第二百四十八話


「シロ。そろそろ、帰るぞ」


「はい!」


 シロが俺の腕を取る。

 二人とも、靴を脱いで素足で、砂浜の感触を確かめながら出口に向かう。


 出口に近づいた時に、出口を監視している視線に気がついた。

 俺たちを狙っているのかわからないが、警戒シておく必要があるだろう。


「カズトさん!」


「3人か?スキルを使うか?」


「いえ。カズトさん。僕にやらせてもらえませんか?」


「久しぶりに動きたいのか?」


「それもありますが、僕も・・・」


「大丈夫だよ。シロ。シロは、俺の大切な人だ」


「・・・」


「そうだな。久しぶりに、二人で身体を動かすか?」


「はい!」


 砂浜から出ると、俺とシロを追うように、3人が移動し始める。俺たちがターゲットで間違いないようだ。

 素人なのか、気配が隠せていない。レベル6の”索敵”や”探索”を使う必要性も感じない。俺たちの間に人が入ると、慌てて間の人を追い越す。


「子供?」


「そうですね」


「物取りか?」


「その可能性が高いですね。襲撃者たちとは関係が無いようですね」


「それじゃ次の角だな」


「はい」


 シロと簡単な打ち合わせをして、腕を組んで歩いている。

 後ろから、3人が後を付けてきているのがわかる。


 角まで3メートル位に来た時に、シロが振り向いて、尾行してきている3人を視認する。

 3人がびっくりした瞬間に、俺とシロは走り出す。角を曲がったところで、待つと3人の子供が慌てて駆け寄ってきた。


「シロ!」


「はい」


 逃げ出そうとする。子どもたちの後ろにシロが回り込んだ。


「さて、なんで俺たちを付けてきた?」


「なんのことだよ!」


 先頭に居た男の子が俺を睨みながら虚勢を張る。


「そうか・・・」


 刀を抜いた、先頭の子供に剣先を向ける。


「シロ。逃げようとしたら、殺せ」


 冷たく言い放つことで、戦意を折る。

 膝を折ってくれたほうが俺としては嬉しい。敵対者を許すつもりはないが、しなくていい殺しは、シロにさせたくない。


「はい」


 シロは、俺の気持ちを知っているが、俺に危害を加えるものなら、親しい者でも切る覚悟を持っている。本当に、いい女だ。


 後ろに居て、シロの剣の攻撃範囲内に居る子供が、俺の前に居た子供を押しのけて、俺の前に出てくる。


「カズト・ツクモ様。剣を納めてください。私たちに、害意はありません」


「残念ながら、それは出来ない。なんの保証もない」


 刀を前に出てきた女の子の首筋に持っていく。


「なっ!その方が誰なのか、わかっているのか!?」


「知らないよ。ここで、俺がお前たちを殺しても、俺は付けられた者たちを殺したと言い張る」


「そんなことが、許されると思っているのか?」


「知らないよ。俺のことは知っているようだけど、俺は、お前たちを知らない。それに、俺はお前たちに、”俺たちを付けてきた”と聞いた時に、そこのガキは”なんのことだよ”と答えたが違うか?敵対しているよな?俺は、そう感じて自分とシロを守るために、お前たちを切り捨てる。何か間違っているか?」


 三人は黙ってしまった。

 自分たちの正義を疑っていない目をしていた。俺の正義をぶつけることで、自分の正義を疑っていない者ほど、他の価値観に触れた時にもろく崩れるのも早い。シロやフラビアたちがいい例だ。狂信的に、他人から言われた正義を信じている者ほど、やっかいな場合も多い。

 目の前に居る3人はどうやら、前者のようだ。


 俺の前まで来ていた女が、フードを取る。

 エルフ族だったか?刀が目の前にあるのに、豪胆だな。


 俺をまっすぐに見ている。


「剣を納めてください。お願いします」


「駄目だ。まず、お前たちは、俺とシロを知っているようだが、俺はお前たちを知らないし、目的もわからない。その状態で、敵対行動を取らない保証が何もない状況で、剣をひくわけが無いだろう?まず、お前がしなければならないのは、名乗りを上げて、俺とシロに謝罪したあとで、目的を話すことだ。俺が、全部聞いてやる義務もない。少しでも、怪しい行動や俺やシロが不審だと感じた時点で、お前たちの身体は頭の重さに耐える必要がなくなる。心して口を開け。これが最後の警告だ」


 シロも剣先を子どもたちに向ける。いつでも動けるような体制になっている。見えないように、スキルカードも手に持っている。ブラフだが、俺を知っているのなら、スキルカードを大量に保持しているのは知っているはずだ。その中には、レベル7”即死”のように”死”に直結するスキルカードを持っていると認識しているはずだ。それだけではなく、レベル6”石化”も持っていると公表している。抑止力としては十分な力を持っている。


「姫様!」


「いい。私たちが間違っている。カズト・ツクモ様。この様な事態になってしまってもうしわけありません。私は、”シ”族の族長の娘。ムーと言います」


「・・・」


 護衛の二人は、まだ納得できていないのか、俺を睨んでいるが、気にしないようにする。


「カズト・ツクモ様。私たちを助けてください」


「俺のメリットは?」


「え?」


「俺もシロも、旅行に来ている。それも、結婚した後の旅行だ。それを、こんな形で不快を感じる状態にしておいて、メリットの提示もなく、俺が助けると思うか?」


「なっ!」


 護衛の男が絶句するが、自分たちが正しいから、俺が協力するのも当たり前だと思っていたのか?


「言っておくぞ、”私を好きにしてください”や”何でもお望みのものを”や”族長が十分な報酬を用意している”とか、約束手形にもならないようなメリット提示は必要ない。明確に、俺がメリットと感じ物を提示しろ、それと、”助ける”だけで意味が通じるほど、俺はお前たちを知らない。自分たちが、幼く愚かだと認識したら、俺たちに関わるな」


「・・・」


「シロ。話は終わった。無力化して、衛兵に突き出すぞ」


「はい」


 シロが動き出そうとした時に、隠れて見ていた人物が俺の前に飛び出してきた。

 遅いよ。このままでは、俺とシロが感じの悪い人間で終わってしまうところだ。


「ツクモ様。お待ち下さい」


「エクトルか?」


「エクトル!」


 やはり、エクトルのところの関係者か?

 俺とシロを知っているから、可能性が高いと思っていたが、間違っていなかったようだな。


「はっ。ツクモ様。姫の無礼は、私の首で・・・。すべてが終わりましたら、私の首を差し出します。どうぞ、それでご容赦ください」


「いらないよ。首なんてもらっても、使いみちがない。それで、エクトル。今度は、しっかりと説明してくれるのだろうな?」


「はい。もちろんです。姫様。ここは、私に任せてください」


 ムーと名乗った少女が頷いたので、俺は刀を納めた。


「シロ」


「はい」


 シロも剣を納めた。

 それから、エクトルが先導する形になる。俺とシロは後ろから、見張っている格好になる。

 俺もシロも、武器から手を離していない。いつでも切れる状態になっている。逃げようとしたら切るつもりだ。


「姫様。抵抗しないでください。私を含めて、皆が死にます。他の者も黙って付いてきてください。噂と流れてきた情報を信じないでください。私が、何も出来ないで無力化された事実を考えてください。里の者が、全員が完全武装で立ち向かっても、ツクモ様とシロ様には傷一つ着けられないと思ってください」


「なっ」「族長なら」


「無理です。いいですか、俺が、何も出来ないで無力化されたのです」


 エクトルが苛ついているのがわかる。一人称が”私”から”俺”に変わった。

 今ここで、正義感から護衛の二人が俺やシロに切りかかったら、全部が駄目になってしまう。それが解っているのだ。なんとしても、無事に話ができる場所まで移動したいと考えているのだろう。俺とシロが許しても、カイとウミが許すかわからない。ムーたちが無事で帰る為にも必要なことになってくる。特に、今の段階でウミがかなり怒っているのがわかる。だから、エクトルも慌てたのだろう。3人の首を落とさせるわけにはいかないから、自分の首を差し出すと言ってきたのだ。最悪は、里が滅ぶ可能性だってある。


 砂浜から、裏路地をエクトルが案内するように歩いた。15分くらいで俺たちが使っている宿屋とは違う宿屋に到着した。


「エクトル。ここは?」


「はい。モデストが借りている宿です。こちらでお話をさせてください」


「わかった。エクトル。今日までのお前の働きと、モデストからの話で、3人のさっきまでの態度は許す。しかし、次は無いぞ?」


「はい。解っております。ツクモ様。10分。いや、5分だけ時間をください」


「わかった。俺は、モデストが用意した部屋で10分だけ待っている。それまでに話をまとめろ。出来なければ、3人は俺に敵対したと考える」


「はっ。ありがとうございます」


 宿に入ると、モデストが待っていた。

 モデストが案内する部屋で待っていることになった。俺とシロを部屋に案内して、飲み物を出してから、モデストもエクトルに合流するようだ。


「モデスト!」


「はい。わかっています」


「それならいい」


 モデストが、俺とシロに挨拶をして部屋を出ていった。


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