第二百六十話


 エルフの結界を破壊した俺たちは、境界に向って歩き出す。


「そうだ。誰か、草原エルフの里に向って欲しい。今から追いかければ、追いつくだろう」


「それならば、私が」


 1人の眷属が俺の前に来て跪く。


「任せた、モデストかステファナに、そこで怯えている奴らのことを報告しろ、処置にこまるようならテル・ハールに丸投げしろと伝えてくれ」


「かしこまりました。こやつらの見張りは?」


「必要だと思うか?」


 檻の中で怯えている奴らを見る。

 逃げ出しても怖くはない。もし、なんとか逃げ出して、治療をして、腕や脚を繋げたとして、俺たちを次に狙ったら殺すだけだ。


「もうしわけございません」


 眷属も、解ったのだろう。固まって怯えている奴らを見てから、俺に頭を下げる。

 固まっている奴らも、ただ返り討ちにあうだけで、逃げ出すメリットが少なすぎる。


「それに、ステファナなら欠損も治せる可能性があるだろう?逃げても、俺は別に困らないからな。攻撃をくわえてきたら、今度は手加減をしないで、撃退するだけだ」


「はっ」


 眷属の姿が消えた。

 モデストの居場所は把握ができているのだろう、結界があるから一気に移動は出来ないだろうけど、結界に接触した時点でもですとなら把握ができるだろう。ステファナもいるので、大丈夫だろう。それに、草原エルフや森エルフの連中がどうなろうと、俺にはどうでもいいことだ。俺は、自分たちの大陸さえ守られれば、もっと言えば、家族と仲間が守られれば問題はない。


「シロ?」


「はい?」


「いや、なにか考えていたのか?」


「あっ・・・。カズトさん。エルフの里には、カイ兄さんのために行くのですか?」


「それもあるけど、今後のことを考えると面倒だから、上下関係をはっきりとしておいたほうがいいだろう?」


 俺の説明で、シロは納得してくれたようだ。

 別に、エルフ同士で潰し合おうと、新種に責められて滅びようと、自分たちの大陸に迷惑がかからなければ問題はない。ただ、新種がエルフの大陸で、繁殖または増殖してしまうと、交易路として使うことが難しくなってしまう。中央大陸は、まだ不確定要素が多すぎる。交易路として、安定できればいい。


 エルフの大陸を経由しないと次の大陸に逝くまでの補給が難しい。中央大陸を使えばいいのかもしれないが、陸路と海路を組み合わせるのは得策ではない。行商人が考えればいいことだが、問題になる要素は潰しておきたい。今は、まだ、大陸内部での需要を満たせていないために、他の大陸に持っていくものは嗜好品が多くなっているが、需要は頭打ちになるだろう。中央大陸への橋頭堡は完成したが、そこから他の大陸や街への提供は十分に構築されていない。

 エルフに期待していたが、商売相手として見ると下の下だ。


「旦那様!奥様!」


「ん?」「どうした?」


 シロが反応したが、まっすぐに俺の下に来た。シロには目礼で済ましたことから、緊急ではないが、早急に対処しなければならない案件なのだろう。


「はい。旦那様。草原エルフの集落を、モデスト様が掌握しました」


「は?」「え?モデストが?ステファナは?」


「ステファナ様は、村長の家を把握されています」


「聞き方が悪かった。どうして、集落を掌握する必要があった?」


 頭が痛くなった。

 眷属の説明の半分でも本当なら、エルフという種族は集落を作るのに適していない。


 契約とは言わないが、約束をした内容を守れない。守ろうとしない。自分がした約束でなければ、破っても問題はない。

 これでは、商取引を持ちかけるのは難しい。エルフにしか持っていない物が有ったとしても、気分でスキルレベルが変えられたら、予定も立てられない。


「それで?ステファナたちには怪我はないよな?」


「はい。我らに怪我を追った者は居ませんが・・・」


「どうした?」


「はい。草原エルフの集落が混乱した時に、森エルフに助けに出たはずの草原エルフの一部が沼エルフに捕まってしまって・・・」


「・・・。バカなのか?それで、モデストは?」


「はい。沼エルフを撃退しました」


「だろうな・・・。それだけでは終わらないのだろう?モデストが俺に指示を求めてきたということは・・・。そうか、草原エルフの一部が、沼エルフに攻めた・・・。なんてことはないよな?」


「・・・。旦那様」


「違ったか?」


「いえ、見てきたかのように・・・」


「嬉しくないが・・・。そうか、それで、最初は草原エルフの方が優勢だったけど、沼エルフに盛り返されて、草原エルフの連中は、ステファナに”治せ”と言ったり、モデストに”戦え”と言ったり、命令口調で”なにか”を、要求したのだろう?」


「はい」


 眷属が申し訳無さそうにしているが、眷属にもモデストにもステファナにも”非”はない。


「カズトさん?」


「なんとなく、エルフたちの行動原理が解ってきた。あぁそれで、モデストは?」


「はい。それで、私が、旦那様から指示をいただけないかと・・・」


「わかった、ステファナはどうしている?」


「はい。集落のトップを集めた場所に、居てもらっています。護衛は必要ないとおっしゃっていましたが、3名ほど護衛についています」


 話を横で聞いていたシロを見ると、何やら考えているようだ。シロに腹案があるようだ。


「そうか・・・。シロ。何か考えがあるのか?」


「カズトさん。草原エルフの一部は、モデストに協力的だと感じました」


「そうだな。エクトルたちの主は、話ができるようだったな」


「はい。エクトルは、主への忠誠が暴走した結果、カズトさんに敵対したので、今は、ステファナとモデストがその主たちの心をへし折っています」


「あぁ」


 シロが何を考えたのか、理解した。

 そうなると・・・。


「はい。カズトさんが、今から森エルフを躾に行くのと同時に、モデストたちが沼エルフに攻撃を仕掛けます」


「そうだな。その間にエクトルが草原エルフの一族で、反対派閥の奴らを始末すればいい」


「そうです。ご許可を頂ければ、レッチェをステファナに付けます。かなり安全になると思います」


「・・・。よし、基本方針は、今、シロが言った通りにしよう」


「よろしいのですか?」


「あぁどうせ、ここまで関わってしまったのだし、シロの提案が俺たちにとってメリットが大きそうだ」


「はい!」


 眷属に、シロが語った方針を伝える。

 タイミングは、問題にはならないだろうけど、草原エルフの敵対する派閥が少しでもダメージを得るように、時間を合わせよう。


「ウミ!」


『なに?』


「すまんな。カイは、落ち着いたか?」


『うん。もう、大丈夫。少しだけ落ち込んでいるけど、大丈夫だよ』


「そうか、カイとウミで、エルフの里を殲滅はできるだろうけど、殲滅よりも奴らの高いプライドを叩き折る」


『うん!』


「森が城壁の代わりだと思っているようだか、その森の一部を使えなくする」


『?』


「カイとウミで、エルフの里までまっすぐな道を作って欲しい。スキルで木々を吹き飛ばしてもいい」


『わかった!』


「あっウミ!途中に生物が居て、俺たちに友好的な者たちは殺すなよ」


『うん!』


 眷属が驚いた表情をしているが、カイとウミなら容易い。簡単にやってしまうだろう。


「モデストに、カイとウミが森エルフの里でスキルを使用したら、沼エルフに攻め込むように言ってくれ、それからエクトルにも粛清は派手にやるように言ってくれ」


「かしこまりました」


 眷属が、俺とシロの前から消える。


「カイ!ウミ!始めてくれ!途中で邪魔したエルフは殺せ」


 俺の宣言を聞いて、カイとウミは、一気に森に入っていく、悲鳴にも似た声が聞こえてくるが、スキルで道が作られていく、本来なら苦手な作業だがカイなら上手くできると思っていた。


「カズトさん?」


「あぁエルフに・・・。森エルフを躾に行こう。カイとウミにしたことを、ステファナに、ステファナの家族にしたことを、思い知らせるぞ」


「はい!」


 滅ぼすつもりはない。

 相手次第な部分はあるが、流れに任せるのがいいだろう。エルフに関しては、どうでもいいけど、ステファナやモデストたちの考えも有るだろう。それに、カイやウミの感情を優先したい。


 それが終わったら、我が家に帰ろう。

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