頼まれて一緒に移動している、商隊や子供たちも居る。その関係で移動速度が遅くなってしまっているが、それでも当初の予定寄りは、若干早くつきそうだと言っていた。予想していた、襲撃がなかった事が大きい。あと、天候の大きな崩れもなく進む事が出来ている。


「アル様。出発していいかって隊長が聞いているよ」

「カウラ。ありがとう。大丈夫だよ」

「はぁーい。順調に行けば、3日程度で王都に着くらしいですよ」

「わかった。隊長に、”焦らなくてもいい”と伝えて」

「かしこまりましにゃ」


 カウラは大分慣れてきたのか、砕けた話し方になっている。

 カウラとラウラが戻ってきた。

 二人が所定に位置に座ると、馬車が動き始めた。それから、今までと同じで四則演算を教えて、魔法に関して解った事を話し合った。


 最後の野営地を出て、今日の昼には王都デルフォイに到着する。1ヶ月あまりの旅程で慣れたはいえ、野営では疲れが取れない。

 子供の身体だと疲れないかと思ったがそういうわけにもいかないようで、やはり疲れが溜まってしまっている。


「坊っちゃん。王都デルフォイに着きまっせ。中に入れば、あっし達の役目は終わりでっせ」

「うん。ありがとう。あっ荷物で日持ちしない物は皆さんで分けてください。僕達は、試験日まで宿に泊まるので、大丈夫です」

「おい。聞いたか?荷物を分配してくださるってよ。お前ら、ご子息に礼を言っておけよ」

「「「ありがとうやした」」」


 旅程で大分性格を把握できている。

 どうせ僕達が持っていっても売るしかないし、今はお金に困っているわけではない。何かの時の伝手になれば安いものだ。

 隊長達に別れを告げて、二人を連れて、父から指定された宿に向かう事にした。


「アル様。私達は、別にアル様と同じで無くても・・・」

「何度も言ったよね。一緒の宿にするってね。それに、従者が近くに居ないでどうするの?困るでしょ」

「そうですが・・・」「ラウラ姉は、細かい事気にしすぎにゃ。アル様がそれでいいと言っているのだから、一緒の宿にするにゃ」


 カウラは、ラウラの事を”姉”と読んでいる。実際には、カウラの方が年上なのだが、カウラの中では、俺が一番上で、次がラウラで自分は末っ子だという認識らしい。

 獣人によくあることだと言っていた。


 そんな話をしながら、大通りを歩いて、父に指定された宿屋に着いた。

 高級宿屋というわけではなく、一般的な宿屋だったのが幸いだった。ラウラもここなら問題ないという事になった。カウンターに居る人に、ライムバッハの家紋が入った書類を手渡すと、奥から一人の女性が呼ばれて出てきた。


「はい。アルノルト様ですよね。話は、ルグリタから聞いています」

「ルグリタ?」

「お聞きになっていませんか?私は、ルグリタの姉で、ロミルダともうします」

「え?そうなのですか?」

「本当に、アルノルト様は聡明なのですね。宿は、合格発表まででよろしいのですか?」

「うん。寮に入る予定だから、寮に入るまでお願いします」

「解りました。同じ部屋でよろしいのですか?」

「うん。それでお願いします」

「待ってください。アル様。私とカウラが同じお部屋に泊まるわけには・・・」

「ラウラ。俺がいいって言っている。ロミルダさん。大丈夫ですよね?」

「はい。3人部屋もあります。2階の一番奥の部屋をお使いください」

「うん。ありがとう」


 荷物を持って、二階にあがっていく。

 部屋に入って一息着いてから、すこし早めの夕飯にする事になった。

 時計がある生活ではないが、感覚的に15時か16時位にはなっていると思う。


 予想以上に早く着いてしまったので、試験日まで1週間位時間がある。勉強が出来ると思えばいいが、出来た時間で王都を見て回ろうと思う。

 ロミルダさんに話をしたら、案内してくれる事になった。二日勉強して一日観光を2回行って、試験前日は、昼過ぎまで勉強をして、明日に備えて休む事になった。


「アル様」

「どうしたの?ラウラ」

「ロミルダさんに聞いたら、試験で最優秀だった人は、入学式で代表して壇上に上がるらしいですよ。間違いなくアル様でしょう」

「え?ラウラ。それ本当?」

「はい。毎年の事らしいですよ」

「そうか・・・」


 目立ちたくないのだけどな。

 それでなくても、ラウラとカウラは可愛い。俺も、ひと目を引く容姿らしい。そのことから、そんな俺達が成績優秀者となったら、間違いなく嫉妬されるし、面倒な事に巻き込まれるかもしれない。


「ラウラ。カウラ。明日の試験だけど・・・。あぁカウラは大丈夫かな。ラウラ」

「はい。なんでしょうか?」「酷いにゃ。僕も話を聞かせて欲しいにゃ」

「そうだな。ラウラ。カウラ。奨学金は欲しいけど、最優秀者にはなりたくない。でも、寮の部屋は選びたい。これは解るな」

「え?最優秀者にならないのですか?」

「うん。面倒事は避けたい」

「そうですか・・・。それで、私達はどうしたらいいのですか?」

「う~ん。俺は、計算の問題をすこしだけ間違えるつもりで居るよ」


「そうなのですか?」

「なんでにゃアル様が一番取ればいいにゃ」

「カウラ。アル様には、アル様の考えがあるのですよ」


「ごめんね。カウラ。俺はなるべく目立たない方法を取りたいと考えている」

「う~ん。わかったにゃ。それで、アル様、僕達はどうしたらいいにゃ」

「ラウラ。自信は?」

「そうですね。文字の読み書きは大丈夫だと思います。計算も、私もカウラも問題はないと思います」

「そうか、それなら、計算問題の最初と最後の問題だけ間違えるようにするか?」

「え?あっはい。解りました。カウラもいいですね。」

「了解にゃ!」

「カウラ。他の問題は間違えない様にしなさいね」「酷いにゃラウラ姉。僕、アル様の勉強でも間違えないにゃ」


 確かに、足し算や引き算なら二人はほぼ間違えない。正答率が99%以上だと言っても問題ない。今は、掛け算と割り算を覚えさせている。小数点や分数はまだ理解が出来ていないようだが、ラウラは覚えつつある。カウラも、分数と小数点は苦手だが図形の問題や面積の出し方は得意なようだ。

 二人共、他の生徒の事は解らないが、ルグリタが二人に持たせた問題集から考えれば、ほぼ満点に近い点数が取れるだろう。ルグリタの話では、半分以上取れれば優秀だという事だ。ただ、王家や伯爵家の子息が居ると、満点での合格も珍しくないという。満点合格は注目を浴びるだろうけど、そうじゃなくてトップになってしまったら、諦める事にしよう。


「ラウラ。カウラ。それじゃ明日の試験は頑張ろうな」

「はい」「はいにゃ」


 そのまま灯りを消した。


 試験なんて何十年前に受けたっきりだったが、それほど緊張する事もなかった。

 学園の試験会場になっている場所に受付があり、受付で、それぞれ名前を告げて、父から持たされた書状を受付に渡す。

 その後、置かれている魔道具に手を翳す事で、受験が可能になるのだと言っていた。

 これで、個人識別が出来るようになるのだと説明された。

 それぞれバラバラの場所で受験を受ける事になる。


 ステータスプレートが使えるようになっている事を申告すると、午前中は皆と同時にテストを受けて、午後にはそのまま魔法の適正を見る事になった。

 試験には、魔法は関係ないが、やはり適正がある方が優遇されるのだと言っていた。まだ、ステータスプレートが使えない者は、午後に神殿に赴いて加護をもらうのだと説明された。


 俺たち3人は、すでにステータスプレートが使える事もあり、午後は魔法適正を見せる”面接”の様な事を行うという。


「ラウラ。カウラ。無理しないで頑張ろう」

「はい」「はいにゃ」


 二人と別れた俺は、指定された試験会場に向かった。

 30人位が座れる状態の席は、6割位埋まっている。

 何人位受験するのか解らないが、3つの部屋で別れているのだとしたら、100人を切る位の人数なのだろう。


 部屋に入って、指定された番号の席を探す事にした。

 びっくりした事に、番号がランダムに置かれている。並べろよなと思ったが、カンニング防止なのだろうか?

 これが、この世界のやり方なのだろうと割り切って席を探す事にした。

 空いている席を順番に見ながら歩いていると、後ろの席で何やら揉め事が発生しているようだ。

 できれば関わりたくなかったが、こういう時のお約束なのか、俺の席は”その揉め事”の前の席になっていた。天を仰ぎたい気分だ。


「あのぉこの席。私の席なのですけどぉ」


 すこし間の抜けた様な喋り方をする女の子と


「この子爵の後継ぎである俺が間違えるはずがない。おまえ数字が読めないのか?」


 あ・・・確実に面倒な感じだ。

 失敗した。時間ギリギリまで外にいればよかった。


 やはりというか、女の子と目が合った。助けを求められているのは解るが、子爵家の後継ぎを自称している馬鹿とはなるべく関わりたくない。

 近くの奴らも同じように思っているのか目線を合わせないようにしている。


「あのぉちょといいですかぁ?」


 手遅れだった。

 女の子が俺に話しかけてきた。もしかしたら、今後、6年間付き合う事になるのに、無視は出来ないだろう。


「はい。何でしょうか?」

「あっ私、イレーネ・フォン・モルトケといいますぅ父は男爵をしていますぅ」

「あっ俺は、アルノルト。アルノルト・マナベといいます。」

「丁寧にありがとうございますぅ。それでですねぇこの番号の席は、”ここ”ですよねぇ?」


 子爵のご子息がおすわりになっている席を指差しながら、イレーネ嬢は訴えた。

 確かに、持っている番号の札は、”16”番で座席の番号も”16”番だ。上下を間違えないように、印もついている。受付で説明されている通りだ。


「あっそうだと思いますが・・・」


 言ってしまった。確実に面倒な事になる。


「なんだと、貴様。俺が間違えていると言うのか?子爵家後継ぎの俺が男爵や平民に間違いを指摘されなければならないのか?」

「子爵様。貴方の番号は何番なのですか?」

「俺か?俺はこの席だ。」


 あっ自分の間違いには気がついているけど、指摘されて引くに引けない状況になってしまっているのだろう。

 試験時間も近づいてきているし、試験管も来るだろうし、そうしたら、妥協案が出されるか、修正対応してくれるだろう。


「イレーネ様。貴方の番号は、”16”で間違いないのですよね?」

「はいぃそうですぅ」


 子爵家の後継ぎが間違えるとしたら、91なのだろうか?

 そんな大きな番号・・・あぁあるよ。斜め前方に・・・。


「イレーネ様。取り敢えず、その”91”番の席に座られたらどうですか?もうすぐ試験も始まる時間ですし、試験管が来たら聞いたら良いと思いますよ」

「・・・そうですねぇありがとうございますぅ。アルノルト殿」

「フォンの称号もない者ですので、”アル”とお呼びください」

「そうですかぁ?解りました。アル君。ありがとうぉ」


 暫くしてから、試験管が部屋に入ってきた。イレーネは、試験管に席がなかった事を、話している。

 試験管は、持っていた座席表を見ながら、なにやら考えている。面倒事を割ける方向で考えたようだ。

 そのまま、試験は続行する事になったようだ。

 試験管は、イレーネと何やら話をして、時折、俺の方を見ながら話をしている。

 なにやら嫌な予感しかしなかった。こういう時の”嫌な予感”は、大抵最悪な形で当る事が多い。


 試験は、文字通り”簡単”だった。

 2桁の足し算と引き算。お金の計算。文字に関しては、自分の名前と国の名前。後は、挨拶や物の名前を書く。

 これで間違えろという方が難しい。時間を大幅に残して全問埋めた。

 後ろの子爵様は、ブツブツとうるさい。


 計算問題を”記憶”しているようで、一つ一つ口に出して書いている。足し算は、それでなんとかなったようだが、引き算が全然出来ていない。書いた答えも口に出しているから、解ってしまうが、半分くらい間違っている。時間を目一杯使って、なんとか全問埋めたようだ。正答率は、ルグリタが言っていたように半分位だろう。


 午前中の試験を終えて、次の会場に指定された場所に向かっていると、後ろから先程の試験管が近づいてきた。

「君。アルノルト君」


 あ・・・やはりな。


「あっはい。何でしょうか?」

「君は今から」

「あっ魔法適正を受けに行きます」

「そうか、それなら案内してあげるから、すこしだけ話していい?」

「あっはい。それで何でしょうか?」

「あっうん。あぁ僕は、クヌートって言うのだけど、この学校で基礎魔法を教えています」

「アルノルト・マナベといいます。よろしくお願いします」

「うん。それで、試験前の事だけど、なんで君は、イレーネ嬢を”91”番の席に座らせたの?」

「あの席が適当だと考えたからですが、ダメでしたか?」

「いや、合っているよ。リーヌス君。あぁルットマン子爵のご子息何だけどね。彼の席が91番なのは間違いない。それを君は知っていたのか?」

「え?そんな事考えれば解ると思いますが・・・」

「うん。それを君に聞いているのだけれどね」

「あ、そういう事ですね。イレーネ嬢が持っていた番号は、”16”番だと聞いたので、そこに間違えて座っているのなら、番号を逆さに見た”91”番だと考えただけですよ。それに、彼・・・。ルットマン子爵のご子息も自分の間違いには、気がついていらっしゃるようでしたので、丸く治めるには、イレーネ嬢を”91”番に座らせるのが良いと考えたのです」


 何やら考え込んでいる様だ。

 6歳時の思考ではなかったのかも知れないが、やってしまった事はしょうがない。


「アルノルト君と言ったかな」

「あっはい」

「そこが、魔法適正の会場だよ。話ありがとう。参考になったよ」

「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」


 クヌート先生に一礼して部屋に入る。

 そこには、20名ほどが集まっていた。ラウラとカウラの姿もあった。

 二人も、俺が部屋に入ってきたのが解って、すぐに駆け寄ってきた。

「アル様」「アル兄」

「二人共、どうだった?」

「はい。私は大丈夫です」「僕もにゃ簡単だったにゃ」

「そうか、それなら大丈夫だな」


 中に居る者達も数名のグループでまとまっている。

 やはり貴族や豪商の子供なのだろうか、一人を中心に話をしている。

 しばらくすると、2名の大人が入ってきて、これから行う魔法適正の方法を説明してくれた。


 一人ずつ別部屋に入って、そこで面接官に言われた魔法を唱えると言うものだ。

 魔法は発動しなくてもよいと言われた。

 魔道具を持ちながら実行する事で、魔道具に魔法力が表示されると説明された。これで適正が解るのだと言っている。

 かなりヤバそうな臭いがするが、次の一言で安心する事にした。

 『この試験の結果は、本人だけに提示することになる。学校側には、魔法力が10段階で解るようになっている』らしい。

 ようするに、各適性や適正値は本人にだけしか提示されなくて、魔法力は何らかの指標で10段階になっていて、それが学校側に提示される情報になるのだと言うことだ。

 それなら、ごまかしようがあるだろう。


 半分くらいが中に入っていった後で、俺の番号が呼ばれて中に入ると、先程の先生が座っていた。

 言われた場所に座って、書かれている魔法を唱える。数回、それを繰り返して、終わりになった。

 出口まで行くと、別の先生が

「アルノルト・マナベ君。君は、10段階で最高の10に該当する」

「あ。ありがとうございます」

「それから、魔法適正に関しては、ステータスプレートに出されるので自分で確認しておくように」

「わかりました」

「これで、試験は終わりです。結果発表は3日後になります」

「わかりました。ありがとうございます」


 そのまま宿屋に向かう。

 ラウラとカウラにもそうするように言ってある。

 宿屋で待っていると、ラウラとカウラも帰ってきた。

 両者とも、魔法力は10段階で7という高レベルだったようだ。


 話を聞く限り、試験は大丈夫だという結論になった。

 3日後に結果がでるという事なので、残った時間で王都見学をする事にした。あと、ライムバッハ家に手紙を出す事にした。ラウラは、合格発表の時にと言っているが、第一報を打っておくのも必要な事だろう。


 それから、3日後に、学校で合格発表を見に行った。

 成績順になっているという事だ。


 俺とラウラとカウラは無事合格して奨学金を得る事が出来た。

 順位だが、俺が4位でラウラとカウラは6位と7位だ。そして、驚いたのが、5位になったのが、イレーネ・フォン・モルトケだった。

 周りの受験生の話を総合すると、一位は、皇太孫だという事だ。二位は、チェルハ辺境伯の孫だという事だ。3位は、皇太孫のお付きの者らしい。

 俺だけが、平民の名前で受けているので、どこかの商人の息子ではないかと言われているが、素性までは行き着いていないようだ。

 ラウラとカウラは、性が”マナベ”で俺と同じ為に、兄妹か関係者だと言われているようだ。

 最低限の目標が達成されてよかった。受付に寮の申請を出しに行った。

 そこで小さな問題が生じた。今年から男女合同の寮が廃止されるという事だ。俺としては、別々でも良かったが、ラウラがそこは頑として譲らない。


 すこし言い争いをしていると、クヌート先生が出てきて

「アルノルト君。それなら、僕の研究所に来ないかい?」

「え?研究所ってどういう事ですか?」


 先生が説明してくれた話では、学校にはいくつかの研究所が設置されているという事だ。認識的には、”部活”の様なものらしい。勉強以外を学ぶ場所になっているのだと言っていた。先生の研究所は”生活魔法”を研究している場所だという事だ。そこで、先生はいくつかの一軒家を持っているので、その一つに僕達3人に住まないかと勧めてくれた。


「すごくいい提案だと思うのですが、先生に何の利益もありませんよね?」

「ん?君ならそう考えると思っていましたが、僕にも下心はありますよ」

「え?」

「そんな、怖い顔しないで、別にアルノルト君やラウラ嬢やカウラ嬢を”手篭め”にしようなどとは考えていません」

「・・・」

「知っていましたか?君達3人は、試験の結果では、4/6/7番手ですが、魔法適正では、1/2/3番なのですよ。ようするに、僕は研究所に君達を向かい入れて確保したい。君達は、そのかわりに理想の住処を得る。双方に取って悪いことではないでしょ?」

「そうですね。悪い話ではないですね。それで、その”家”というのはどこに有るのですか?」

「君が申し出を受けてくれるのなら案内しますよ」


ラウラが、袖を引っ張って耳打ちしてくれた。


「アル様。先生の話ですが・・・」

「ラウラ。何か知っているの?」

「あっはい。学校の案内にも書かれていたのですが、幼年学校の時には、研究所は必須ではないのですが、中等部では必須になりますし、それ以降は研究所単位で試験があるそうです」

「へぇそうなんだ」

「はい。その為に、優秀な生徒の囲い込みに必死になっていると聞きました」

「へぇ」

「・・・アル様。自覚してください。アル様は優秀な人なのです」

「あっはい。ごめん」


先生に向き直って


「先生。幾つか質問いいですか?」

「いいですよ」

「先生の研究所は、今何人なのですか?」

「いませんよ」

「え?」

「去年。最後の二人が高等部を卒業してしまって、今は誰も居ません。したがって、研究所の”家”も誰も居ないので、気にしないでください」


 上級生が居ないというのは、勉強を教えてもらえないというデメリットがあるが、俺たちにはそれほど関係ない。


「わかりました。それで、先生の研究所は何をするのでしょうか?」

「そうですね。主に、生活に役立つ魔法の研究ですかね。時々、魔道具の解析や修理をやったりしていますよ。」


 それは魅力的だ。

 攻撃魔法よりも、生活魔法は地味だが、役立つ事が多い。それに、魔道具は失われた技術が使われている事も多く、解析出来たら、いろいろと勉強になるだろう。


「家の広さはどのくらいなのでしょうか?」

「う~ん。前に、12人で住んでいた事もある位の広さがあるよ」


 そんなに広いのか・・・・ライムバッハ家の屋敷よりもすこし小さいくらいだな。


「先生も住まわれるのですか?」

「ううん。僕は、学校に部屋があるからね。そっちで寝泊まりしているよ。家は、君達で自由に使ってね。あぁそれから、この話は、ライムバッハ卿にも話は通してあるよ」

「え?なぜ?」

「気にしないで、君達の事情は知っているからね。僕は、ライムバッハ卿の・・・あぁエルマール様の弟弟子になるのだよ」

「そうなのですか・・・。わかりました。お世話になります。それから、出来ましたら、その家に今後誰かを住まわせる事は、事前に知らせてもらえたらうれしいです」

「あぁそれも、君達の好きにしていいよ。研究所は、家一つじゃないからね。学校側には、アルノルト君が寮主となる事も合わせて伝えておきますね」

「わかりました。クヌート先生。よろしくお願いします」「よろしくお願いします」「よろしくにゃ」


 それから、先生に学校の敷地内にある”家”に案内された。家よりも驚いたのが、敷地だ。

 サッカーコート位の大きさの敷地が家の前にあり、裏に広がる森の殆どが、敷地だと説明された。魔法の練習なども自由にしてよいという事だ。

 家に入ると、ロミルダが居て、部屋の片付けや荷物の運搬が終わっているという事だ。

 最初から仕組まれていたようだ。受けるのが正解だったようですこしホッとした。


 足りない物を買いに行くことにした。

 資金は、領を出る時に渡された資金がまだ残っているので、それを使う事にした。


 掃除や準備が終わったのは、入学式の前々日だった。

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