第二百四十六話


「旦那様!」


 モデストでもエクトルでもなく、ステファナが最初に部屋に入ってきた。


「本物のステファナが戻ってきたぞ?ステファナ(偽物)の意味は無いぞ?狂信者といつまでも遊んでいる時間は無いからな」


「くっ殺せ」


「え?殺す?ステファナ。偽物のステファナを殺すか?」


「旦那様。面倒事を私に押し付けないでください。殺したら、それで終わりですよ。生かして利用する方法を考えましょうよ」


 ステファナが窓の方向を指差している。

 モデストと下で別れたのだろう。そして、モデストは別で動いているのだろう。


 時間稼ぎをすればいいのだろう。どのくらい引っ張ればいいのかわからないけど、会話は難しい状況だ。ウミが制圧してしまっているので、戦うのも今更な感じがする。殺さないようにして、遊べばいいのか?


「だって、シロ。狂信者の奴隷は欲しくないか?」


「いりません。カズトさん。偽物のステファナが困っていますよ。殺した方が、優しいと思いますよ」


「だってさ。偽物のステファナはどうしたい?逃げ出したいというのは”なし”で頼むな」


「殺せ。我を殺せば、お前たちも終わる」


「そんなことを言われて、殺す馬鹿は居ないよね?死にたくないのなら、死にたくないと言えば命までは取らないのに、面倒な吸血族だな」


「な!」


 そんなにびっくりするようなことは言っていないぞ?

 二番煎じ、三番煎じになっているからな。身内に化けて、襲うのは”吸血族”の十八番なのか?


「シロ。どうしたらいい?」


「カズトさんのやりたいようにすればいいと思います。僕に話を振るのは”なし”でお願いします」


「あっ私も奥様と同じです。私にその”偽物の私”を押し付けないでください」


 まぁそうだよな。

 モデストはまだなのか?


 モデストが来たら、アシュリ(偽物)を押し付けようと考えている。


「ウミ。その偽物のステファナが遊んで欲しいみたいだから、死なない程度に遊んでやってくれ、骨を折るくらいなら問題はない。間違えて、曲がったまま固定してしまってもいい。それから、指の2本や3本や4本や5本くらいなくても平気だろう。耳も目も腕も足も、どちらかがあればいいだろう。喋らないから、口も必要ないだろう」


『わかった!』


 ウミが獰猛な笑いを見せる。

 シロもステファナも黙っている。ウミが傷つけたら、俺が治すと考えているのだろう。それに、殺しに来ているのだから、殺されても文句は無いだろう。


 ウミがステファナ(偽物)で遊ぼうとした所に、タイミングがよくモデストが戻ってきた。


「旦那様。遅くなりました」


「何か用事か?今から、ステファナ(偽物)ウミが遊ぼうとしているから、用事があるのなら、先に済ませてきていいぞ?」


「・・・。旦那様。表に居た者たちは、無力化しました」


「そうか」


「驚かないのですね」


「ステファナが先に戻ってきたことから、モデストが何かをしているのだろうと思っていた。そうか、一人で来るわけがないよな」


「嘘だ!一人で、我らを制圧出来るわけがない!」


 そう思いたいのだろう。

 一人で対処していたと考えればそうだろうな。別に教える必要はない。シロがステファナと一緒に部屋から出ていった。


「うるさい。黙れ!それとも、舌を抜かれたいのか?」


 モデストがステファナ(偽物)に睨みを効かせる。何か、まだ言おうとしたが、ウミの猫パンチが腹に炸裂する。うめき声を上げてから、黙ってしまう。


「ウミ様もえげつないですな。旦那様。エクトルに確認させましたが、違う”族”のようです」


「そうなのか?」


「はい。知った顔ではないと言っています。ここに来て、嘘を言う理由がありませんので、信じて良いと思います」


「わかった。予定通りで問題は無いのか?」


「いえ、少しだけ確認したいことがあります」


 モデストが、ステファナ(偽物)に近づいた。

 いきなり、剣を抜いて手のひらを刺し貫いて、床に貼り付けた。絶叫をあげようと、口を開いた所を、蹴り上げる。


 それで変体が解けたのか、男の体つきに戻る。


「おい。なんで、ステファナ嬢に化けた?」


「あっ」


 シロがステファナを連れて部屋を出たのは、モデストの指示だったのか?

 言われてみれば確かに不思議だ。ここ数日の動きを見ても、ステファナは俺とシロの従者をしているが、姿を見せないように行動している。フードを被っていた。エルフ大陸に上陸する時に、エルフが従者をしていると、文句を言い出すエルフ族が出てくる可能性があると言われたためだ。


「・・・。しら」「そうか、知らないか・・・。言うつもりが無いのなら・・・」


 モデストは剣を更に深く差し込む。


「殺せ!」


「旦那様」


「好きにしていい」


「ありがとうございます」


 モデストは剣を抜いて、首を掴んで自分たちにあてがわれている部屋に向かった。モデストが部屋から出ていってすぐに、ステファナが戻ってきて部屋を片付け始める。


「ステファナ」


「はい」


 どう告げればいいのかわからない。


「旦那様。私の話を聞いてください」


「あぁ」


「旦那様は、私の種族をご存知ですか?」


「種族?鑑定で見られる奴か?」


「はい」


「ハーフダークエルフで間違っていないか?」


「はい。間違いではありません。しかし、種族名はたしかに”ハーフ”ダークエルフなのですが、”人とダークエルフ”の間に産まれたわけではありません」


「?」


「私は、”ハイエルフ”の母親と、”ダークエルフ”の父親の間に産まれました」


「それが、何か問題なのか?」


「・・・。はい。ハイエルフは、この大陸を統べる者たちの種族です。そして、ダークエルフは、”魔”の力を取り込んだ”エルフ”なのです」


 ハーフの意味を考えていたが、確かに、”ダーク”の意味が”魔”を取り込んだのなら、忌み嫌われるのはよく分かる。


「へぇー。それで?」


「ハイエルフは、魔法を使うためには、スキルカードが必要ですが、ダークエルフは”魔物”と同じで属性を持つ魔法が使えます」


「え?ステファナも?」


「はい。私は、”ハーフ”ですので、属性魔法は無理です。スキルカードで言えば、”レベル1か2”程度のことしか出来ません」


「それでもすごいことだと思うぞ」


 レベル1か2というのは、たしかに内容は、驚異ではないように思えるが、スキルカードを使わないで同じことが出来ると、野営の時に役立つスキルが使えるということだ。気になるのが、”鑑定で表示されない”ことだが、魔物を関係した時に使える属性が出ない状況に似ている。


「ありがとうございます」


「そうか、ハイエルフを”崇める”者たちにとっては、”魔”と交わった結果出来た子供の存在は許すことが出来ない。それを重用する、俺やシロなんてもっと許せないのだな」


「はい。そして、歪んだ者たちは、一部でもハイエルフを引き継いでいる私が従者をしているのが許せないのです」


「なんとま・・・。複雑な感情だな」


「もうしわけありません。ここまで酷いとは思いませんでした」


「どういう意味だ?」


「はい。私が訪れようとしているのは、”父親”の出身の村でしたが、確認していた所、”魔物の襲撃があって”全壊してしまっていると報告されています」


「そうか・・・。都合がいい魔物だな」


「モデスト様も同じようにおっしゃっていました。それで、私を監視している者が居て拘束するために、モデスト様が急襲して拘束してくれたのです。そこで、旦那様を殺すと言っていたので、慌てて戻ってきたのです」


 間に合っていないが、面倒なことには違いない。救いだったのは、襲撃者がエクトルの関係者で無かったことだ。

 エルフ族との関係の構築はまだ可能だろう。


 ハイエルフ族との関係は絶望なのは代わりがないが、気にしてもしょうがない。

 港に安全に航行できれば問題にはならないだろう。新種の問題は、今回の話とは別だと考えられる。結局、何も解っていないことだけが判明した。そして、敵が増えたのも認識できた。

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