第二百六十五話


 草原エルフは、現在の拠点を、別の場所に移動することが決定している。

 場所の選定も終わっている。


「カズトさん。どうして、場所を移すように言ったのですか?」


「ん?たいした理由は無いのだけどな・・・」


「??」


 シロが可愛く首を傾げる。


「草原エルフの場所をそのまま使うと、勘違いする奴が産まれると思う。だから、新しい場所にして、既得権益を持つ奴から剥がしてしまったほうがいいだろう」


「そうなのですか?」


 うまく行けばいい程度だけど、シロには言わなくてもいいだろう。

 エルフの奴らがどうなろうと気にはならないが、エクトルの主筋が治めることになったのだから、協力くらいはしてやろうとは思っている。


「草原エルフの奴らだけでは難しいだろうな」


「え?」


「すまん。草原エルフの奴らだけで、拠点を作るのは無理だろう・・・」


「そうですね」


 シロではなくステファナが答える。

 エルフという種族の問題だとは、考えたくはないが・・・。エルフは無駄にプライドが高いことだけは理解できた。


「旦那様」


 気配は感じていたが、モデストの移動が可能な範囲に、俺たちが入ったようだ。

 目の前に、モデストが現れた。


「なにか、問題か?」


「問題はでておりません。エクトルが従わせております」


 草原エルフでは、エクトルだけで十分従わせられるのだな。確かに、森エルフが出てきたら、エクトル一人では難しいのだろう。エクトルと同じ技量を持つものが、あと1-2名ほど・・・。無理だな。俺たちの仲間でも、エクトルと同じ技量を探すのは難しい。

 専門が違うと言えばそれまでだが、ヨーンやメーフェル辺りを連れてこないと、森エルフには対応は無理だろう。ルートたちを連れてきたら、なんとかなるだろうけど、ルートたちをエルフに渡すようなことになるのなら、俺はエルフを滅ぼす。


「力を示した意味が有ったようだな」


「はい。森エルフの一部が下ったのが大きかったようです」


 心を折れば対応も変わってくる。

 一人が従えば、なんとか対応ができる程度にはなると思っていたが、簡単だな。流れを作るだけで、それに従うのは、エルフも同じだということだな。プライドを持っているから、敵わないと思えば下ってくるのだろう。そのときに、一人では下れない。複数を伴うことで、小さなプライドを満たしているのだろう。


「そうか、それで、話は聞いていたと思うけど・・・」


 モデストなら、眷属から話を聞いていただろう。


 情報が大事だ。

 他の森やエルフたちが何を考えていたのか知りたい。あれだけ荒れ果てているのだ、なにか感じていたのだろう。


「はい。森の調査をしました」


「どうだった?」


「旦那様が気にしていらした通りの結果です」


 モデスト自身が見たわけではないだろうが、悲しそうな表情をするのは、実情は俺が思っていた以上に悪いのかもしれない。


「大型の獣や魔物が居なくなっている?」


「はい。それだけではなく、一部では、森の木々が枯れ始めているようです」


 木々が倒れ始めている?森が無くなり始めている?

 状況は、クレバス程度で、森が息を吹き返すレベルではなくなっている?


「既に末期症状だな。それで、森エルフたちはなにか手を加えているのか?」


「それが・・・」


 無策なのか・・・。

 まぁそうだろうな。森と共にあるとか言いながら、森の実りを搾取するだけだったのだな。


「無策か?」


「はい。それだけではなく、旦那様がチアル大陸から”呪い”を行っているのだと・・・」


「ははは。俺の手は長くなったものだな。くだらない」


 吐き捨てるように言ってしまったが、現状を招いたのは間違いなくエルフ族だ。森エルフだけの責任ではないだろう。


「それで、エクトルの姫を・・・」


「ん?ステファナは残さないぞ?」


「はい。ステファナ様を望んでいるわけではないのです」


「どうした?」


 エルフ族は、俺たちの斜め上の対応を言い出す。

 この状況を認識していなかっただけではなく、自分たちはうまくやっていると思っていたのだろう。


「我らの大陸に移住させたいと言い出していまして・・・」


「ん?エクトルが?」


「いえ・・・。テル・ハールが・・・」


「知らん。来たいのなら拒むようなことはしないが、そのときには、自分の力で来い。俺の庇護がもらえると思うな」


「はい。エクトルも同じように考えて、それでも引き下がらなかったために、怒りだして、テル・ハールを殴り殺しそうになりました。止めたのですが・・・。それなら、直接、旦那様に頼むと言い出して・・・」


「それで?」


「エクトルが、捕らえて牢に入れています。旦那様には、このまま港に向ってもらいたく・・・」


「俺は、問題はないけど、大丈夫なのか?」


「はい」


 ステファナとシロを見ると、頷いているので、二人も問題には思っていないようだ。


「わかった。港で待つ」


「はい。数日中にエクトルに任せられる状態にして、港に向かいます」


「ゆっくりでいいぞ。カイとウミもまだクレバスが心配な様子だからな」


「はい。あっ。もうしわけありません。報告を忘れていました」


「まだあるのか?」


「はい。森の異変ですが、港を使って、我が大陸との取引を行うようになってからです」


 ん?

 あぁそれで、俺が森をダメにしていると・・・。ん?ん?


「うーん。ルートに確認だしないと正確にはわからないけど、エルフの大陸から、それほど多くは購入していないよな?」


「はい。旦那様。輸入は、多くはないです」


「どういうことだ?」


「カズトさん。もしかしたら、チアル大陸を経由して、他の大陸に売っているのでは?多分、チアル大陸の各街では必要がないが、中央やそれこそアトフィア大陸ではエルフ大陸からの素材は高く売れます。もともと、流通量がすくなく、高価だったと記憶しています」


「そうか、三角貿易か!」


 シロとステファナも、モデストと同じで、三角貿易がわからないようだったので、簡単に三角貿易のメリットを伝えた。


「それなら、成り立ちますね。エルフ大陸は、チアル大陸の技術や物資が欲しい。しかし、チアル大陸が欲する物はエルフ大陸にはない。でも、エルフ大陸の物資は、中央大陸やアトフィア大陸では高値で売れる」


 ステファナがまとめるが、これではエルフ大陸の物資をチアル大陸の商人が買い叩いていることになってしまう。

 実際には、ルートに調査を依頼しなければわからない。実際に、エルフ大陸からは物資が外に出てしまっている。チアル大陸で売るために、物資を用意する。港にいる商人たちは、エルフたちに依頼をだして、エルフたちが欲しがる物を提供する。

 貿易の不均衡が発生している可能性もあるのか・・・。根っこは深いが、俺たちが口を出せる部分だとは思えない。


 話が面倒になってきた。

 不均衡貿易とか、考えるだけで面倒だ。


 そうか、関税か・・・。アトフィア大陸や中央大陸や、他の大陸では、関税を掛けているから、エルフ大陸の物資を持ち込むのなら、チアル大陸となるのだな。俺たちの大陸だけを考えるのなら、貿易の不均衡は放っておけばいい。困るのは、エルフ大陸だ。そして、苦しむのはエルフたちだ。


 頭をガシガシ掻いていると、シロが心配そうな表情で俺を見上げてくる。


 シロの頭を撫でながら、考えるが、いいアイディアが浮かんでこない。


 ダメだ。

 考えてもダメな物はダメだ。いっそのこと、港を潰してしまうか?


 ステファナやモデストの眷属の報告では、エルフ大陸には、他に港が作られそうな場所は存在しない。

 港を破壊するか、占拠してしまうか?


 港をそのまま使わせるよりも、港を管理下において、商人たちをチアル大陸に強制的に移動させるのがいいように思えてくる。


「カズトさん?」


 シロの頭を撫でながら考えていた。心配そうなシロの表情だが、俺が考えをまとめたと思ったのか、少しだけ明るい表情になる。


「モデスト!」


「はい」


「方針を決めた!」


 さて、占拠の理由を作らないとダメだけど、なんとかなるだろう。

 ただの新婚旅行なのだけど・・・。こう面倒事になるのは、俺が悪いのか?

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